ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

Pray For...

2011-03-31 | 日記
明日からプログラム更新されます。
4月~6月までの予定表です。
ご確認の上、ご予約下さい。

Pray…祈りが、世界の祈りが、
日本に集っている…そう感じます。
感謝の気持ちで、このプログラムを演じたいな…と思います。



世界の、共に生きる人々に感謝を…。

ありがとう…


紅の花

2011-03-31 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「じゃ、俺らも…」と継と忠を引っつかんで、松尾に“てきとう”な伝票を渡した。
松尾「え!?」と驚いた顔をしたから、
義経「え!?人生の先輩方が、可愛い後輩にお金を出させる?そんな無粋な事しねぇよな」
松尾「チッ、ったく。お前らは…」と懐具合を見た。
河合「まったく可愛い後輩だよ」と皮肉言われて、
義経「へへッ」と笑って、皆で「ゴチになりやっす」と礼して居酒屋を出ようとした。
カウンターから俺らのやりとりを見ていた志津さんは、シャッ…と俺に名刺を手渡した。
義経「え?あ…ど、どうも…」
志津さん「それ…」俺の妖怪 土蜘蛛ぶった切った妖刀を指し示し、
義経「…薄縁(うすべり)?」が、どうしたんだろう?と志津さんを見たら、
志津さん「封は印を解くためにある…」と言って、向こうの客に魂振されたから背を向けた。
義経「あ…ご馳走様でした」と志津さんの背に向かって、礼を言ったら、
志津さんは、クルッと半身翻し「シャッ」と笑って、おつまみを持って、お座敷に向かった。
義経「…」渡された名刺をチラッと見たら「本店…」の地図と水車の絵が描かれていた。
それをスッと懐に入れて、兎に角…店を出た。
継・忠「こっから、あっちの世界にふけっけど…」と後ろの遊郭を親指で指し、誘ったが、
義経「(瑠璃の顔を思い浮かべ…)帰って寝る…」気乗りせず、
斯波「(すみかの顔を思い浮かべ…)明日、早ぇンだ…」嘘を付いて、
与一「朝、約束があるので…」お断りした。
継・忠「そっか、じゃ!」と、今回の舞台報酬で遊女を買いに行った。
「シャッ♪」一人や二人、旅先で羽目を外したがる奴がいるもんだね。
三人と影から、二人を「いってらっしゃい…」と手を振って見送った。
義経「そうだ、斯波。紅花畑ってどこらへん?」ほれ、最上の紅花って有名だろ?
斯波「あぁ?お花が、見たいのか?」と訝しい顔をした。そりゃそうだ、時期が早い。
義経「ちょっと、な…」と曖昧に答えた。
与一「…口紅…ですか?」と恐る恐る聞いて、
義経「俺に、紅が、必要か?」と与一の胸倉を掴んで、
与一「…」脳裏に化粧を施した義経さんの顔を想像し「問題ないです」と答えた。
義経「問題あるだろッ!」ゴンッと一発、頭突きを食らわした。
与一「ッテェ…」手でおでこを抑えて痛がっていた。俺は石頭なんだ。

