事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ディア・ドクター」 (2009 アスミック・エース)

2010-06-14 | 邦画

Deardoctor02   ニセ医者のお話。主演の笑福亭鶴瓶、助演の瑛太、そして脚本・監督の西川美和には、キネ旬ベストワンをはじめとして絶賛の嵐。

 確かに、すばらしい映画だ。鶴瓶がニセ医者だとまだ観客が気づく前に

「わたし、免許ないんですわ」

と語らせ、それが運転免許のことであるあたり、脚本がとてもしゃれている。ほかにもダブルミーニングなセリフがけっこう仕込んであるので、西川自身の原作を読んでみようという気にさせられる。題名にしてからが「ディア・ハンター」のもじりだろうし。

「ゆれる」で観客を不安に陥れたタッチと違い、まるでウェルメイドなハリウッド映画のように語り口はなめらかだ。鶴瓶の起用は、その意味でも大正解だったと思う。

 しかしこの映画は、すべての要素を超えて『八千草薫の映画』ではないだろうか。

夫に闘病生活を強いたことを悔い、娘たちに負担をかけたくないために胃痛の不安を抱えながら静かに暮らす未亡人。鶴瓶がニセ医者だとうすうす感づきながら、その診断に身を委ねることで、自らを偽り続ける気丈さと気弱さの同居。いつもの聖母のような表情にくわえ、驚くほど険しい翳りも見せて作品に深みを与えている。ちょっとネタバレだけど、だからこそあのラストは効く。いつも聴いている夫の残したテープに入っているのは馬生の落語。趣味もいい。

彼女以外に村で鶴瓶の事実を知るのはわずかに二人。その二人を演じるのが余貴美子と香川照之。これ以上は望めない鉄壁の布陣。なぜ鶴瓶はニセ医者としての生活を続けたのか、そしてなぜ終止符をうつことにしたかを、彼らは静かに感じさせる。

「ゆれる」で圧倒的な評価をえながら、次の作品までアルバイトでしのいだ西川は、俳優の使い方でも超一流であることを証明して見せた。どうかもっと安穏な生活が彼女に訪れますように(^o^)

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コメント
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