ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

告げ口みたいで…

2011-08-31 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「どこで寝てんだ?」黒髪と体にまとわりついているわらを払ってやろうとしたら、
愛「ツネ様ッ」ガバァッ、抱き付いてきた。
義経「もう…」一人、何もしてやれない女がいる。継たちの妹で、猿の元許婚。
愛「東廻船で、逃げられました」
義経「…」という事は、葵は江戸経由 堺行、または、どこか寄合港で降りた…「分かった。ご苦労だった」と、黒髪を撫でた。する…と、わらが滑るように落ちた。
愛「はいッ」ニコッと笑って、俺の胸に顔を埋めた。ギュッ、抱き締め「会いたかった…」
この顔と態度が胡散臭い…空元気と虚勢、俺と奴を重ねてる…だから、
義経「いい加減、放せッ」言葉では突き放せるが、行動には、なかなか…移せない。
そこへ、いきなり戸が開き「匠君ッ、黒栖くん…」ガッ!?口が開きっぱッ
賀茂女「きゃぁ~!」二日連続で料亭中に叫び声が響き渡った…。そして、バッチーン、
チュンチュン、チュンチュン…
賀茂女「ご、ごめんなさい。つい…」
義経「つい?よく見ろッ。今度は俺が襲われたんだッ」与一と競った張ったの頬を冷やして、
愛「ふんッ」自慢の黒髪を大きく振って、
義経「愛ッ」パタン、部屋から出て行った。
賀茂女「何ッ、あの人ッ!」ムカつくッ!「昨日も、繭子さんにひどい事言ってッ」
義経「繭子に?」
賀茂女「あ…」告げ口みたいで「その…」決まり悪くて…、
義経「何があった?」賀茂女を逃がさないように腕を掴んだ。
賀茂女「イッ…」どうしよ、たじろいでいたら、
サブ「邪魔するよっ」と部屋に入って「賀茂女ちゃん、外してくれる?」
義経「…」パッと賀茂女の腕を放して、
賀茂女「匠君ッ」を探しに、逃げるように出て行く所を、
義経「賀茂女ッ」を呼び止め「アイツの朝飯も、頼むな」
賀茂女「…」ゆっくり、こちらを向いて「はい」と笑い返してくれた。タンと戸が閉まり、
義経「…で、あいつ、何やらかした?」
サブ「繭子さんに、ケンカ、売ってた」
義経「ケンカ?繭子だったら、啖呵切って、」
サブ「頼朝のスパイ、って

一、二、三羽?

2011-08-30 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
キキッ、火鷹が小さく鳴いた。
満足か?この俺の腕に乗り、肩に乗って、この、俺の手からエサを貰うようになって、人間に甘える事を覚えて、満足か?人間によって動かない足を切断され片足となって、俺の腕を踏み台に飛ぶ事を覚え、名を与えられ、…幸せか?火鷹(ほたか)
「俺の薬じゃ、足は生えてこない」
役立たない薬ばっか、ごめんな…そっと手を伸ばしたら、キッ、鋭く、火鷹が威嚇した。
モゾッ、わらが動いて「誰だ…?」ガサッ、わらを除けたら、女の人が寝てた。
火鷹を枝に止まらせ、眠る女性の脈を測った「正常…」だけど、こんな所に寝かせておくのはと思って「ヨッ」とその人を負んぶして、料亭の部屋に連れ帰って、布団に寝かせた。
そこに、義経さんがいて、「愛(めぐ)ッ!?」と驚いた声を上げたけど、
匠「知り合い?」俺は、そっちの声に驚いた。彼女、起きちゃうでしょ。ダメじゃんって。
義経「あぁ。ちょっと…」
匠「…」ちょっと?あやし…まぁ、どうでもいいけど。
義経「それより、カケはめて、」
匠「戻ってきた。二羽とも」
義経「もう一羽、いなかったか?
匠「…さぁ」スッと立ち上がって「その人、よろしく」
義経「どこ行くんだ?」
匠「朝練…」パタンッ、戸が閉まった。
心まで閉め切られたようで、義経「ふぅ…」溜息が出た。アイツの心の城壁は、守りが堅ぇ。
コツンッ(おいッ)、海尊の頭を足で小突き、
海尊「ッてぇ」とその声で、弁慶「ふぁ…」大きく伸びをして、二人とも起きた。
義経「松殿を探してくれ」と頼んで、
弁慶「松殿?」
義経「それと、忠ッ」起きてんだろ?と睨んで、
忠「ンだ?」ムクッと面倒な事はヤダぜぇ。頭を掻いて嫌なそうな顔を向けた。
義経「池田と、能子を連れ戻せ。以上ッ」
忠「あん?」
三人とも着替えて、サッサと部屋から出た…、しばらくして、
愛「パチッ」と、目が覚めた。