縮図

2011-03-30 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
由利さんの、ここの領土を狙っている桐生和田のスパイだと分かって、
斯波「フ、フフ~ン♪」と笑った。
継「酒の席と戦は…大勢の方が楽しいだろ?」ニヤッと笑った。
こうして居酒屋の一角で、斯波後の最上、分家 織田、その守護にあたる木曽忍、伊達の佐藤黒脛巾、三河松平後の徳川、桐生足利…それぞれの子息が繰り広げる陣取り合戦の縮図のようなものが出来ちまった。ここに、もう一人織田の幼馴染み 池田が欲しい所だな。
さて、松尾と河合に月山を注いで、
継「では…、我ら子息の武運を祈り…」とそれぞれ杯を持ち「チース(乾杯)ッ」した。
酒を酌み交わしながら、密かに黒い胎の探り合い。こちらの情報をどこまで知っているか?敵方の情報をどれほど入手できるか?話術手腕が問われる所だ。相手の顔色、口調、仕草を気付かれないように静観し、敵の動向を探る。
酒の席というのは、本音が見え隠れする場所でもある。ほろ酔い、気分が良くなって…ポロポロッと城壁となる建前総崩し、本城となる本音と本心を「あ!」と見せてしまう失態者が続出か?と思いきや、ここに集った連中、なかなかの狸と狐で、そう容易くはポンポン見せてくれない。建前で2時間あまり一緒に過ごした頃…、
義経「なぁ。そういえば…鬼たち、どうした?」
松尾「あぁ、風呂に入れてやるって言ったら、逃げちまってよ…」
義経「逃げた?」風呂が嫌いなのか?
継「鬼?なんだそれ?」
義経「あぁ、赤鬼と青鬼の兄弟で、ほら、舞台正面にじぃさんたちがいたろ。その一人が飼ってる鬼なんだ。酒田まで連れて来てくれって、頼まれてたんだ」
松尾「どこ探してもいなくてな…」
義経「ふぅ…ん、分かった。小角さんにそう言っとく」
継「お・づ・ぬ?」
義経「あぁ、修験者の開祖、役の行者 小角さんの鬼で…」
継・忠「えぇ!俺たちが信仰してる蔵王権現の神さんじゃねぇか!!サインもらっとこ♪」
義経「サインは…危ないって話だぞ。握手だけにしておけ…」って、聞いちゃいねぇ…。
継・忠「キラン(☆▽☆)キラン(☆□☆)」ダメだこりゃ。
与一「…俺、これで失礼します」と席を立ったから、
斯波「送ってってやるよ」

スパイ合戦

2011-03-29 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
継「魂振り※って…神社かよ、ここ」※神社参拝の二拍は、神さんへの合図です。
義経「この店、大丈夫なのか…?」と斯波に聞いたら、
斯波「NEW OPENで知らん。気にすンな」と月山をトクトクトク…とコップに注いでくれた。
義経「おう…サンキュ」それぞれ月山入りコップを持った所で「かんぱー…」
与一「…イ?」とあっちら向いた。
義経「どした?」
与一「いえ…向こうから視線を…」感じた方向をそおっと見ても…よく見えん。
継「あ!あいつ…」
忠「松平お抱えの忍者…」鳥海の居酒屋 ムジナで、殿様と話してた野郎と…
義経「…河合…さん」だった。予約していないようで、席がなく立ち去ろうとしていたから、
継「オッシッ!」忠とニヤッと笑って席を立ち、相席を申し入れていた。
松尾「よう。こりゃまたお揃いで…」
河合「悪いなぁ。助かったよ」と差し出した座布団に座った。
斯波「ようぉお」パン!パン!と試しに二拍手を打ってみたら、
志津さん「シャッ、適当なの二人追加!」と伝票に書き、コップを二つ置いて去っていった。
義経「(これでいいのか、伝票?)…殿様に見せる日記は書き終えたのか?」と松尾を見たら、
松尾「そういう事、言うなって…」とチラッと与一を見た。
与一「ん…?」
義経「こちら、松尾芭蕉さん」と与一に紹介し(新田息女を探してたぞ)とこっそり教え、
与一「…(“松平”のスパイ)」
斯波「…(服部 半蔵)」と分かった。東北地方を密偵及び巡回し、動向を探っている伊賀忍の頭領だと聞いた。三河 松平の方では虎視眈々と下克上のタイミングを狙っているという情報が入っていたなぁ…と、考えていたら「ん?」と河合から手が差し出され、
河合「初めまして…」と斯波に握手を求めた。
斯波「…可愛い子ちゃんの手しか握らねぇよ」と素っ気なく言ったら、
義経「こちら、桐生和田に日記を見せる河合 曾良さん。握手して置けよ…今後のためにも」
河合「そういう紹介するなって…」
斯波「ふぅ…ん(ニッ)そういうことなら、よろしくッ」と河合の厚意に力強く握手で応えた。
河合「イデッ」
斯波「力、入れ過ぎた…わりぃわりぃ」あまり謝意が伝わらない態度で頭をかいた。へヘッ。

