ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~鉄砲と羅針盤~

2013-01-31 | 散華の如く~天下出世の蝶~
集められた家臣衆、鉄砲の解剖に固唾を呑む。
この緊迫した雰囲気を楽しむかのように、罪人はふふんと笑う。
そして何か探り当てたか?今度は逆再生、順に組み立て直した。
帰蝶「設計図も無いのに…」
罪人「アンタらと脳ミソの出来が違うんだ」
一緒にすんなと言いたげに、
米神を二つ、コツコツ連打。
帰蝶「まぁ、頼もしい…」
ねぇ、と同意を求めるように殿の御顔を見たら、
何とも険しい表情で苛立ちと焦りが見て取れた。
実は鉄砲、木箱に入れられ大量輸送中、雑に扱われ途中、破損。
また、不作劣化品が混じり暴発する始末で負傷者も出たという。
鉄は錆び、木は腐食。湿気に弱い火薬は雨季決戦に不向き、
改良修繕を試みようも設計図がなく、鉄くずばかり増える。
値が張る割に使えぬ、だが時代の流れ、戦術変えるは必至。
罪人「ふん」
鉄と木をハメて、鉄砲は元通り。
しかし、
「こりゃ…戦のモンじゃねぇな」
信長「…」図星か、黙っておられた。
罪人「ただの、猟銃だ」
帰蝶「狩猟銃…」
罪人「それに、」
ぐるりと集まった家臣らを見渡し、
「大半が銃に振り回されて、終いだろうよ」
どうやら異国体格身長差を言っているようだ。
小柄日本人に四尺鉄砲(120㎝程)は扱い辛い。
信長「ならば、作れ」
罪人「俺は鍛冶職人じゃねぇ、出来ねぇものは出来ねぇ」
信長「では、あの羅針盤は?」

散華の如く~鉄砲と、罪人と~

2013-01-30 | 散華の如く~天下出世の蝶~
煙立ち込め、目から涙が出て来た。
ツン…火薬が鼻を刺激して、痛い。
ジンジン耳が唸り、聞き取り難い。
こんなモノ使って、体制を整える間に、逆に討たれる。
弓矢と違い鉄砲は打つ際の衝撃で、体にブレが生じる。
先に鉄砲を除けた時感じた重量は、赤子より重い位か。
もし、横からの奇襲を受ければ…、
構えの鈍さに加え、命中率の悪さ。
信長「守城戦にしか使えぬ」
殿の仰る通り、抑止、守備には長ける。しかし、
戦国当時の鉄砲技術では攻撃力には繋がらない。
今川戦において鉄砲部隊は初戦惨敗。
偽(ダミー)部隊が奇襲攻撃を受けた。
夜明け総攻撃で形勢逆転。今川氏を討ち取り勝利したものの、
殿の思い描く華やかな処女(デビュー)戦ではなかったようだ。
帰蝶「あ…あの、殿…」
目の痛みと涙が止まり、殿と鉄砲、
罪人と鉄砲を代わる代わるに見た。
鉄砲と罪人…一体どんな繋がりが?
信長「縄を解け」
罪人の捕縄は小刀で切られ、
海の男は自由の身。そして、
「五兵衛と申したな」
殿は海の男を五兵衛と呼び、未だ火薬残る火縄銃を渡した。
罪人「…」無言で、私を手で払いのけ、下がるよう指示、
横にズラした正絹を引きずり戻し、その上に銃を置いた。
「ふん」
顎で縄を切った小刀を要求し、手渡された小刀で、
見るも無残、種子島伝来の鉄砲をバラバラに分解。
身丈程の正絹に鉄と木個々の部品が整然と並んだ。

散華の如く~まどろこい~

2013-01-29 | 散華の如く~天下出世の蝶~
罪人の目を追い、後ろ振り向く、と
帰蝶「と…殿…」
殿が腕組み、私の真後ろにおられた。
話に夢中になり、気が付かなかった。
信長「然様」
腕組みをゆっく…と外し、
除けた火縄銃を手に取り、
徐に構え、
ドンッ
帰蝶「きゃ」
あまりに大きな音に、瞬時耳と目を塞いだ。
破裂音の余韻が消え、恐る恐る罪人を見る。
「空砲…?」
何も起こっていない。海の男は笑っていた。
そして、傍に控える家臣に、
信長「火薬…」を申し付け、
火薬を砲筒に詰め、詰め棒を落とす。
今度は外の的に向かい、鉄砲を構え、
「火…」
火縄に点火させ、
数秒、バチバチ、
音を立て、縄が燃える。
燃え尽き、ドンッ
帰蝶「な…」何が起こったか分からず、殿を見て、扇の的を見た。
的はゆらゆら揺れるに留まり、落ちなかった。
罪人「アンタ、とこっろい戦しとうな」
信長「真まどろこしい(イライラする)」
帰蝶「鉄砲とは…斯様なモノにございますか?」
初めて鉄砲の威力を肌で感じた。しかし、なんと喧しきモノかと思った。
殿の弓矢は美しく静か。一直線で命中率も高い。殿に反し、鉄砲は醜い。

