出演:勝新太郎 樋口可南子 陣内孝則 片岡鶴太郎 ジョー山中 三木のり平 北見治一 内田裕也 緒形拳
贅沢に、というか大いなる無駄遣いの果てに完成された作品。勝新太郎がその想いのすべてを叩きこんだ映画。同時に、出演していた息子の奥村雄大が“本身”(ほんみ=真剣)を使用して役者を死亡させた血塗られた作品でもある。
子母沢寛の短篇に、およそ数行しか登場しない「めっぽう腕の立つ仕込み杖を使う按摩」を座頭市としてキャラを立てたのは名脚本家の犬塚稔。
100才をこえて先年に天寿を全うしたこのおじいちゃんの著作を読むと、この人は要するにケンカばかりしていたのである。あふれる才能がその事実をねじふせていたに違いないのだが、彼が勝新太郎との相克をそのなかで記述していて、勝はいきなり犬塚の前で土下座し「どうか先生、座頭市の新作を」と懇願したとある。
しかし勝が本気でそう思っていたかは微妙なところだろう。内心は「いつかオレの思うがままの座頭市を撮ってやる」という野心で満々だったのではないか。
その結実がこの作品。音楽畑出身の陣内孝則、ジョー山中、ロケンローラー内田裕也を気持ちよさそうに演じさせ、本人も三木のり平との人情芝居に力を入れる。きわめつけは緒形拳との決闘。闘うべき理由がおよそないからこそ観客が納得できる一瞬の斬り合い。勝新太郎自身も納得の出来だったはず。わたしはこの映画が本当に好きです。もう一回見ようかな。
※役者で忘れられないのが北見治一。この人と勝新のからみは絶妙で、特に「警視-K」(1980 日テレ)でのコラボはすばらしかった。記録的な低視聴率だったあのテレビドラマで、妙に忘れられないシーンがある。
勝新は実娘である奥村真粧美にラストでこうつぶやく。
「目玉焼きのことを英語で何て言うか知ってるか?」
「……」
「サニーサイドアップ、っつんだ。」
おそらくは完璧なアドリブ。「座頭市」も、そんな自由さにあふれています。