語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【消費税】大企業には大減税 ~租税特別措置という隠れた補助金~

2013年10月14日 | 社会
 (1)消費増税の閣議決定に至る間、安部首相は消費税による経済落ち込みを防ぐと称して5兆円(消費税2%相当)にも及ぶ財政支出(主として大企業に還元)を実施しようとしている。
 5兆円の財政支出投入の内訳はまだ確定していないが、自民党お得意の国土強靱化(公共事業)のみならず法人減税が含まれようとしている。

 (2)安部首相は、法人減税について自民党税制調査会に指示した。再来年から約2%引き下げることになっている復興特別法人税を1年前倒しして来年から引き下げよ、と。
 当初は税調側の不満が強く、公明党も反対論が強かった。しかし、安部首相は強引に押し切ろうとしている。
 復興財源は、法人減税分だけでなく、所得税や住民税も増税を強いられているのだが、なぜか法人税だけ軽減措置を強行している。あまりにも露骨な法人優遇策だ。
 安部首相が税調に指示した法人優遇策策は、これだけではない。
  (a)復興特別法人税の1年前倒し引き下げ・・・・前記のとおり。
  (b)法人税率本体の引き下げ
  (c)さまざまな租税特別措置による企業の法人税の負担軽減

 (3)消費増税による負担は、最終的には消費者に転化される。月例所定内賃金の安定した引き上げがない中での増税は、内需が低下するからデフレ経済からの脱却には結びつかない【注1】。
 法人税を企業優遇の租税特別措置が大きく浸食している。 → 租税特別措置を縮減し、課税ベース拡大を図る。 → 拡大した分を税率引き下げに回す。・・・・というのが、法人税の引き下げのオーソドックスなやり方だ。
 <例>1980年代半ばの米国レーガン税制改革第2期目。高く評価されてきた。
 ところが、最近では途上国のみならず先進国も法人税率の引き下げを始めた。英国やドイツなどもかつては日本とあまり変わらない40%台の法人税率だったが、今や25%程度にまで急速に下げてきた。グローバル化した経済の下で、法人税引き下げ競争が展開され、その結果、付加価値税や所得税などへの課税強化が進められ、国民全体に悪影響が及び始めた。
 そこで、先進国だけでも法人税の下限を決める協定をつくったり、国連をはじめとする国際組織の中での規制組織の確立など、対抗策の必要性が言われている。
 (2)に見られる安部首相の指示は、グローバル化した世界に対する税制改革の視野を欠いている。

 (4)9月20日、訪米前の安部首相のもとで、麻生太郎・財務大臣と甘利・財政政策担当大臣が会談した際、甘利大臣が「税負担が減った分をどこに使ったか、企業に発表させる方法を考えたい」と提案した。この、減税分を賃上げに回すことを狙った提案を受けて、内閣府などが検討に入った。まずは10月以降、「政労使会議」の場で、経団連、日本商工会議所など経済界の代表に対し、公表を要請する方針で具体化するらしい。経済界は大いに反発するだろうが、政府内では義務化も検討されている。
 大企業が真面目に受け止めるか、疑わしいが、労働界は当然賛成すべきだし、おおいに後押しすべきだ。企業のガバナンスが弱い日本の経営の中で、財務内容の透明化が進むこと自体は歓迎すべきことだ。

 (5)利用実績の公表に似た法律が、政権交代後の2010年3月に成立した。租税特別措置透明化法がそれだ。
 租税特別措置とは、法人税や所得税などの本則の例外を作って、もっぱら減税措置を適用するものだ。その規模が年々拡大し、複雑化している。自民党内で毎年、税制改正に際して業界・担当官庁・族議員が一体となって減税措置要求を繰り広げている。その年中行事は、利益政治の典型例だ【注2】。
 そこで、租税特別措置を利用している法人企業に絞って、どの租税特別措置をどれだけ利用しているのか、全数調査して明らかにしていこうとしたのが租税特別措置透明化法だ。
 ただ、本法成立にあたり、利用実績上位企業の公表案は、野党の自民党(当時)のみならず、与党の国民新党(当時)から、ひいては民主党内からも反対する声が出て、法案から削除されてしまった。惜しいことであった。

 (6)(4)のように法人減税分の利用実績を公表することができるのであれば、租税特別措置の利用実績を企業名でもって公表することにも問題ないことになる。租税特別措置透明化法の改正問題に連動させていくべきだ。
 租税特別措置透明化法の調査結果は、今年の通常国会で初めて公表されたが、ほとんど注目されなかった。今年年内に、第2回目調査の速報値が公表される。ぜひとも個別の租税特別措置ごとに利用実績上位10社程度まででもよいから、公表していくべきだ。
 なぜか。
 租税特別措置は、公平性(本来租税を考える際に最も大切な原則)を犠牲にしてまで、儲かっている企業の税負担を軽減することで政策目的を達成しようとするものだ。予算でいえば、補助金の相当するものなのだ。「隠れた補助金」だ。
 利用する側は、何をどれくらい使っているか、堂々と利用実績を公開すべきだ。
 透明化こそ、いま税制に一番求められている課題なのだ。

 【注1】簡易な給付措置(住民税非課税世帯等に年額1万円程度を1回限り)を用意しているようだが、焼け石に水。
 【注2】「【消費税】租税特別措置という巨大利権

□峰崎直樹(前内閣官房参与)「国民には消費増税で負担増 大企業には減税の大盤振る舞いでいいのか」(「週刊金曜日」2013年10月11日号)

 【参考】
【消費税】増税しなくても10兆円増収する法 ~金持ちの「高い所得税」の抜け穴~
【消費税】租税特別措置という巨大利権
【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~
【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~
【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~
【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
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