散華の如く~戦場と、船上~

2013-01-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「コンジョウ様…?」
罪人の話をもっとよく聞きたくて、
彼の前に置いてある鉄砲を除けた。
罪人の前に座り、
「もっと、聞かせよ」
海の話を促した。
罪人「あぁ。おれらんことにゃ紺青様が乗っ取とうがよ」
どうやら、海の男たちの守り神らしい。
紺青と藍青(ランジョウ)の姉妹がいる。
金色の肌に海色の衣をまとった女神で、
くくと笑い、私を見た。
「どんなおっかより、おっとろしい神さんでよ」
それからそれで?とさらに話を進めるよう目で合図した。
すると、もう止まらない。饒舌は波のように押し寄せた。
嵐に遭い、何度も命落としそうになった。
何人もの仲間が、紺青様に持ってかれた。
長い航海の武勇を一頻り語り、止まった。
帰蝶「…なぜ、そなたら男は危険と知って、海に出る?」
妻がおろうが?子がおろうが?
家族が故郷におろうが、なぜ?
残された者たちをどう思うか?
罪人「…見せ場ねぇがよ」
帰蝶「見せ場?」
罪人「おれぇりゃにゃ…船きゃねぇがよ」
神さんに己を魅せる。
それが、船上らしい。
帰蝶「…そうか」
罪人「なぁ。早いとこ、ブチ抜いてくんなよ、旦那」
ひょいと首を上げて、
「こぇ、アンタのかぇ?」

散華の如く~海の男の、紺青様~

2013-01-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
罪人は、黙っていた。
帰蝶「話をしては、ならぬのか?」
周り家臣らをぐるりと見渡し、最後信輝を見た。
「それとも、出来ぬ理由でもあるのか?」
信輝は、やれやれ…と肩を竦めて、
お好きにどうぞと首を左に傾げた。
罪人「アンタぁ、賊を見た事あるがか?」
言葉に訛りがある。
どこの出であろう?
帰蝶「山賊風体なら、美濃におったな」
空に父、道三の姿を思い浮かべたら、
家臣衆からくすくす笑いが起こった。
罪人「美濃…?」
帰蝶「私の故郷…そなたは?」
罪人「越州…」
帰蝶「越…越の海は気性が荒いと聞く、波は如何ばかりか?」
罪人「あ?」面白い事を聞く姫さんだな、と私をマジマジと見た。
帰蝶「…美濃には海がない。ここに来て初めて、波を知った…」
父は山に城を構え、海の荒波二頭波の家紋を掲げていた。
山に囲まれた美濃の地で父は海に強く憧れを抱いていた。
それは、
二海を制すは天下を制す。
戦勝祈願にもあるように、
打ち鮑、勝栗、嬉ろ昆布。
海の幸を二つ祀り、男は二海を目指す。
ただ、現実の波と事実の荒波は無情で、
父は、その荒波に呑み込まれて逝った。
「そなた、海の、荒々しい波を感じる…」
罪人「アンタさぁ…紺青様に、よう似とうわ」
下を向き、頬を弛ませ、少しだけ笑った。

散華の如く~海の男と、罪人~

2013-01-26 | 散華の如く~天下出世の蝶~
殿の間には、忠信(側近部隊)、砲撃部将殿の錚々たる面々が集められた。
この面子(メンツ)に、利治…弟はいなかった。
彼ら私を見るなり一堂に礼。頭を下げた。
ただ一人毅然として下がらぬ頭があった。
帰蝶「…(ざ、罪人?)」
その者、首肩腕手首と、厳重に捕縄されていた。
罪人の前に白絹が敷かれ、鉄砲が置いてあった。
試し打ち?
新調した刀の切れ味を試すに罪人を切る、それは良くある話。
まさか、鉄砲の威力を試すに罪人を打つ、公開処刑をここで?
足が竦み、進むに躊躇した。すると、
すすと襖が開き、中庭が一面開けた。
一畝(30坪)は離れていようか、
中央に日の丸金扇が立てられ、
「屋島の合戦でも再現するつもりか?」
信輝を睨んだ。彼は笑ってこう返した。
池田「何なら、的…持ちますか?」
つべこべ言わず、座って座ってと、
彼に促されるまま上座に。
殿のお越しを待つことに。
罪人は、目を閉じ動かず。
まるで、岩のようだった。
何をしたのであろう?この者。
人相を読むに左程悪人には見えない。
鉄砲の火薬に交り、潮の香りが漂う。
日に焼けて肌浅黒く、髪に白混じる。
三十半ば四十位か、海の男を感じる。
帰蝶「そなた、海の賊か?」
海の男に話し掛けた。不意に声を掛けられ驚いたのであろう、
罪人は閉じていた目を開き、私を見た。

