ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~義母様と、伯母様~

2012-11-30 | 散華の如く~天下出世の蝶~
まだ、教えるとも、言うとらんッ!
とにかく、この申し出を断わろう。
「生駒殿、あの…良いか?」
生駒「あ、ちょっとお待ち下さいませ」
ささ…と私の隣に、ちょこんと座った。
「こちらの方が見やすいですわ」
帰蝶「え…と、」
かかか斯様美人が近くては、
たじ…断わるに、断われぬ。
「ま、まず…、」
ててて手元が、大幅に狂う。
生駒「ここを、こうして?」
帰蝶「いや、そっちから注すのではなく、裏から手前に…」
結局、断り切れず、側室に水引を教える正妻で、
こんなこと、女中や姫たちに知れたら、
生駒「こうにございますか?」にこり。
帰蝶「ん…」にこ…、
し、しまった。
つい、つられて笑顔になってしまった。
「…そこから、」
側室と自室に籠る事、小一時間。
すす、すす…、複数の足音が聞こえて来た。
これはまずい、勘の鋭い義母様が、
ガラ…と、いっきなり襖を開けて、
養徳院「あら、ま…」参上仕った。
入室の際、お声を掛けて頂けないでしょうか。
帰蝶「養徳院様…あの、これには…」深い事情が…、
生駒「伯母様、見て下さいませ
養徳院「まぁ、お上手」
生駒「濃姫様が、教えて下さったのです」

散華の如く~不器用なんです、私…~

2012-11-29 | 散華の如く~天下出世の蝶~
生駒「有り難き言葉に存じます。良かったわ、信長様の仰る通りの方で、」
にこりと微笑んだが、
殿と、何を話していたのか…。おそらくは、
きつい妻だの、恐妻だの、奇妻の鬼妻だの、
笑わぬ姫だと因縁つけておったのであろう。
それに、
生駒は「信長様」と呼ぶ事を許されている。
対する私は、
“…名で呼ぶのは止めよ”
殿の、その名を呼ぶ事さえ許されていない。
“こそばゆい”
「くすくす…くすくす…」
口元に、すらりとした手を当てて、
帰蝶「そんなに可笑しいか?」
生駒「えぇ。だって…、」
くすくす…笑って、
私をじ…っと見て、
「姫様、私に、お教え下さいませ」
水引を、私に、はい、と返して、
帰蝶「な、なななんと?」聞き間違いか?「水引を?」
生駒「えぇ…」首を傾げて、
その黒き瞳に私を映らせた。
美人にめっぽう弱いのは、何も殿方だけに限る事ではなく、
実は、私もこの手の美人に弱く、その申し出をそう容易く、
「お断り致します」
問答無用で、容赦なく断われない…。美人を傷付けるのが、
帰蝶「…うぅ」
気が引ける。しかし、
正妻と側室が同じ部屋に籠り、また、あらぬ噂が立っては…
生駒「この不器用にも、出来ましょうか?」

散華の如く~白雲から差す、瑞線~

2012-11-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
甲高い声と脳を突き刺すような汚い言葉。
ズキッ、突き刺さる醜き声で頭痛がする。
こやつも、裏で…、
生駒「あら、濃姫様。それ、見せて下さいませ」
ふわ…と、白雲のような手が差し出され、
ささ…と、それを遮る理由も見つからず、
帰蝶「…はい」
白い手に、銀の水引を静かに置いた。
銀糸から伝わったのは、彼女の体温。
「さ…寒いのか?」
生駒「いえ、最近いつも、こうなのです」
私の結った水引を米神まで上げて、
くるりと返し、
「私、不器用で…」
薄く白くはにかんだ。
帰蝶「最近…?」
生駒「あ…ややが、」
妊娠初期の冷えと分かったが、
線の細さ、透ける肌が気に掛かる。
代謝低下、血行不良、貧血めまい。
帰蝶「確か、三人目だったな?」
生駒「えぇ、もう慣れましたわ」
帰蝶「…慣れるモノ、なのか?」
私は、三度の流産に慣れを感じた事は、無い。
その時々で、宿った魂と流れた胎児に泣いた。
一人ひっそり、隠れて、声を殺して、泣いた。
誰も知らぬであろうが、私にだって心がある。
正妻が、殿の大事なややを何度も流し、
殿に頭も下げぬ姫で無礼千万と罵られ、
「斯様冷たければ、ややも寒かろうに…」