失われるモノ

2011-03-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「ツーカーの夫婦になりゃいいだろ」と、言って聞かせ、
与一「…はい」と誠に素直な良いお返事だが、こいつ、かなりヒネてる奴で本音は違う。
言いたい事をはっきりいわねぇ奴だった。しかし、こいつの気持ち、痛いほどよく分かる。
小さい頃から、人一倍努力して腕を磨いてきた流鏑馬が出来なくなった。努力を怠って失われていくモノじゃない。神か天か知らないが、そいつらが否応無しに奪っていくモノ、失われていったモノ…それが、今までの努力だった。
的が見えないとなれば、的を射抜くことが出来ない。何のための流鏑馬か…分かりゃしない。
こいつが12、3の時、その流鏑馬の腕を買って、俺の下に付かせた。その時、まさか的が見えなくなるとは思ってもいなかった。それは、こいつ自身がそう悔しく思っているはずなのだ。買われた腕が刻々と失われいく。得手するモノが奪われ、自信を失くしてしまって…心までヒネて行った。積み上げたものが崩された…それは、自分を奪われるに近い恐怖だろう。だから、こいつに“出来ません”と即答されると、辛い…。
今まで一人で出来たモノが出来なくなり、皆に助けられる事が多くなる。周りに優しくされる度に、与一の心は激痛に耐え、誰にも聞こえない悲鳴を上げてるんだ。戦で役立たなくなった自分を、人知れず責めて…。あの時、女将さん…乙和さんが言った「あのまま…二人を一緒させて良いのかい?」という言葉が、頭から離れなかった。
ここ数年で急速に視力が落ちた与一は、かなり焦っているように見えた。何に対する焦りか…能子も薄々感じているようで不安を隠しきれない様子だった。兄貴の俺が、後始末を後に後に回した結果、ツケが大きくなって返って来てしまったようで、
義経「ふぅ、ツケにするもんじゃねぇな」と溜息と愚痴を同時にこぼした。
与一「…?」
義経「ほれ、ここだ」と居酒屋『月山 志津』の暖簾を分けて入り、
俺らを見つけた継が「おう、こっち、こっち」とお座席から手を振った。
義経「待たせたな」と広いお座席の座布団にどっかと座った所で「お絞り…」を手渡す何とも美しく白い毛並み良い手に「ひッ!?」とびっくりしていたら、
志津さん「どうされます?何にされます?適当になさいます?」と矢継ぎ早に質問されて、
義経「は、はぁ…」と困っていたら、
志津さん「シャッ、適当は入ります!」サッと勝手に“てきとう”と伝票に書き、下がっていった…と思ったら、すぐ現れ、適当なつまみをテーブルに並べ、銘酒『月山』をドンと置き「お神が入用なら、手を打って下さいませ。二拍で参上仕ります」と去っていった。

合図

2011-03-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能子「兄上ッ!!」と呼び止められた。
このおおうつけッ!こっそり出て行く俺らに、なんてバカでっかい声で呼び止めるんだ!と
義経「んだ!?」ムッとした顔で振り返ったら、
能子「…」口をキュッと結び、黙っていた。
義経「たまには、男同士でツルませろ」と言って、目で合図を送ったら、
能子「コクン…」と頷き、クルッと背を向け、大広間に戻っていった。
義経「ったく…あの心配症がッ、なぁ」と、同意を求めたら、
与一「屋島の時も…合図、送っていましたね」と、えらい昔の記憶を引っ張り出してきた。
…こいつが言うのは、1185年、屋島の合戦。能子と与一が初めて出会った日のことだ。
この戦いは、平家が得意とする船上戦で、源氏海軍総大将として俺が陣頭指揮を取っていた。
平家方から開戦の合図『扇の的』を射ろと言われ、
義経「悠長なこった…」と呆れていた。公家のお遊びに付き合わされるのはまっぴら御免だったが、ここで士気を上げておきたいと考えた俺は、その役に与一を指名した。しかし…、
与一「出来ません」と即答した。
船上の不安定な場所に女を立たせ、的を持たせた。こちらが的を射るには、海に騎乗で入って行かねばならず、流鏑馬を得意とする与一を指名したのだが、その頃から与一の視力は落ち始め、的が見えていなかった。
義経「的の位置を教えっから、射ろ」と矢を番えさせ、的を見た。すると、的が揺れていた。
的を持つ妹 能子の手が震えていたのだ。狙うのは的だが、一歩間違えは顔面打ち抜く、しかも不安定な船上で…怖いのは当たり前だ。
能子はおてんばだの、じゃじゃ馬だの言われていたが、本当は違う。心配症で怖がりだった。それに、あいつは勘と目が良く、こちらの状況、与一の事情が見えていたらしい。
俺は、ガタガタ震える能子に目で「大丈夫だ」と合図を送り、頷いた。
能子も「コクン…」と頷き、ようやく落ち着きを取り戻した。その揺れが止まった一瞬を狙い、与一に射抜かせた。
与一は、恐怖と戦った能子に敬意を払い、深く一礼し、源氏方に戻って開戦となった…。
その、俺たち兄妹の目の合図を、こいつは言っているのだ。
義経「お前らは、これからだろ」と言ったら、
与一「俺には、出来ません」と、また即答した。
そう…俺らのように目で合図する事が、こいつには、もう出来なくなってしまったんだ。