散華の如く~面白いモノ~

2013-01-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
森「特に…、何も」
これ以上勘繰るは許さぬ、
一つ、私に目で忠告して、
「御方様、この度はおめでとうございます」
さらりと話題を、私に替えて、
帰蝶「あ…あぁ、ありがとう…ございまする」
死産は辛く悲しかった。だが、今は違う。
丸の養母となり、母の至福を感じている。
これはとても嬉しい、殿のご配慮だった。
実は…、
生駒を側室から正妻に、という話も家臣らから持ち上がった。
だが、殿は死産を重く受け止め、正妻の私を立てて下さった。
茶筅丸より年長を貰い受け、私を養母とする。
これで私正妻の地位安住を量った。
世継ぎに関して、
誰にも、何も、異議申し立てさせぬ、と
そういう殿の強い意志の表れでもあった。
家督相続もしくは謀反起こそうものなら、
敏感で繊細な彼の激昂ぶりが目に浮かぶ。
森「今度、うちのも連れて来ます」
池田「じゃ、うちのも連れて来ますよ」
ひょこと角から顔を出し、
帰蝶「信輝、そなたまた傍立ておったな」
池田「それより、子守は良いんですか?」
帰蝶「母にも暇が必要じゃ」
池田「なら、義姉さんも、どうです?」
帰蝶「え?」
池田「面白いモノを見せてやるって、徴集令が出たんですよ」
ささ、行きますよ。信輝に背中を押されて、殿の間に向かった。
帰蝶「面白いモノ…?」

散華の如く~戦の傷と、戦利品~

2013-01-24 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「きゃッ…、また」
引っ掛けられた。
布おむつを外した途端、しっこ噴水。
ぴゅーう…、
この噴水も日常茶飯事でもう慣れた。
ぴんと一つ小さく男のそれを弾いて、
おしめを替えて…と、
「洗ってくる」
布おむつを丸めて、
こい「それは私が…」
帰蝶「手を、洗いたい。そなた、丸のを頼む」
市との遊びに夢中になっている丸を、ちらりと見た。
丸は、私に気付いていない。今のうち、
さっ…と部屋を抜け出し、手を洗って、
「おむつを頼む」
女中におむつの替えを運ぶよう申し付け…て、
「と?」
出会い頭で、
ドンッ
私の左肩と、
森「…ッ」
可成様の右腕が、ぶつかった。
一瞬、顔を歪ませ、元に戻し、
「大事…ありませんでしたか?」
すかさず左手を差し伸べ、
私の体を気遣った。だが、
帰蝶「その腕…」
彼の右腕が、ぶら…んと力無く下がったまま。
「どう…なさったのですか?」
彼は、右腕を負傷していた。

散華の如く~信忠と信雄~

2013-01-23 | 散華の如く~天下出世の蝶~
左の胸をしゃぶるは、生駒の子。
後の、信雄(のぶかつ)。
右の胸で乳を弄るは、誰の子であろう。
殿は戦の巻沿いになった民に、
そ…と金を渡し、礼して帰る。
そんな御方だから、
この丸もまさか…、と思った。
胸を弄る丸を抱き寄せ、
良い子、良い子、した。
この丸が奇妙(帰命、キミョウ)丸、後の織田信忠。
我が弟利治とヤスケと共に本能寺離れ二条城にて、
明智方と戦い、そこで自刃した、我が息子である。
息子の忘れ形見三法師(信秀)は、彼はキリシタン。
神は斯様にして十字架を課し同時、恩寵を授ける。
しかも、唐突に…。
突如として二人の子を抱える母と成り、
何かと忙しなく、常日頃が疎かになる。
「ヤスケ、ヤスケ。ヤスケを知らぬか?」
いつも傍に仕えていたヤスケがいない。
どこへ…?
こい「さぁ、存じませぬ、が?」
ヤスケが、何か?
と、首を傾げる。
帰蝶「…」
おかしい…何か、隠している。
こい「さぁさぁ、御方様…そろそろ、」
帰蝶「あ…、あぁ」
子らが昼寝から目を覚ます刻限だった。目覚めに母の姿、
この顔が見えぬと暴れん坊やは機嫌を損ねて喚き散らす。
ヤスケが気になった。だが、今はすまぬと、黒を思った。

散華の如く~我が天主と、その恩寵~

2013-01-22 | 散華の如く~天下出世の蝶~
信長「おう、ははじゃ、はは。はっはは」
ほれ、丸。と私に子を押し付け、
帰蝶「ちょ…ッと、殿、この子はッ」
どこの馬の骨の子か、母は誰かと、
素性を問い質そうと声を荒げたら、
丸「は…はは…」
がく…と、
母じゃ…ない…と、
「う…う、う…うぅ」
栗色の瞳が一層艶やかになり、
丸の口がへの字に大きく歪み、
今にも泣き出しそうになった。
これは、マズいッと、
ぐいと、
もう片方の胸を出し、
帰蝶「そなたも、吸うか?」
手を伸ばし、丸の腕を取って、
右胸に丸の小さい頭を寄せた。
丸は母の膨らみに恐る恐る手を伸ばし、
その小さな手々で母の感触を確かめた。
丸「はは…」
私の乳房を口に含み、吸い始めた。
兄弟同じ母の味を飲ませていたら、
帰蝶「あ…」
くる…、殿は退散。
我が天主は情に厚く、まさか…と思った。
だから、深く追及せず、子を引き取った。
これこそが天主から頂いた、恩寵と考え、
私を、母にして下さいませ
天主のご意向により、丸の養母となった。