事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「坂の上の雲」と日本人 関川夏央著 文藝春秋刊

2009-08-18 | 本と雑誌

413sqs6af7l 司馬遼太郎が「坂の上の雲」を連載したのは右翼新聞であるサンケイであり、その時期も60年代末から70年代初頭にかけて。

日露戦争をあつかい、登場人物は東郷平八郎、児玉源太郎、明治天皇、山県有朋……そりゃ、“反動”だと思われたはずだ。

関川夏央は時代の気分であるサヨクの暴走を戒める、というスタンスの人だから、司馬の著作の背景を冷静に語ると同時に、ゆきすぎた(と関川が感じる)乃木希典無能論の方も検証していく。それら両方向からのアプローチが、日露戦争と明治、そして戦後の日本が(日露にしろ、太平洋戦争にしろ)なぜ弛緩していったかを有効に語っている。

少なからず牽強付会ではないかと思う部分ももちろんあるけれど(それがなかったら関川じゃない)、時代を鳥瞰した司馬の、なお上から語れるライターはそうはいない。たとえ後出しジャンケンだとしても、これはかなりの仕事ではないか。

NHKの「坂の上の雲」がどんな切り口を見せるか、楽しみに思える一冊でもある。

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「百万円と苦虫女」(2008 日活)

2009-08-18 | 邦画

1000000yengirlp 監督、脚本:タナダユキ 出演:蒼井優 森山未來 ピエール瀧 佐々木すみ江

「自分をさがすために」ではなくて「自分をさがさないために」100万円を貯めると見知らぬ場所へ移り住む21才の女性。これは説得力ある。

 ほんの小さなことで前科者となった彼女は、自分では否定するもののやはり逃避行のなかにいる。どんな場所でも善意の人物と出会っているのに、彼女はもう一歩踏み出して人間関係を構築することができない。

 大ヒットしたのが納得できる。誰もが、こんな生活を夢見て、そしてこんな生活がしんどいことに気づいている。

 蒼井優が、もう絶対に彼女でなければやれない役をみごとに演じている。過去を告白した途端、いたたまれずに(いつもだけど)眉間にしわを寄せて早足で歩く彼女はほんとうに美しい。

 印象深いのは二つ目のエピソード。主人公の鈴子は桃の収穫を手伝って百万円をめざす。うっすらと紅い桃が主人公の傷つきやすさを象徴している。実直な農家の長男を演じたピエール瀧が笑わせてくれます。いるよねこういう人。

ちょっとネタバレだけど、ラストで鈴子を追いかける森山未來がつぶやくセリフがすばらしい。

「こんな簡単に間違えちゃダメだよな」

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