日比谷映劇でロードショーされたとき(映劇はとっくになくなっているし、ロードショーはほとんど死語だが)、初日の動員数がいきなり新記録をつくり、「この業界、日本新はたいがい世界新なんで、世界記録らしいです」(角川春樹)というぐらいの大ヒットになった。
角川書店は初手から映画作りに意欲的だったのに、実現までにはいろいろと紆余曲折があったらしい。
横溝正史の原作の中では、わりとマイナーな「犬神家の一族」が映画化に選ばれたのはそれなりの理由があり、実は代表作「八つ墓村」の方が計画は先だったのだ。ところがその頃も松竹は商売のセンスがなく、ダラダラと長引かせて角川春樹を激怒させることになった。そのために、他社との提携に積極的だった(つまり自前で映画作りを放棄しはじめていた)東宝が先行することになったのだ。
で、始まったのがかの有名な大物量宣伝作戦。その少し前からブームの兆しがあった横溝正史の文庫本のなかに、劇場の割引券になるしおりをはさみこんだのはこの映画が嚆矢だった気もするし、湖から突き出された二本の足のポスター(あれ、ちゃんとあおい輝彦の足を型取りしたのだそうだ)は誰でもおぼえているぐらいに露出した。
メディアミックスという言葉がこの当時にあったかは定かではないにしろ(角川春樹の頭にあったのは「ある愛の詩」だった)、結果は大成功。映画はヒット文庫本はバカ売れ直後にTV化されたTBSのドラマも驚異の視聴率……角川商法はここに確立した。
この角川商法、当時から否定的な意味合いで語られることが多いけれど、わたしは評価する。伝統ある日本映画界が本屋に牛耳られてどうすんだ、と守旧派たちはふんぞりかえり、ま、劇場(こや)は貸すけどな、と含み笑いを浮かべていたのだろうが、もうその頃は日本のメジャー各社の企画は旧弊で観客の嗜好を読み切れず、かろうじて寅さんとやくざ映画、そしてロマンポルノで食いつないでいたのではなかったか。
きちんと予算を立て、映画作りでペイしようというプロデューサーの出現は必然だったのだと思う。まあその最初の横紙破りが、とてつもなくエキセントリックな人間だったからみんなびっくりしただけで。
で、その角川商法だけが語られたせいでこの映画自体の評価はおろそかになっている気がする。「犬神家の一族」面白いのである。今見ても十分に。以下次号。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます