マンチュリアン・リポート (100周年書き下ろし) 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2010-09-17 |
満州事変の真相を知るために、密偵として満州に送り込まれたのは「天皇は人間である」として治安維持法改悪を批判した軍人であり、送りこんだのは昭和天皇自身だった……こんなトンデモ設定を成立させているのは
「ふいに、前を歩んでいた二人の女官が屈みこんだかと思うと、滑るように膝行した。膝を揃えたまま、両手で櫂を操るように漕ぎ進むのである。女官たちの慣れた動作についてゆくのは難しかった。」
というような描写の力にある。「蒼穹の昴」「中原の虹」などにつづくドラゴンボールサガの最新作。めざしたのは物語るダイナミズムよりも司馬遼太郎的な思想信条の発露にあったようで
「(日本が)植民地を欲しているのではなく、すべてを欲しがっているのだ」
あるいは
「キリストは目に見えないが、現人神は具体があるので、責任をなすりつけることができるのです」
という浅田なりの日中戦争観が鋭い。張作霖、西太后、そして春雲の“祭りの後”が哀しく、そして清々しい。挿入される英国製の機関車のモノローグには、みんな一斉に「トーマスかよっ!」とつっこんだはず。