清経「そなたの念が、我が御霊救わん…」と言って、妻に背を向けた。
その拍子に、能子の髪の間から、能装束に刺繍された紫の揚羽蝶が見えた。
フッと一本の蝋燭の灯が消え、舞台を照らす蝋燭は残る一本だけとなり、
妻「…夫が安らかになってくれるなら…」と祈り続け、清経の御霊を供養した。
残りの一本の蝋燭の灯がフッと吹き消した瞬間、清経から紫の揚羽蝶がフゥと浮かび…、
そして、灯と共に消えた。それは、あたかも壇ノ浦で入水した平家の女たちが蝶となって舞った…という伝説を連想させるものだった。
清経、享年21…生きて苦しみ続けるより、死んで来世に望みを繋げた男の演目に、場内シー…ンと静まり返り、男たちのすすり泣きだけが低く響いていた。
妻子家族と生き別れた平家の落人たちのすすり泣きなのかもしれない。ここ酒田沖に飛島(とびじま)という小さな島がある。その島には、壇ノ浦から船で生き延びた平家たちが甲冑を脱ぎ、刀を捨てたとされる場所がある。平家の落人と呼ばれる者たちは、ここ酒田で密かに漁師となって、生き延びたという…話だ。
暗い舞台に再び明かりが灯され、公演終了のアナウンスが流れた。それを合図に、席を立ち帰ろうとする者、料亭に戻って行く者、暗闇にまみれて消える者…まばらで、
池田「…」何も言わずに、スゥとショールを首に巻き、俺に背を向けて、立ち去ろうとした。
義経「おい…」と呼び止めたら、
池田「妹さんに、ありがとう…と、お伝え下さい」と背中を向けたまま、頭を下げた。
義経「礼が言いたけりゃ、自分で言え」
池田「…」フッと暗闇に消えていった。
義経「…捕虜を置いて行くなよ」と闇に向かって小さく声を掛けたら、背中をポンと叩かれ、
瑠璃「じゃ、またね」と池田を追って行った。
義経「フッ、能子を上回る捕虜だな」と呆れて「それにしても、あいつ、能子をロウ…」
継「おーい、ツネ!片付けぇー!」
義経「お、おう…」池田のあの呟きで、九ちゃんに疑惑と不安が残ったが、それを打ち消し、片付けに取り掛かった。その後、料亭の大広間で打ち上げに入った。
童ちゃん「大盛況だったなぁ!」と大満足の様子から、かなり稼いだらしい。
義経「さてっと…」継に予約取りに先に行かせて、斯波と忠に「外で飲もうぜ」と誘って先に近くの居酒屋に向かわせた。次は「与一ッ」を小さく呼んで、腕を掴んで、こっそり大広間を出ようとしたら、勘と目のいい奴に見つかって、