事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(2011 東映)

2012-01-05 | 邦画

Isorokuimg01 静かな映画だった。皮肉でもなんでもなく、礼儀正しい作品だと感服。

監修・原作が半藤一利だからおよそ大戦争活劇にはなりえないのは承知。登場人物たちは(いつもの戦争映画のように)絶叫したり号泣したりはしない。

ミッドウェイにおける有名なミスをおかした南雲忠一(中原丈雄)は、山本五十六(役所広司)の前で表情を殺し、しかし嗚咽をこらえきれなくなる。ああそうだよな、大人が泣くというのはこういうことだ。

炎上する長岡から映画は始まる。山本五十六の原風景が、戊辰戦争だとはっきり主張しているわけ。司馬遼太郎の「峠」を読んでおいてよかったなあ。作り手が山本五十六に河井継之助のイメージを付託しようとしているのが歴然。

以後も五十六(お父さんが56歳のときの子だからこの名前なんですって)が長岡にこだわる描写が連続。だから薩摩と長州出身の飛行士たちとの交流も味わいがある。

まあ、こんな具合だからちょっとお説教くさいのは仕方がない。山本家が圧倒的に粗食で、魚の煮付けを五十六みずからが切り分けるシーンなど、日本の正しい家族のあり方のプレゼンテーションだろう。

半藤がしかしこの作品で語りたかったのは「昭和史」のときと同じように

“引き返すことができたはずなのに、なぜできなかったか”だ。

あの戦争には、五十六が主張するように早期講和にもちこむポイントがいくらもあった。しかし軍の中枢、および無能な官僚がそれを妨げた、と。このポイントをクリアにするために、天皇に関する描写は驚くほど少ない。

日本人は忘れやすく、責任の所在をあいまいにしがちだ。だから山本五十六という人物をとおして、その辺の落とし前はきっちりつけるぞ、がテーマになっている。だから見終わると大量の宿題を先生に出された気分になります。ちゃんとこの宿題はやんなきゃな、という気分にも。

五十六の後ろ盾で、悪所通いが好きな粋人という米内光政海軍大臣を柄本明が軽く演じていてすばらしい。そして、吉田栄作がいつの間にこんないい役者になっていたのかとびっくり。

それらアンサンブルの中心に、いつも甘いものをパクついている穏やかな勝負師として五十六を演じた役所広司がいて、やはり名優だとつくづく。

ああこの映画にはもっと語りたいことがいっぱいある。以下次号

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本フォーク私的大全~8曲目... | トップ | 山本五十六ふたたび。 »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
山本五十六、戦争物はなかなか動員が難しいと思う... (スナックのママ)
2012-01-06 00:25:20
山本五十六、戦争物はなかなか動員が難しいと思うのに、静かにヒット中ですってね。
腰痛がなければこの休み中に観放題だったのに…悔しい!
吉田栄作、「相棒」の新春スペシャルにも出てたけど、いい顔になったよねぇ。
返信する
三川で出羽戦士ガ・サーンショー観覧時、 (ぱたた)
2012-01-06 08:38:09
三川で出羽戦士ガ・サーンショー観覧時、
怪人ジンメギョンが「これがガ・サーンの正体だ」と
きったない絵で顔だけその画像の役所さんに
切り抜いて貼ってました。最前列で大爆笑!
後に私は壇上に上げられ怪人と笑いを取りました。

映画に触れてませんが本年も宜しくお願いしますm(__)m
返信する
>スナックのママさんへ (hori109)
2012-01-07 13:37:54
>スナックのママさんへ
こういう呼び方もどうかと思うけど(笑)

吉田栄作はアメリカに行って、というか挫折して
よかったんじゃないかと思うくらいでしたね。
美男なのに演技ができる、とくれば阿部寛と
かぶっちゃうなー。
返信する
ぱたたさんへ。 (hori109)
2012-01-07 13:44:03
ぱたたさんへ。
今年もよろしくー。

はたして山形以外の人にガ・サーンやジンメギョンが
何を意味するかはなはだ心許ないけど(笑)
おいしいイベントははずさないねえ。

ところで映画では、ファナティックな感じを椎名桔平が
うまく出してて彼もいい感じ。
役者がみんないいということは……監督がよかったのかもね。
返信する
礼儀正しい映画!というのが言い得て妙ですね。 (sakurai)
2012-01-09 10:46:20
礼儀正しい映画!というのが言い得て妙ですね。
その部分を痛切に感じました。
明治生まれの男たちの気慨みたいなもんでしょうか。
TVで3年がかりの「坂の上の雲」を見たばっかりだったもんで、特にそう感じました。
そして、意志に反して戦争に突入せねばならなかった葛藤を持ちながら、全部背負う覚悟をキチンと背負ってる。
その辺が、ただ大声で叫ぶことなく、リアルさを求めるあまりの残虐さをあおることなく、バランスよく描かれていたと思います。
まあ、県人としては、南雲が悪役の対比役としてわかりやすく描かれていたのは、まあしようがないかなあ…でしたが。

社会科の教員として、その宿題をずっと背負ってきたつもりです。まだ終えてないですが、これからも取り組んでまいる所存です。
返信する
ああそうでしたね、南雲が米沢出身なのは他の社会... (hori109)
2012-01-09 18:01:38
ああそうでしたね、南雲が米沢出身なのは他の社会科の先生に
教えてもらうまで知りませんでした。
確かに大きな宿題。

今回の映画で強調されているのが、五十六が亡くなって以降の
死者が戦死者の9割だったということ。
そりゃ結果論だろや!という意見もあるでしょうけど、
やっぱりこれはちょっと。
外交手段の最終章として戦争があるというなら、すでに読み終えた
物語をいつまでも引きずったのが日本軍なんでしょうか。
返信する

コメントを投稿

邦画」カテゴリの最新記事