捨てたくせに…、

2011-08-29 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
キキキキッ、高い声を上げて、鳴いた。主の許に戻って、エサにあり付け、満足したか。
エサを食べ終えた火鷹が肩に乗って来た「ッツ…」爪が少し伸びている。肩の肉に爪が食い込んで痛い。けど、すりッ、頭をすり付けて甘えて来た「この足でどこまで行ってたんだ?」
心配するじゃないか、コツン、頭で小突いて、すりっ、小さい頭と大きな頭をすり合わせた。
「最初は、あんなに威嚇してたのに…」俺に向かって、二匹で、キィ、キィ、大きな口を開けて威圧的に叫んでいた。キーッ、頭上からさらに鋭い声が聞こえた。親鳥が俺の様子を伺っている。おそらく、獅子 我が子を千尋の谷から突き落とす…弱肉強食の自然界の掟…俺は、その試練の日に遭遇してしまったんだ。飛べるか?飛べないか?狩が出来るか?出来ないか?
こいつらは試されていた。ただ、この二匹、ぴたりとくっついて離れない。鋭い目で俺を睨んで、威嚇して、
キィ、キィ
二匹のうちの一匹が、羽をバタつかせるだけだった。それで、足が動かないんだと分かった。
脚力がなく、飛び立つのに瞬発力なく、飛べないんだ。まだ幼く、羽の力も弱い。
自然界の弱者…鷹にとって飛べないのは致命的だ。その足で自然を生き抜くのは困難だ。
ず…、俺が彼らに近づくと、もう片方は、キィッ、鋭く、大きな口を開けて、威嚇を強めた。
地べたを這いつくばるもう一方の鷹の前に立ち、羽を広げて、来るなッと言わんばかりに、俺に攻撃を仕掛けてきた。
キッ
違う、このままじゃ、飛べる君も、命が狙われる。危ない。
キィッ、来るなッ
そう言っているのが分かる、でも、後ろの彼は、足が動いてない。そいつが枷となって、君までも…危ない。
俺は、飛べる君を、守りたいんだ。何とかしたくて、何とか出来ないかと、サッ、飛べない方を、懐に仕舞い込み、
キィーッ
走った。
追い掛けて来た。それを見て、親鳥も空から威嚇してきた。
違う、君らが一緒にいたら、危ない。だから、俺は…、
“守るんだ”
「チッ」10年前の…、兄貴の言葉が不意に蘇った。守るって何だよ?俺を、捨てたくせに…。

すれ違う兄弟

2011-08-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「戻るか、戻らないかは、アイツ次第だ」
与一「いいえ、俺次第です」
シュッ…ビシッ
速い、迷いが無い。いい音だ、義経「…邪魔したな」弓を置いて、弓道場から出た。
与一「チッ」ガッ、弓を地面に叩き付け、
“戦線離脱しなッ”
耳の付く嫌な言葉に「くッ」持っていた矢を、バキッ、へし折った。
それを弓道場の裏で見ちまった…、義経「…何やってンだ、俺は…」ふぅ…と干してある、
昨夜染めた紅色の生糸と染めていない生糸を手に取って、繭子が眠る寝室に向かった。
寝てる、よな…と思ったが、人差し指を曲げて、コツッ、一回だけ小さく打った。すると、
す…と戸が開き、繭子が出て来た。子供が目を覚ますから…と、パタン、戸を閉めた。他の連中もまだ寝てるようで…「!?、目が赤ぇぞ」と小さく言ったら、
繭子「知らないの。二時間おきにミルクをあげるのよ」(赤ちゃんによって個人差あり)
義経「寝てネェ…の?」
繭子「これ」義経の手から紅の生糸と、白の生糸を「織ればいいのね」と引った繰って、
義経「あ、あぁ…その」朝日に照らされた彼女の頬に、うっすら、
繭子「分かってるわよ」スッ、戸を開けて、
義経「何かあったのか?」涙の痕が付いていた。
繭子「夕方には仕上がる」パタンッ、戸が閉まった。
義経「お…」い、途中で途切れた呼び掛けを、彼女の心に届くはずも無く。ただ、不安の糸だけが絡みつ「く…」身動き取れない蝶が…浮かんで、フッと消えた。どっちの蝶だ?
能子か、繭子か…救えない平家の女たちを「俺にどうすれってんだッ」グッと拳を握った。
澄んだ空気を大きく吸い込み、空を見上げた。すると、
匠「あ…」アイツら、戻って来た。急いで左右にカケをはめ、腕を突き出した。上空を旋回していた二羽の鳥が主の腕を見つけて降り立った。バサッ、バサッ、ゆっくり、羽を閉じた。
「お帰り」利き腕に俺の鷹 火鷹と、右腕に賀茂女の隼 黒栖を乗せ、動物小屋に向かった。
そこには、義経さんの名馬だけがいない。兄貴と能子さんが乗っていた。すれ違った…けど、
また言葉交わせず心通わず。どうしてだろうな。言葉の分からない奴らとは通じ合えるのに「ふ…」苦笑交じらせ、二羽を木の枝に休ませ、エサを与えた。
言葉が空しく「何のための言葉だろう」火鷹の首のあたりを撫でた。すると、