平家、蝶の舞

2011-03-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
清経「そなたの念が、我が御霊救わん…」と言って、妻に背を向けた。
その拍子に、能子の髪の間から、能装束に刺繍された紫の揚羽蝶が見えた。
フッと一本の蝋燭の灯が消え、舞台を照らす蝋燭は残る一本だけとなり、
妻「…夫が安らかになってくれるなら…」と祈り続け、清経の御霊を供養した。
残りの一本の蝋燭の灯がフッと吹き消した瞬間、清経から紫の揚羽蝶がフゥと浮かび…、

そして、灯と共に消えた。それは、あたかも壇ノ浦で入水した平家の女たちが蝶となって舞った…という伝説を連想させるものだった。
清経、享年21…生きて苦しみ続けるより、死んで来世に望みを繋げた男の演目に、場内シー…ンと静まり返り、男たちのすすり泣きだけが低く響いていた。
妻子家族と生き別れた平家の落人たちのすすり泣きなのかもしれない。ここ酒田沖に飛島(とびじま)という小さな島がある。その島には、壇ノ浦から船で生き延びた平家たちが甲冑を脱ぎ、刀を捨てたとされる場所がある。平家の落人と呼ばれる者たちは、ここ酒田で密かに漁師となって、生き延びたという…話だ。
暗い舞台に再び明かりが灯され、公演終了のアナウンスが流れた。それを合図に、席を立ち帰ろうとする者、料亭に戻って行く者、暗闇にまみれて消える者…まばらで、
池田「…」何も言わずに、スゥとショールを首に巻き、俺に背を向けて、立ち去ろうとした。
義経「おい…」と呼び止めたら、
池田「妹さんに、ありがとう…と、お伝え下さい」と背中を向けたまま、頭を下げた。
義経「礼が言いたけりゃ、自分で言え」
池田「…」フッと暗闇に消えていった。
義経「…捕虜を置いて行くなよ」と闇に向かって小さく声を掛けたら、背中をポンと叩かれ、
瑠璃「じゃ、またね」と池田を追って行った。
義経「フッ、能子を上回る捕虜だな」と呆れて「それにしても、あいつ、能子をロウ…」
継「おーい、ツネ!片付けぇー!」
義経「お、おう…」池田のあの呟きで、九ちゃんに疑惑と不安が残ったが、それを打ち消し、片付けに取り掛かった。その後、料亭の大広間で打ち上げに入った。
童ちゃん「大盛況だったなぁ!」と大満足の様子から、かなり稼いだらしい。
義経「さてっと…」継に予約取りに先に行かせて、斯波と忠に「外で飲もうぜ」と誘って先に近くの居酒屋に向かわせた。次は「与一ッ」を小さく呼んで、腕を掴んで、こっそり大広間を出ようとしたら、勘と目のいい奴に見つかって、