散華の如く~地獄耳~

2012-11-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
正室から外せ、降ろせ。
座から除けよ、堕ちよ。
我が子に向けて、囁かれているようで、嫌気が差す。
「姫様もご一緒にいかが?」茶や香やカルタを誘うが、建前だけ。
誘いを断るとつれない姫と、私のいない場所で噂に花を咲かせる。
ぱぁとにこやかに挨拶したかと思えば、
裏では扇で口元隠し、散々な言いよう。
仕方がない。
私は敵国の嫁、戦の原因を作ったのだ。
当然の報い。
ただ苦しくて、逃げたい、
殿の正室は務まらないと、
正室の座から外して下さいませ、そう嘆願したが、
“成らぬ”
殿は決して、私を正室から外す事を、なさらない。
なぜに、ございますか?
聡明かつ美しき方が、
生駒が正室となれば、
誰も文句は言うまい。
なのに、
なぜ、私なのでございますか?
生駒「いえ、そういうつもりでは、」
困ったわ…と生駒は、一服茶を啜り、
ふぅ…と、一息付いて、
「いつも、そうやって耳を塞いでおいでなのかと、」
帰蝶「耳…、塞ぐ?」
生駒「濃姫様は、我らの声を聴いては下さらない」
帰蝶「聴かずとも、聞こえるわ」
聞きたくない…なのに、
我が地獄耳が、心にまで、その醜き声を届ける。

散華の如く~殿の御意向、姫の思い~

2012-11-26 | 散華の如く~天下出世の蝶~
信輝がくれた、安産の駒守りが包まれていた。
落ちて、失くして、探しても無くて、
もう駄目だと諦めかけた。そんな時、
生駒「今度は落とさぬ様に、と…」
寄りによって、生駒の手から返させるなんて…。
帰蝶「あ…、そ…、すまぬな」
御守りを届けてくれた彼女に、
私は、辛く当たってしまった。
気分を害したであろう…「と」
襖の裏から、
女中「御持ち致しました」
女中が茶を運び、
話が寸断されて、
決まりが悪い…。
帰蝶「二人きりで話がしたい」
しばらく下がるように、女中に言い付け、やはり、
女中が遠のく足音に、じ…と、耳を澄ましていた。
生駒「いつも、そうなのですか?」
帰蝶「ふ…」返す言葉が無く、視線を下に、横を向いた。
突慳貪(つっけんどん)で横柄な態度と物の言いと無愛想。
人を寄せ付けぬ高飛車、高慢で憤慨しているのであろう。
分かっている。
今戦は、私が原因。
義兄…いや、長井の伯父から突き付けらえた交換条件。
私の美濃からの輿入れがなければ、今川戦は無かった。
なのに、
殿は、私の首を晒す事も、美濃に返す事も成さらない。
姫たちは当てる所、やり場無く、私を槍玉にしている。
知っている。聞こえている、私の噂。
私を正室に残す理由が分からぬ、と。

芸術の秋…

2012-11-25 | 日記
誕生日プレゼントっと、お花を頂きました。
ありがとうございます。

トルコキキョウの花束で、
まぁ素敵なラッピング…、
リボンまで施されて、
リボンが…もったいない。
と、

老猫タルトをラッピングしてみました。

出前一丁前にポーズをとって、
生意気にも、すかしています。
こんな所、飼い主と似てます。

さて、
たまたま偶然、見つけました。
閑静な住宅街の一角、護国神社にほど近い。
大河ドラマ『平 清盛』様のタイトル文字を書かれた女流書家 金澤翔子さんの個展です。
力強い筆のタッチで、好きです。
男性的、かつ、仏教的。
つらつら経歴を読むと、
10代で般若心経を写経。
…私、初めて写経したのが20代でした。

