司馬遼太郎が「坂の上の雲」を連載したのは右翼新聞であるサンケイであり、その時期も60年代末から70年代初頭にかけて。
日露戦争をあつかい、登場人物は東郷平八郎、児玉源太郎、明治天皇、山県有朋……そりゃ、“反動”だと思われたはずだ。
関川夏央は時代の気分であるサヨクの暴走を戒める、というスタンスの人だから、司馬の著作の背景を冷静に語ると同時に、ゆきすぎた(と関川が感じる)乃木希典無能論の方も検証していく。それら両方向からのアプローチが、日露戦争と明治、そして戦後の日本が(日露にしろ、太平洋戦争にしろ)なぜ弛緩していったかを有効に語っている。
少なからず牽強付会ではないかと思う部分ももちろんあるけれど(それがなかったら関川じゃない)、時代を鳥瞰した司馬の、なお上から語れるライターはそうはいない。たとえ後出しジャンケンだとしても、これはかなりの仕事ではないか。
NHKの「坂の上の雲」がどんな切り口を見せるか、楽しみに思える一冊でもある。
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