演目『清経』

2011-03-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能子の父 清盛が安芸守をしていた時、弁才天が御祭神の厳島神社の社殿を建立した。その際、能を奉納したとされる。この事からも、清盛は能をこよなく愛したことが伺い知れる。さらに、側室となった俺の母 常盤御前との間に生まれた娘に『能子(よりこ)』と名付け、その容姿から能舞芸事を教え、可愛がったという。
ただ、宮中では、橋掛かりなどの廊を渡る姿が美しいと、それにちなんだ名で呼ばれていた。
だからこそ、一層の不安が募った。
ロウ オ カタ…、ロウノオンカタ…、廊御方…
チラッと池田を見たら、腕組みしたまま、表情を変えずに能子を見ていた。
義経「…」
能子が廊を渡ると、三本松の一松、二松、三松の間に設置された蝋燭が吹き消され、舞台を照らすのは[二本の蝋燭だけ]となった。能子は舞台手前で足を止め、斯波の謡と与一の竜笛の合図で能子が舞台に進み始めた。
そして、奥能登の伝統能舞 演目『清経(きよつね)』が始まった。
能子が演じるのは、平 清盛の嫡男 重盛の子で、横笛の名手とされる清経だった。
壇ノ浦合戦後、多くの平家が入水、平家一門が都落ち…。
そんな中、生き残りひっそり暮らす清経の妻のもとに、遣いの者が訪れた。
遣いの者「清経様が入水されました。これは…その形見です」と、妻に遺髪を手渡す。
妻「あぁ…」と泣き崩れ「必ず、必ず帰ってくると約束したのに…」と悲嘆する。
悲しみが悲しみを呼び「こんな形見…いりません」と遺髪を返してしまう。
愛する夫への想いが募り「形見なんていらない」と毎夜毎夜泣き崩れ「せめて…せめて、一目だけでも夫に会わせて…」と懇願した。そんな妻の夢枕に、清経の霊が現れ…、
妻「あぁ…清経様」と手を伸ばすが、
清経「もはや、今生で逢瀬は叶わず…」触れられない、魂だけの存在となっていた。
妻「約束したではないですか。どうして…どうして死んでしまったのです!」と夫を責め、清経「なぜ、形見を返した!」と妻を恨む。
互いが互いを責め、苦しみ、憎しみ合う…互いに愛しているからこそ、この叶わぬ道理に涙するのだった。
やがて、清経は死に至るまでの経緯を妻に語り、生きて儚く、空しさ続く現世より来世の平安を願って入水したのだ…と妻を諭した。
しかし、妻の悲観した姿に成仏叶わず、

シテ

2011-03-24 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
そこへ、舞台照明の移動で、継がタッタカターッと松明を持って、こっちにやって来た。
継「よっ!」と池田に声を掛け、俺らの後ろに松明を置き「これから、蝶が舞うぜ」と走り去った。その後姿を顎で指し、
義経「あいつが、お前の手…もったいねぇって、さっ」と池田の質問に答えた。
池田「ッ…」腕組みしながら剣ダコの付いた手をギュッと握り締め、反対側の松明を運んでいる継を見ていた。
義経「あ…」と、向こう側の後ろも明るくなって、繭子の便女が見えた。その時、繭子の便女がスッとお面を外し「小枝御前!?」と分かった。義仲の母上から視線が外せずにいたら、
池田「彼女…俺と同じく伝令を受けています」と俺の視線に気付いて、そう言った。
義経「…守秘義務違反だろ」と問い詰めたら、
池田「さぁ…。どこから違反で、どこまでが、その義務なんでしょう…」
義経「さぁな。自分で決めろ」
池田「フッ」と笑った。
能舞台を正面から見て、左に廊下のような長い道がある。それを[橋掛かり]というが、その橋掛かりの前に等間隔に三本の松が植えられ、その間、蝋燭が一本ずつ三本灯されていた。さらに、舞台の隅を二本の蝋燭が照らすだけで小さな灯が五つ、小さくぼんやり光って、今にも霊が出てきそうな、厳かというべきか…幽玄な雰囲気が醸し出されていた。
フィー…と、与一の竜笛がいななき、
義経「おっ、蝶の御出ましだ」と能子を見たら「おろ?」能面無し…で登場し、
池田「廊御方様…」と呟いた。
義経「え?」その呟きに、耳を疑い「今、なんて?」と聞き返したら、
池田「いえ、義経さんと似ていますね」と、にっこり笑って、はぐらかされた。
義経「…(能子を知ってる!?)」としても、別におかしくは無い。池田は能子と同じく平家、しかも、検非違使という立場上、あいつの護衛の命が下ってもおかしくない。
しかし、今の呟きが気になった。ロウノオンカタサマ…?
池田は、能子の化粧が施され、より一層中性的に見える横顔をじっと見つめていた。
能の演目には、神霊や精霊、妖怪、怨霊等が登場する出し物が多い。古来、芸能はそういった目に見えない存在を供養・鎮魂し、演じ手自ら御霊を癒して慰める。それ故に、シテという。芸の能(より)所は、癒して自身の体であり、それが神霊の癒しの場なのだ。
能子が生まれた平家は、水と芸能の神 弁財天を崇拝している。