はい、次。
金閣寺銀閣寺展です。
前半行って後半です。
水墨画を見て、
「どこが点の始まりだろね?」
筆の入れ始めと、筆を置くタイミングってどこ?
みたいな話をしていました。

もちろん、作者は痘の昔に仏様。
作成過程を見る事は出来ず、
過程は空想妄想の想像の類。
作製期間は、どこ位なのか?
書き上げる最中、何を思うのか?
おそらく、無心でしょうが、

そういう事を話し合って、

結局、完成図ばかり見ていると、
途中経過(大切な部分)って、除外視されるよね。
結果重視の世の中に変わったね、と話を落ち着かせました。

即、
結果が欲しい。
即、
反響が欲しい。

結果って、すぐ出るの?

作品の思いって、伝わる事が緩いというか、鈍い。
それに、すべての人に伝わるものじゃない。
心と同じ。
一人、二人で結構。
それで、十分満足。

どうして、その作品を造ろうと思ったか、
筆を執るきっかけや思い…って、
早々簡単に伝わらない。

完成(結果)ばかり求めて、意図を考えず、

結局、何が言いたいの?
で、終わる。

釈迦の悟りだな。

作品を描くに至った歴史を考えず、
また、分からない事をそのままに、
作者の意図をぼやけさせてしまう。

芸術ほどの空はなく、
それ事態が無…不立文字だな。

と、二人の自称芸術家は、
なんか作りたくなったよね…って、GOTO(ソーイングショップ)に行くのです。
そして、後学のため、
加賀に行って、
九谷焼を見て、
(手に取るのが怖かった)
加賀友禅を見て、
(一部、触れて)

伝統芸能を堪能、
夜の金沢、クリスマスイルミネーションを通り抜け、

雨降る幽玄、兼六園を廻り、
帰途に着く…。


散華の如く~疑心暗鬼~

2012-11-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
そう言われて、しぶしぶ
「…通せ」
彼女を、中に引き入れた。
代わりに、女中を下げて、
すすぅ、襖が閉じられる刹那、
「すまぬが、客人に茶を…」
女中「はい」
パタ…ン、襖が閉まり、
ササ…と、遠のく足音を確認した。
やはり、どうも疑心暗鬼になって、
立ち聞きせぬよう、細心の注意を払うようになってしまった。
生駒「…」
私をじっと見るこの目と沈黙も辛い。
女中が戻るまでに用を済ませようと、
帰蝶「渡したい物とは何か?」
こちらから話を切り出した。
生駒「先達ては、ご無礼仕りました」
帰蝶「それは良い。早う要件を申せ」
殿と生駒が謁見したのは、私が生駒の側室を了承した後だった。
殿の側室は、私が知る限りでは十数人。
側室には生駒の他、討死果たした重臣や兄弟伯父の妻、伯母がおる。しかし、
正室に筋を通してから側室に上がったのは、後にも先にも、彼女一人だった。
生駒「信長様から、お預かりした物が…」
ゆっくりと、美人が私に近付いて来た。
すぅと白く透き通る手が目前で止まり、
ぱぁと両掌が白い花弁のように開いた。その花弁の中には、
帰蝶「殿の、御守り…」
殿が肌身離さず持っていた、美しき氏神様。
揚羽蝶に包まれていたのは、
“香車”

散華の如く~不本意な訪問者~

2012-11-24 | 散華の如く~天下出世の蝶~
マムシマムシ、うつけうつけと噂され、
あらぬ噂まで流され、鵜呑みにされて、
噂とは当てにならないものだと思いまして
「裏で、何を言うておるか…」
恐い。
信用成らぬ。
信じては成らぬ。
そういう私も、
誤解があった。
初めて殿と対面した時、噂に惑わされ、
そのお優しき手を払い除けてしまった。
“大事ないッ”痛かったであろう、払い除けられた心。
沢彦「何も申しますまい」
やれやれ…と、
式部之書を下げよ…「と?」
帰蝶「これは…私の教養の為、目を通します」
沢彦「何も申しますまい」
にこり、と笑った。
不本意ではあるが、いずれ、
私は姫君女中の教育を一手に任される事になる。
その日の為、つらつら、つらつら、式部之書を読み、
コツコツ、コツコツ、折形水引の練習をしていたら、
女中「濃姫様、お会いしたいと申す者が来ておりますが…」
謁見を申し出る姫が現れた。
その名前を聞いて、
「…追い返せ」
私は、会いたくない。
女中「し、しかし…お渡ししたい物があると…」
帰蝶「渡したい物?」

