ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~母、ハハッ…~

2013-05-13 | 散華の如く~天下出世の蝶~
その声を辿り、
くるり、
殿に向き直り、
帰蝶「もちろんに、ございます」
口を一に、キュッと結び、
不安をギュッと押し殺し、
殿を一つ、キッと睨んだ。
母としての覚悟に、
信長「惜しいものよ、濃…」
父が漏らした本音。
そんな殿の弱気を、
くる…と、
帰蝶「…」
私は背中で聞いた。
寧々の案内で城内外を、猿の手引きで手の内を、
隈なく明かしたその夜、パチパチ、弾ける松明。
暗黒水上に舞う火の粉。丸を連れて、長良川へ。
小堀「懐かしゅうございます、帰蝶様」
小堀は昔の癖で、私を本名で呼ぶ。
私もついつい、濃から帰蝶に帰る。
帰蝶「十で初めて、鵜を見て…震えたわ」
青い目が、ギロリ、睨むようで怖かった。
小堀「ほ…安心致しました、帰蝶様にも怖いものがあると知って」
帰蝶「まぁ、無礼な」
小堀は弟のような存在であった。遠慮気兼ね、不要のやり取りに、
帰命丸「母、ハハッ」
手をぐいぐい、こっちこっちと引っ張る。
帰蝶「これ、丸。母をそう急かしては…」
注意しようとした矢先、する…と、私の手を外し、
「丸…?」闇に消えた。