陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

謎めいた部屋の話

2007-03-02 22:26:11 | weblog
いま知り合いの外国人が書いた小説の翻訳をしているのだけれど、まぁ本筋とは関係ないからここで紹介してもいいだろう。こんな部分があるのだ。

彼が荷物を取りに行っているあいだに、彼女はトイレに行った。謎めいた部屋から彼女が出てくるのを待っている時間、多くの男が不思議に思っていることを考えた。なぜ、女性というものはいつも行く先々で、トイレに消えてしまうのか。この部屋で彼女たちが過ごす長い時間は、彼にとっては永遠に不可解なことだった。男は入り、そして出てくる。女は入り、永遠に消えてしまうのではないかと思われる。女性がトイレから出てくるのを外で待つために、いかに多くの時間を生涯で費やすかと考えると、不思議な気がした。

なるほど。
いずこも同じ、秋の夕暮れ、である(季節外れはわかっているのだが、どうしても「いずこも同じ…」とくると、「秋の夕暮れ」がついてきてしまうのだ)。
ショッピングモールに行っても、駅へ行っても、トイレの前にはお兄ちゃんたちが所在なさそうな顔をして、もしくは携帯を開くか、タバコを吸うかして連れが出てくるのを待っている。彼らはみな「不可解」な思いで待っているのだろう。

ところでわたしも女友だちとどこかへ行くと、どうも先に出て、外で待ってしまう。
この短編小説のなかでは、彼女は唇を濃く赤く光らせて出てくるために、彼の方は、ああ、彼女は自分のためにわざわざ化粧直しをしてくれたのだなあ、とうれしくなる、という部分が続くのだけれど、お化粧なんてしない年代の頃から、やっぱり多くの女の子はどういうわけか時間がかかるのだった。

たまに、わたしのこれまでの経験によると、五人に一人ぐらいの割合だろうか、わたしと同じように、「入り、そして出てくる」子はいたのだ。そういう子が相手だと、待つ必要もなく、とっととそこを出て、つぎの場所に向かった。
この五人に一人は、五人に一人同士が出会うのでない限り、男の子に混じって外で待つ羽目になる。
わたしはいまだに五人に四人が何でそんなに時間がかかるのかよくわからない。

ところでこのあいだこんなことがあった。
わたしがトイレから出てくると、わたしのすぐうしろを歩いていた高校の制服を着た女の子が、外で待っていた同じ制服の女の子に声をかけた。
「お待たせぇ。でも、アンタ、いっつもトイレ早いなあ」
「そやねん。けどな、みんな何しててそんなに長いん? あたし、いっつも待ってばっかりやん」

やはり、いずこの五人に一人にとっても、男性と同じように、五人に四人が謎めいた部屋で何をしているかは謎なのである。
「永遠に消えてしまうのではないかと思われる」ほど長くいらっしゃるマジョリティのみなさん、どうか何をしているか、コッソリ教えてください。