戻すつもりですね

2011-08-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「…」腫れ上がった左頬…「相変わらず、いい音だ」何か言いたい事がある時、
与一「…」決まって黙る。こいつの悪い癖だ。相変わらずヒネた奴で、
義経「鈴だったら、まだ寝てるぞ」
与一「昨夜、遅かったようですね」
義経「あぁ。巴に義仲の事、聞いてた」転がってる小さめの弓を拾って、矢を3本取った。
一つ口に銜えて、二の矢を手に持ち、番えて、一の矢、シュッ、ビッ、
与一「…」番え短く、放ち速く、迷いが無い「変わらないですね」
二の矢、シュッ、口に銜えた矢を取り、義経「的に当てようとしてないからだ」
シュッ、ビシュ、ビシュと連続三本、矢を射た「的にこだわってっと、大切なモン逃すぞ」
与一「能子さんの事ですか?」スッと弓を番えた。
義経「お前の事だ」
与一「的が見えていないと、注意を受けました」キリッ、番えたけど、呼吸整わず、
義経「あん?」
与一「教えて下さい」ふぅ…力が入らず。す…と弓を下ろした。
義経「弓で、お前に教える事ない」といったら、見えない目で睨んで来た「何を知りたい?」
与一「女性の幸せとは何ですか?」
義経「そういうの、アイツに聞け。俺が知るか」
与一「では、男の幸せとは何ですか?」
義経「着るモンがあって、飯食えて、寝る場所あって…」
与一「…」再び、弓を番え、キュー…ン、
義経「時に、女の膝で寝る事だ」
シュッ、矢を射て、与一「はい」ビシュ、的に当たった。
義経「いい音だ」…が、その珍しいくらいの良いお返事に、不安が過ぎった。
与一「彼女との結婚は、間違っていたんでしょうか?」
義経「ッ…」予感が的中しちまった。
与一「彼女との結婚、反対してましたよね」
義経「俺たちが思っている以上に平家との壁は厚い。それに、あの壇ノ浦が、」
与一「同情や贖罪で、結婚したわけではありません」
義経「分かってる。ただ、アイツは俺の妹である前に、平家の、清盛の娘だ」
与一「やはり、彼女を宮中に戻すつもりですね?」

