ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~水子供養~

2012-08-18 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「つ…めた…?」彼の腕が、とても冷たかった。
信長「美濃の姫は、よう噛み付くのう」
帰蝶「ちょ…」触れると、殿の手は氷のように固く冷たくなって、赤ずんでいた。
私が気を失っている間…「何をしておいでだったのですッ!?」
ササ…と殿の手を取って、すぐに温めて差し上げた。
刀を右る手が、斯様に悴(かじか)んでは…凍傷にでもなられては困る。
殿の動かぬ手を、擦って、擦って温めた。
信長「ややを、流して来た」
帰蝶「は?」
後から聞いた話だが、
ややを、誰にも「触るなッ」と片付けようとしたその命に触れさせなかった。
命を掻き集め、命を抱え、殿は馬を走らせた。
「どこに?」
美濃長良川と尾張木曽川の合流地点。
信長「父の、この手で、流してやった」
帰蝶「そうだったのでございますか…」それは知りませんでした…等といい訳出来ない。
無礼にも、流れて良かっただの、離縁しろだの…怒鳴ってしまって、
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。彼の手を擦りながら、精一杯、侘びた…
「申し訳…ございません」
信長「流しても、流しても、取れなんだわ」
殿は、失った命の感触が、いつまでも手にまとわり付いて取れないと言った。
生きたい、生きたいと駄々を捏ねるややの魂が殿にすがり付き、離れなかったのだろう。
帰蝶「…父の手から、離れたくなかったのでございましょう」
父を亡くしたばかりの殿には、さぞ辛かったであろう。
「今度は、一緒に供養致しましょう」
信長「あぁ。…いつか、そなたを…」
最後の言葉までは、風に消えて聞き取れなかった。でも、なんとなく、本当になんとなく、母にする、そう言って下さったように思えた。だから、
帰蝶「うつけの子は、嫌にございますよ」とおどけて言ったら、彼は小さく笑っていた。
左口角を上げて小さく笑う御姿は、恩師である平手様譲りだった。


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