事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「座頭市」 (1989 松竹)

2009-08-29 | 邦画

Jsa0088s_l 監督:勝新太郎 脚本:勝新太郎、中村努、中岡京平

出演:勝新太郎 樋口可南子 陣内孝則 片岡鶴太郎 ジョー山中 三木のり平 北見治一 内田裕也 緒形拳

贅沢に、というか大いなる無駄遣いの果てに完成された作品。勝新太郎がその想いのすべてを叩きこんだ映画。同時に、出演していた息子の奥村雄大が“本身”(ほんみ=真剣)を使用して役者を死亡させた血塗られた作品でもある。

子母沢寛の短篇に、およそ数行しか登場しない「めっぽう腕の立つ仕込み杖を使う按摩」を座頭市としてキャラを立てたのは名脚本家の犬塚稔

100才をこえて先年に天寿を全うしたこのおじいちゃんの著作を読むと、この人は要するにケンカばかりしていたのである。あふれる才能がその事実をねじふせていたに違いないのだが、彼が勝新太郎との相克をそのなかで記述していて、勝はいきなり犬塚の前で土下座し「どうか先生、座頭市の新作を」と懇願したとある。

しかし勝が本気でそう思っていたかは微妙なところだろう。内心は「いつかオレの思うがままの座頭市を撮ってやる」という野心で満々だったのではないか。

その結実がこの作品。音楽畑出身の陣内孝則、ジョー山中、ロケンローラー内田裕也を気持ちよさそうに演じさせ、本人も三木のり平との人情芝居に力を入れる。きわめつけは緒形拳との決闘。闘うべき理由がおよそないからこそ観客が納得できる一瞬の斬り合い。勝新太郎自身も納得の出来だったはず。わたしはこの映画が本当に好きです。もう一回見ようかな。

※役者で忘れられないのが北見治一。この人と勝新のからみは絶妙で、特に「警視-K」(1980 日テレ)でのコラボはすばらしかった。記録的な低視聴率だったあのテレビドラマで、妙に忘れられないシーンがある。

勝新は実娘である奥村真粧美にラストでこうつぶやく。

「目玉焼きのことを英語で何て言うか知ってるか?」

「……」

「サニーサイドアップ、っつんだ。」

おそらくは完璧なアドリブ。「座頭市」も、そんな自由さにあふれています。

コメント (2)
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「快盗タナーは眠らない」 ローレンス・ブロック著 創元推理文庫

2009-08-29 | ミステリ

4488268021 脳に銃弾を受けて眠りを失ってしまったが、その代わりに語学力と万巻の書からの知識を得たエヴァン・タナー。ギリシア・トルコ戦争のさいに集められた300万ドル分の金貨が、今もまだ埋もれているとの情報を得た彼は、そっくり手にいれようと旅立つが、トルコで秘密警察に逮捕されてしまった! 決死の脱出に始まり、ヨーロッパを股にかける大冒険。異能ヒーローが活躍するブロック初期の痛快シリーズ、ここに開幕!

「泥棒バーニイ」「殺し屋ケラー」「探偵マット・スカダー」の前に、こんなシリーズをブロックが60年代に書いていたとは知らなんだ。

惹句は「インディ・ジョーンズ+007+ルパン三世」という無茶なものだが(笑)、アルメリアの虐殺や東欧の政治状況をこれでもかと描きこんでいてすばらしい。まあ、それが60年代という時代だったのだろうが。

朝鮮戦争の負傷以来、一度も眠れない男が主人公という設定にしても、はなから過激に政治的ではないか。ブロックに若書きの時期がなかったのかとつくづくあきれる。おそるべき小説職人なり。東京創元社は次の作品も刊行すること。買います。

で、「タナーと謎のナチ老人」特集につづく

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