お月様を背に、再び、
ゴロンと寝そべって、
信長「親父殿は、明智の奥方を如何に思っておったか、濃?」
やはり逆光が、発言の意図と、
表情と、その心を読ませない。
帰蝶「さぁ…。私、人の心など読めませぬ。ましてや、父の心など…」
嫁いで十余年、父の死去から四年過ぎ、
「近くて、遠い存在となりました」
遠くにおられる、お月様を眺めるため、
信長「ふん」ゴロと、私に背を向けた。
新婚の、あの夜と同じお月様は、
悩む若夫婦を、煌々とあざ笑う。
帰蝶「殿、あの時の月夜…覚えておられますか?」
信長「知らぬ、忘れた」
帰蝶「私も、そんな昔、とう忘れてしまいました」
私が嫁いで間もなく、織田の父秀信様が流行病で急逝、
その後、平手様の諌死と続き、殿は父の肖像を失った。
父の理想を闇夜で模索、答え無き問いに答えを求める。
まだ若い父の肩から背中にかけて、ゆっくりと撫でて、
「父は父、殿は殿。殿が父、これからにございましょう」
華奢な体に備わった筋骨。逞しい筋肉がそこにあった。
反面その内面は起伏が激しく、敏感で、繊細であった。
信長「濃よ。そなた…尾張の妻で良かったか?」
帰蝶「どこの姫が好き好んで、うつけの妻に成りましょう?」
そう言い返すと、
信長「…」
大きなネネが、黙ってしまった。
帰蝶「…私、母の心知りませんが、マムシの娘で良うございました」
信長「そうか」この私の言葉で、
殿のいかった肩が少し下がった。