(6)株式会社至上主義
<企業経営者の道徳的義務とは、社会や環境といったことよりも株主の利益を最大限あげることだ。モラルも善意も、それが収益に結びついている場合のみ容認される>【ミルトン・フリードマン】
株主至上主義は、IT革命とグローバリゼーションで国境を超えた企業の規模を急速に拡大させた。激しい価格競争の中で効率化が進み、株主、経営者、仕入れ先、販売先、労働力、消費者、特許、税金対策用本社機能にいたるまで、すべては最低コストで最大利益をあげる場所へと移されていく。
多国籍化に加え、「略奪型ビジネスモデル」による株主利益拡大を後押ししたのは、規制緩和する数々の法改正だ。
かくて米国では、金融、食品、農業、慰留、教育、軍需などのさまざまな分野でピラミッド型の支配構造が確立した。上位1%層(多国籍企業や投資家)が、今や国全体を左右する影響力を発揮している。
さらなる市場拡大のために、あらゆるものを「商品」化する戦略の中、今まで守られてきた分野まで、じわしわ侵食し始めている。三権分立のチェック・アンド・バランスも、国民の幸福を最優先する「公益」という概念も。それは、国の存続のために決して失ってはならない、と建国の父たちが警告したものだ。建国の父たちは、少数の為政者に権力が集中することを懸念した。その懸念は、事実となった。
ただし、米国民の主権を奪っているのは、従来のように暴力で支配する独裁者ではない。極めて洗練された形で合法的に国全体を市場に変えた、顔のない1%層だ。
2009~12年の3年間で、上位1%層の所得上昇率は31.4%、残り99%層はわずか0.4%だ。国民総世帯所得に占める所得率は、上位1%層が19.3%、上位10%層では50.4%(つまり半分以上)だ。
ここまで二極化した原因の一つは、加速する公的分野の民営化だ。
(7)さらなる「自由」 ~誰にとっての自由か?~
ブレーキが壊れた市場原理主義者に呑まれ、国家レベルの貧困ビジネスを回していくために社会の底辺に落とされた人々が大量に消費されている米国。
国民は、市場を独占した企業群が、自分たちの国を株式会社化することに気付かなかった。
2001年10月、「テロとの戦い」を理由に通過した「愛国者法」による言論統制と監視体制の強化。議会を通過する危険法案への無関心によって、合法的に自分たちの権利を明け渡してしまった。
自国を企業天国にすることに成功した米国の企業群が、市場を他国に広げようとする際、障害になるのは各国の国内法だ。
それらを超越する新しいルールとして、今、環太平洋連携協定(TPP)、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)、偽造品取引防止協定(ACTA)、経済調和協定(EHI)といった2国間、または多国間貿易協定が次々に進められている。
自由貿易の「自由」は、いったい何に対してかかるのか。
解放されるべきは、さらなる資本なのか、それともピラミッド型支配構造の下で主権を奪われた人々の方か?
(8)私たちは何を失ってはならないか
日本では、TPP参加する前に、米国の圧力ですでにさまざまな規制緩和が行われている。
政府は、3・11後、ネットを監視する業務を民間企業に委託した。欧州が輸入禁止している米国産牛肉の安全性に係る大幅な規制緩和行った。多数の国々が拒否している遺伝子組み換え(GM)食品の輸入を拡大した。郵便局が持つ簡保を凍結し、米国の保険会社を参入させることを決定した。医療関連公式文書の中から「国民皆保険の堅持」が消された。代わりに、例外も容認する「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」という文言が、1年前、さりげなく加えられた。
米国の「愛国者法」に内容が類似した「特定秘密保護法案」が、国民からのパブリックコメントを通常の半分の期間で早々と締め切り、国会提出まで秒読み段階だ。
安部政権が掲げる国家戦略特区構想では、東京、愛知、大阪府市の3都市における大胆な規制緩和を計画中だ。戦略特区の目的は、「企業の利益を最大化する環境整備」。公教育の中身を民間委託できるようにする学校経営への株式会社参入、混合診療の全面解禁、雇用条件の規制緩和など、この10年間の米国をなぞるような政策が、進められている。
2013年2月28日、安部首相は施政方針演説において、ハッキリと断言した。
「世界で一番、企業が活躍しやすい国を目指します」
□堤未果(ジャーナリスト)「株式会社化する国家 奪われる私たちの選択」(「世界」2013年11月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(2) ~社会保障~」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(1) ~教育~」