散華の如く~女は、嫌いじゃッ~

2012-11-23 | 散華の如く~天下出世の蝶~
沢彦「捕縛には、ちと意味がありまして…」
帰蝶「え?」
不意に、
沢彦様から、ある書を渡された。
「これは、何の経典にございますか?」
沢彦「式部之書にございます」
帰蝶「式部…教養書…」
ぺらぺら…と捲り、中を拝読し、
「嫌味か?」
香道、かるたにお手玉、刺し子に水引折り形(折り紙)…
私が、最も苦手とする女子の戯れに出よ、と?
沢彦「いずれ…」
帰蝶「好かん。女の戯れ等、嫌いじゃ」
教養書を突き返そうとしたが拒まれた。
沢彦「いずれ、帰蝶様は姫君の長と成られる」
帰蝶「…」
分かっている。
殿の夢の構想の一つ、教育。
戦では、読み書きの出来ぬ農民を徴収し、隊に付かせるのが通例だった。
しかし、烏合の衆では無駄死にを増やすだけで、戦の成果が上がらない。
“使えぬ人間をいくら募っても、勝てぬ”
志願兵を募り、戦の基本知識と集団生活の秩序を叩き込み、所謂、軍隊を編成していた。
また、家臣の子を集め、礼儀礼節、武士としての嗜み、立ち振る舞いを教えるなど、次代を担う若手育成にも力を入れておいでだった。
「…で、私には、姫たちの教育をしろ、と?」
沢彦「察しが宜しいですな」
帰蝶「御断り致します」
女は、好かん。
扇で口を隠しても、分かる。聞こえる…あの厭らしい声が、
“あれが蝮の娘 帰蝶だ”

散華の如く~殿の、逆さ無文字~

2012-11-22 | 散華の如く~天下出世の蝶~
“また、隠密(スパイ)が来たぞ”
帰蝶「経典を盗まれ…喜ぶなど、」
沢彦「わざわざくすね易きよう、見易き場所に置いて…」
“何を探っておるのやら…”
「まんまと、引っ掛かりましたな」
帰蝶「まぁ…」
沢彦「細君で無ければ、しょっ引く所」
帰蝶「意地の悪い」
殿、全て、お見通しであった。
それを見て笑っているなど…、
ぶぶ…
「仏法、禅法、諸作法に興味関心があるだけ。ここに、全て揃っていたから…ちょっと」
なんとも歯切れの悪い。
“いつもの、そなたらしくないのう?”
ニヤリ、したり顔の第六天が脳裏に思い浮かんで、
不愉快じゃとブンブンと、頭を振って掻き消した。
「ちょっと、借りただけにございますッ」
沢彦「して、ご理解頂けましたかな?」
帰蝶「それが…さっぱり。何をお考えなのか…」
夫の考えが、まるで見えない。
いつか突然、どこか遠くに行ってしまうのではないかと、
「少しでも、殿のお考えに近付きたかった…けど、」
沢彦「お勉強が足りませぬぞ。必ず、真理が見えましょう。続け成され」
帰蝶「元々、真理とは何でしょう?」
沢彦「変わり逝くモノにして、変わらぬモノ。無にして、無に非ず」
帰蝶「余計混乱を招く答えじゃな」
沢彦「真理とは、ご自身が掴むモノにして、答えはありませぬ」
帰蝶「真理追求のため、生涯殿の面倒見なければならぬのか?」
沢彦「それも、妻の定めと観念なさいませ」
帰蝶「妻を御縄に頂戴して、どうするのやら…」