紅白舞踊合戦、舞台裏

2011-08-26 | 日記
筆者が、紅白舞踊合戦をやりてぇッ!!と思って、
悩んだ。
ほれ、平家の赤組って女性陣、源氏の白組って男性陣。
で、女性の出演者が足りない。もう一人、女性の舞手を作っておくべきだった…と反省しても始まらないから、
「池田ッ、ちょっい来いッ」くいくいと手招きして舞台裏に呼んだ。
池田「なんです?」と相変わらず、無愛想な、イヤっそうな顔してやって来たが、
そんな顔、読者に見えるわけではない。よって「お前、女になれ」と筆者の特権で命令下した。
池田「は?」イヤですよ、と全身から嫌々マイナスオーラを発してきやがった。
「おいおい、筆者に逆らうのか?出番マイナスにするぞ」と脅したら、
池田「いいんですか?」クッと笑った。
そう、こいつはキーパーソン。よって、マイナスに出来ない。
それを重々分かってて、ふてぶてしい奴だ…。
斯くなる上はッ、
「能子が、困ってるんだがな…」ボソッと呟いた。
池田「え?御方様が…」なんだかんだで、御方様が心配らしい。
「そ、赤組女子、彼女一人なんだ」あぁ、可哀そう。
能子、舞台前って緊張するし、体硬くなるし、
それに、今、精神的不安定…だし、あぁ、どうしよッ
頭を抱えて、体をくの字にして悩んだフリして、チラッと池田を見た。
池田「白拍子舞…でいいですか?」と言うもんだから、
「OK、交渉成立ッ、女装変化舞でイケッ!」
というわけで、池田は白拍子(変化)舞になった。

池田の顔立ちの設定を女顔美形にしておいて、ほんとによかったと思った瞬間です。
ちなみに、この顔には理由があって、池田のネェさんが関わってる。
兄弟姉妹、どことなく似てるよね。性格だったり、顔立ちだったり、性根の部分だったり…遺伝子ってそういうもんさね。
だから、美作(みまさか)君とくりそつした。
ま、それは、本能寺の変、その因縁で語ろうかと思って書いている。
とにかく、池田に女装させて人数調整、平家赤組は女子の人数が揃って、
源氏白組男子が帳尻あった。良かった良かった。
という、少々どころではなく強引な紅白舞踊合戦でした。
舞姿も見えネェし(私は、しっかり、脳で見てっけど…)
ま、そこらは自由に想像して、妄想の域に達しくれ。
この物語、ついつい、本編からズレて、私の意志が入ってしまうね。
今回の舞踊合戦は、
変化と鎮魂、復活の意志を鹿嶋の神(地震の神、相撲武芸の神)に見せたかった。
という私だけの思惑があり、私の信念の一握りが入っていたんだけど、
分かりにくッ。
分かりにくいかも知れないけど、池田氏は薬だけでなく、医療方面にも力を注ぎ、文化芸能教育に関心が示していた。そういう博物館や学校施設を作った方で、私なりに、ご先祖様を敬っ、それを活かして書いてるんだ。

ほんと、分かりにくいけど…。


紅白舞踊合戦閉幕…それぞれの思い

2011-08-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
鹿島「ようやく、思いが定まったようですね」
能子「私、ここに居させて」戻りたくない…「お願いッ」池田さんに頼んで、
池田「分かってます」
継「あったり前よ」能ちゃんの手をギュッと「ッテ」握り返した。
能子「ありがとう、ありがとう」うんうんと何度も何度も頷いて、ここに居ていいんだって、思うようにした。その、いつもでも繋がってる源氏と平家を見て、
池田「…?」富樫さんが、厳しい目で口を堅くして見ていた。それが妙に気になった。
その後、いつもの富樫さんに戻って、豪快に継さんと酒を浴びるように飲んで、宴の時間が過ぎて行った。宴も酣、月も眠くなる頃に、
志津「私たち、先に寝るよ」と、能子「おやすみなさい」と部屋に戻っていった。
御方様の後姿が見えなくなるのを待って、池田「何か、気になる事でも?」
富樫「いやな、平家の女たちは、男以上の戦してっからな、目を放すなよ」
池田「はい」
戦…“散々、命張られたよ”…妙な気持ちが、嫌な予感に変わって、
富樫「ほら、もっと飲めよ」と、酒と予感を煽ってきた。だから、
池田「飲み過ぎです」一言、注意しておいた。
布団に入って、能子「おやすみなさい」志津さんの隣で眠った。ずっと、源氏の、傍で緊張していた…だから、今日は、悪夢が来ないうちに眠れ…そ…う、
志津「おやすみ」ふぅと行灯を消して、月夜に照らされる彼女の寝顔を見た「源氏の妹に、平家の娘…か」その寝息を聞いて「なんて小さい息吹なんだろうね、まったく」
夜が更けても眠れぬ夜を過ごすのは、酒田の女二人だった。
月明かりが朝日に代わるまで空を眺める、継の妹 愛「能盛(よしもり)…」と、
繭子「能登に、帰ろ…か」我が子 和菓子を見つめていた。
それぞれの、長い夜が明けて、
キュー…ン、シュッ…ビシュ
義経「…」弓の音で、目が覚めた。畳まれた布団を見て、匠がいない、と気付いた。急いで着替え、弓道場に向かったら、与一がいた。弓を番え…こちらからは左頬が見えない。
キュー…ン、シュッ…ビシュ
…的から大きく逸れた。
与一「おはようございます」スッ、弓を下ろし、こちらを向いた。そうしたら、見えた。

源氏も、平家も、同じくらい好き

2011-08-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
鹿島「彼女と、お月見の約束をしていてね、」
志津「神宴(しんえん=神楽)には、人がいるだろ?」と笑って、鹿島に杯を渡した。
能子「昼間は…」私が台無しにしてしまった直会(なおらい・神と人の宴)に、
“その女、平家だぞッ”
「すみませんでした」グッと苦しみを堪え、深く頭を下げた。
鹿島「あなたが気に病む事はない、と言っても、今は無理でしょうね」と彼女の頭を撫でた。
池田を見て「人間とは弱いものです。弱く、その愚かさ故に強くなれる。そう思いませんか?」
スッと杯を出して「注いでくれませんか?」と願い出た。
池田「はい」正面に座し、一礼して酒を注いだ。
鹿島「源氏に平家、異なった土俵では勝負にならず。同じ土俵も息合わねば勝負付かず。息を合わ(仕切り直し)せねば、し合う(試合)事ままならず。互い同じ目線に立ち、痛み苦しみ辛さ分かち、相手の度量思い量る。能の真髄…慈悲。それを知るあなた方なら、人の弱さ、脆さ、愚かさ、よく分かるはず」
能子「それ故に、定まらぬ己の意思…要石」舞い終わった継さんを見て「私はこの出生から、源氏と、」池田さんを見て「平家との狭間で、思いを定める事が出来なかった…」戻って来た不死鳥に「継さん、素敵でした。手を…」と、酒を持った。
継「あん?あぁ…」気付かなかった。握り締めた笹竹をパッと放し、バサッ…と地に落とした。その笹竹は血に染まっていた。掌も血に染まり、トクトク…トクトク…、酒で掌を洗い流した「ッ、沁みるぅッ」酒が沁み込んで、ようやく、掌が擦り傷だらけだって気付いた。
池田「もくしょな事しますね(乱暴な事しますね)」襷をピッと横に裂き、彼の手に巻いた。
継「もくしょ?」
富樫「こっち(越中)の方言だ」
継「ところで、このじぃさんは?」と不躾に聞くものだから、
志津「ねぇ」鹿島を見て「可愛がってやりたいタイプだろ?」
くッと酒を飲み、鹿島「ま、今宵、不死鳥に免じて勘弁しましょう」と笑っていた。
継「あん?」
能子「継さん。この方、鹿島 庄之助様といわれます」と紹介して「私の意思を定めてくれた方です」と付け加え、治療された継さんの手をソッと取り「私、源氏も、」
継「能ちゃん…」
能子「平家も、」池田さんの手を取り「同じくらい、好き」

いさな、雀

2011-08-24 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
バサッ、笹竹を振ると血が笹竹を伝った。その血染めの笹竹が傷付いた翼のように見えた。
伊達男が青く撓(しな)った笹竹を振り乱し踊り狂う。伊達の家紋 竹に雀をモチーフにした、
「いさな、雀(いざ、すすめ)」
(1604年 仙台城竣工祝いに披露された舞で即興舞です。今尚、仙台青葉祭で舞い継がれます)
笹竹を伝う血が弾け、血染めの笹竹が月光と雪洞の光を帯びて橙に染まり、まるで、
能子「朱雀(すざく)…」伝説の瑞鳥 不死鳥のようだった
平安の頃から笹竹は桐と同じく瑞鳥(幸運ぶ鳥)が羽を休める神聖な植物とされていた。
兄の源流 清和源氏も、その縁起から笹を家紋に用いている「こんな身近に伝説が…いた」

志津「めでたい男だね」
能子「…どうして…人はこんなにも愚かなのでしょう」
池田「…」
能子「五人の求婚者が遠い遠い国まで捜し求めた物は夢幻、決して掴むことの出来ない陽炎。しかし、伝説や瑞鳥は、人が作りるものだった。こんなにも近くに、手を伸ばせば届く所に、それは確かに存在している」
志津「無いモノをねだってる暇があったら、近くの姫に気付いてやるべきだ」ねぇ?と池田に同意を求めた。
池田「はい」
能子「あ…」つぅ…と一筋、流星のように曲線を描き、頬伝い、ブルッ武者震いが走った。
伝説の不死鳥、継さんの再生の象徴に震えを覚え、感動…した。人が伝説に変わり行く瞬間を私は美しいと思う。その美しさの前では誰もが畏敬の念を抱く。そして、それは神からの美しき恩恵で、私たち人間に与えられるものだった。
池田「…」スッと手拭いを差し出した。それは、
能子「鹿島様…」清和源氏の家紋 笹竜胆の手拭いだった「ありがと…」
池田「洗って、返して下さいよ」と、いつものように、いじわるで、
能子「もうッ」手拭いを受け取り、コクンと頷いた拍子にササッと目頭を押さえ涙を拭った。
富樫「池田…」を小さく呼んで、酒を軽く持ち上げた。杯を出せという合図だった。
池田「はい…」会釈して、かつての平家の敵から酒を受け、それを飲んだ。
志津「源氏と平家が同じ土俵(舞台)に立つ日が来ようとは、ねぇ」と後ろの人物に声を掛け、
鹿島「悪くないですな」スッと志津さんの隣に腰を下ろした。
能子「鹿島様…」

逝くさ

2011-08-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
…舞台から降りて、能子「池田さん…?」眉間にしわを寄せて、私を寄せて「何…?」
池田「まさか、剣舞とは、思いもよりませんでした」キョトンとした彼女の、鉢巻をグイッと取るフリして、胸元を見せ、サッと胸を隠し、襷を外して肌蹴た浴衣を着付け直した。
それで、能子「は…」として、
池田「おっ…」方様が、俺の腕をぐいっと引っ張り、サッと後ろに隠れてしまった。
彼の背に身を隠し月見台に戻って、能子「ありがとうございました」義兄に脇差をお返して、礼と共に赤くなった顔を隠した。だって、肌蹴た胸元、大腿を晒し、
志津「まるで、天鈿女命(アメノウズメ)だね」笑っていた。
富樫「見事な太刀舞だ」受け取った刀を脇に差し「なっ」と継に目配せして、
継「いいモン、見せてもらったなっ」と池田にウィンクして「もっと、明るくしとくんだった」ちぇッ(パチン)と舌と指を鳴らした。
能子「もッ」ムッとした顔を上げて、まるで子供を叱るみたいに継さんに睨み利かせた。
継「東北鎮魂舞踊見せられちゃ、伊達 佐藤も出陣だ」立ち上がり、襷を外して半身を出した。
能子「あ…」屋島の合戦で受けた矢傷が、肉を食い込み白くなっていた。その傷が、あの戦の激しさを物語っていて…壇ノ浦…を思い出し、サァ…血の気が引いた。
舞台に向かう途中、継「クッ」ガシッと笹竹を鷲づかみ、力に任せ、
バキッバキッ、二本へし折った。そしたら、つぅ…、血が流れた。
能子「継さんッ」の血を見て、ガシッと池田さんの腕を掴んでしまった。その手は、
池田「…御方様?」とても、冷たい。
能子「あ…」パッと手を放し「ごめんなさい」平静を装い、継さんを見た。
志津「たくッ、人ン地、荒すンじゃないよッ」という言葉とは裏腹に、顔は微笑んでいた。
何を舞うのか…しばしの間、継は舞台中央から、空を眺めていた。そして、
継「池田ッ」傷を負った背中を見せながら「目に焼き付けとけッ」クルッとこちらに向いて、宣戦布告のように笹竹を突き出した。
“傷痕は、本人にしか分からない痛みが残る…そうでしょ?”
記憶と共に蘇る痛み、今でも傷痕が疼(うず)く。塞がったはずの傷は、治らない。
人は傷や痛みを消そうと躍起になる。薬を塗っても、飲んでも、消えてはくれない。
池田は分かってんだな…この世に万能薬なんて、ネェんだって。生きるのは苦しい。過去の傷は、決して消えない。そして、他と同じにならない傷だから、それぞれ生涯背負って逝く…それが、戦という、逝くさ…傷痕は見えるものも、見えないものも人に背負わせてしまう。