勧進帳 下

2011-03-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
しかし、富樫「おい、こんな小さい従者を殴ることもなかろう」と関所を通してくれた。
義経「…(背丈と身なりで年齢を決めるなよッ!)」と内心ムッとしたが「やれやれ…関所を通れたな」と、山ン中に潜んで「ッッテェ、少しは手加減しろよ!」と、アザを冷やし、
弁慶「ハハ、わりぃ、わりぃ」と傷口に軟膏を塗ってもらっていた。そこへ、
「よッ」と酒を持って、ひょっこり現れた関守、
義経「と…富樫ッ!?」
弁慶「なッ!」この時ばかりは、平静ではいられなかった。
富樫「さっきは…疑って、すまなかったな」とチラッと俺を見て、弁慶に杯を渡した。
弁慶「…(奴、気付いているッ!)」と分かって、俺に「こそッ(先に行け…)」と耳打ちした。
義経「は…」心配だったが、弁慶を置いて先を急いだ。
富樫「…」先に行く俺を止めず、弁慶に酒を差し出した。
先に説明したように、山伏は問答無用で通すなというお触れが出されていた。しかし、“山伏に扮した俺たち”を無罪放免…関所を通しちまった。当然、お触れ違反で当然厳罰もんだ。
この時、富樫は罷免を覚悟したらしい。俺たちは、まんまと富樫に一杯食わされたのだ。
その後、弁慶と富樫は酒の酌み交わし、富樫は政府内部事情と黒幕を知った。
富樫「やっぱりな…」
弁慶「そこで…頼みがある」と切り出しのが、繭子だった。機密文書…俺たちの間では“内裏の吉備団子(賄賂)リスト”と言っているが、そのブラックリストを持つ彼女が狙われていると告げて「彼女を頼む…」と一礼して、富樫とは別れた。
(その「頼む」という言葉の意味を履き違えたか、二人は出来た。娘の和菓子ちゃんが証拠だ)
そして、弁慶は義経を追って“飛び六法(舞台脇に走り込み)”、演目『勧進帳』は終わる。
これが、かなり手を加えた勧進帳の、俺の解説だが、説明不足だったら能でも歌舞伎でもいい『勧進帳』を実際に見に行き、伝統芸能に触れてくれ。
舞台は、最後を飾る“取り”能子の準備が整うまで、一発芸人 海尊が場を盛り上げた。
海尊「(キリークッ)アシュラマン!」にょにょにょきッと左右の腕が計六本、ワッと出た。
舞妓&芸子ら「わぁ!どんな仕掛け?」と質問されていた。(答え、熊退治の項を読む返す也)
義経「…。さてと、勧進帳その後、富樫は俺らを逃した罪で関守を罷免、安宅を追われた。奥能登の平家の、繭子の屋敷に転がり込み、彼女の護衛にあたっていた」
池田「…」目を伏せて「どうして…その事を?」と俺の真意を探ろうと質問してきた。
義経「…」チラッと池田の掌を見ようとした。しかし、腕組みしていて見えなかった。