第25章「日蓮」はこちら。
史劇を愉しむシリーズの一環のつもりだけれど、愉しむというフレーズがこれほど似合わない映画もめずらしい。
「シンガポールへの道」と「愛は波濤をこえて」の二部構成(あいだに休憩が入ります)だが、太平洋戦争序盤の戦勝いけいけの部分はほんのわずかで、軍部の状況把握の不十分さによって、日本人だけでなく、日本軍に協力したために不幸になっていく現地民をきっちりと描くことが主眼のよう。
「二百三高地」が大ヒットしたので、舛田利雄監督、笠原和夫脚本のコンビが続投。懸念は、乃木希典の拙劣な作戦によって苦境に陥った旅順のたたかいが、しかし結果として勝ち戦だったのに比べ、今度は“70年間膨張をつづけた帝国”の悲惨な末路を描いていること。
公開は82年。前作において明治天皇(三船敏郎)への乃木希典(仲代達矢)の狂気に似た崇拝を描いたのと同様、昭和天皇(市村萬次郎)への東條英機(丹波哲郎)の忠誠が強調される。
一応、昭和天皇は平和を希求していたという構えにはなっているけれど、笠原和夫さんは「昭和の劇」で「少なくとも退位すべきだった」と、暗に自裁を期待していた人だから、天皇の戦争責任を観客に叩きつけるような脚本になっている。だからこそ、勇ましい映画にはなりようがなかったわけだ。
ワンシーンしか登場しない石原莞爾に若山富三郎、近衛文麿に仲谷昇、阿南惟幾に近藤宏。負け戦の連続なので山本五十六も山下奉文も出てきません。
他にあおい輝彦、三浦友和、夏目雅子、篠田三郎、佳那晃子(好きでした)、軍曹役がはまりまくっている佐藤允。おそらく舛田利雄監督は、あおい輝彦とセックスばかりしている髙橋惠子(当時は関根恵子)に、庶民のつらさと強さを仮託しており、すばらしい演技。
このタイトルで主題歌は五木ひろし……82年当時のわたしが見るはずもない映画でしたが、見応えありまくりです。
第27章「海ゆかば 日本海大海戦」につづく。
東京裁判も罪深いよね。
まあ大川周明というトリックスターがいた
おかげでだいぶ相対化(違うか)はされたけれども。
日本人がまだ太平洋戦争を被害者の立場でしか
語れないところを、笠原脚本は
がんばったと思います。