<企業経営者の道徳的義務とは、社会や環境といったことよりも株主の利益を最大限あげることだ。モラルも善意も、それが収益に結びついている場合のみ容認される>【ミルトン・フリードマン】
株主至上主義は、IT革命とグローバリゼーションで国境を超えた企業の規模を急速に拡大させた。激しい価格競争の中で効率化が進み、株主、経営者、仕入れ先、販売先、労働力、消費者、特許、税金対策用本社機能にいたるまで、すべては最低コストで最大利益をあげる場所へと移されていく。
多国籍化に加え、「略奪型ビジネスモデル」による株主利益拡大を後押ししたのは、規制緩和する数々の法改正だ。
かくて米国では、金融、食品、農業、慰留、教育、軍需などのさまざまな分野でピラミッド型の支配構造が確立した。上位1%層(多国籍企業や投資家)が、今や国全体を左右する影響力を発揮している。
さらなる市場拡大のために、あらゆるものを「商品」化する戦略の中、今まで守られてきた分野まで、じわしわ侵食し始めている。三権分立のチェック・アンド・バランスも、国民の幸福を最優先する「公益」という概念も。それは、国の存続のために決して失ってはならない、と建国の父たちが警告したものだ。建国の父たちは、少数の為政者に権力が集中することを懸念した。その懸念は、事実となった。
ただし、米国民の主権を奪っているのは、従来のように暴力で支配する独裁者ではない。極めて洗練された形で合法的に国全体を市場に変えた、顔のない1%層だ。
2009~12年の3年間で、上位1%層の所得上昇率は31.4%、残り99%層はわずか0.4%だ。国民総世帯所得に占める所得率は、上位1%層が19.3%、上位10%層では50.4%(つまり半分以上)だ。
ここまで二極化した原因の一つは、加速する公的分野の民営化だ。
(7)さらなる「自由」 ~誰にとっての自由か?~
ブレーキが壊れた市場原理主義者に呑まれ、国家レベルの貧困ビジネスを回していくために社会の底辺に落とされた人々が大量に消費されている米国。
国民は、市場を独占した企業群が、自分たちの国を株式会社化することに気付かなかった。
2001年10月、「テロとの戦い」を理由に通過した「愛国者法」による言論統制と監視体制の強化。議会を通過する危険法案への無関心によって、合法的に自分たちの権利を明け渡してしまった。
自国を企業天国にすることに成功した米国の企業群が、市場を他国に広げようとする際、障害になるのは各国の国内法だ。
それらを超越する新しいルールとして、今、環太平洋連携協定(TPP)、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)、偽造品取引防止協定(ACTA)、経済調和協定(EHI)といった2国間、または多国間貿易協定が次々に進められている。
自由貿易の「自由」は、いったい何に対してかかるのか。
解放されるべきは、さらなる資本なのか、それともピラミッド型支配構造の下で主権を奪われた人々の方か?
(8)私たちは何を失ってはならないか
日本では、TPP参加する前に、米国の圧力ですでにさまざまな規制緩和が行われている。
政府は、3・11後、ネットを監視する業務を民間企業に委託した。欧州が輸入禁止している米国産牛肉の安全性に係る大幅な規制緩和行った。多数の国々が拒否している遺伝子組み換え(GM)食品の輸入を拡大した。郵便局が持つ簡保を凍結し、米国の保険会社を参入させることを決定した。医療関連公式文書の中から「国民皆保険の堅持」が消された。代わりに、例外も容認する「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」という文言が、1年前、さりげなく加えられた。
米国の「愛国者法」に内容が類似した「特定秘密保護法案」が、国民からのパブリックコメントを通常の半分の期間で早々と締め切り、国会提出まで秒読み段階だ。
安部政権が掲げる国家戦略特区構想では、東京、愛知、大阪府市の3都市における大胆な規制緩和を計画中だ。戦略特区の目的は、「企業の利益を最大化する環境整備」。公教育の中身を民間委託できるようにする学校経営への株式会社参入、混合診療の全面解禁、雇用条件の規制緩和など、この10年間の米国をなぞるような政策が、進められている。
2013年2月28日、安部首相は施政方針演説において、ハッキリと断言した。
「世界で一番、企業が活躍しやすい国を目指します」
□堤未果(ジャーナリスト)「株式会社化する国家 奪われる私たちの選択」(「世界」2013年11月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(2) ~社会保障~」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(1) ~教育~」