ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~故郷美濃の、茶器~

2013-03-31 | 散華の如く~天下出世の蝶~
五兵衛「んん??」
どういうこっちゃと言いたげに、
眉間にシワを寄せ、私を睨んだ。
帰蝶「それより早う、出よ」
憑きものが居りそうで、監獄氷室は気味が悪い。
五兵衛「へいへい」
氷室から出ると、ひゅうぅ…と、
風がセイロンの香りを飛ばした。
帰蝶「龍が喜んでおるわ」
五兵衛「龍…?」
帰蝶「こちら(故郷)の風のこと」
濃尾平野を走る風、人は、
龍の伊吹(いぶき)という。
五兵衛「あぁ。あゆの風、な」
帰蝶「あいの風…?」
五兵衛「おらが風よ」
帰蝶「良い名である」
どうやら、五兵衛のお国、
越の風をそう言うらしい。
「なぁ。この茶を入れてくれぬか?」
五兵衛「あ?」
帰蝶「そなたも混ぜて、5人分」
五兵衛「ごッ」
今度は、五兵衛を引っ掴んで、竈に連行。
帰蝶「確か、ここに、」
戸棚を開け締め、木箱を取り出し、
「違う…これじゃない」
五兵衛「あん?」
何を探しているのかと私を訝しむ。
帰蝶「父の、茶器…」

散華の如く~茶の道と、茶器~

2013-03-30 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「ふぅ~ん」
茶葉の袋を鼻に近付け、
セイロンの香りを堪能、
「茶の出涸らし、子供に始末付けさせるなど…」
まだ15、6…世間を知らぬ若者に、
大人の醜きを見せるは気が引ける。
大人に利用される子の身になれば、
五兵衛「…とっとの舌は、そん所そこらの舌じゃねぇ」
帰蝶「何でも舐める、あの舌がか?」
何も知らぬ無辜の魂、如何ばかりかと、
見知らぬ地に連行された青年を思った。
しかし、
五兵衛「侮んなやな、ガキを」
“茶の道を生きたい”
頭に茶の後見人と成って来るよう、
帰蝶「直訴?」
五兵衛「あぁ。どでぇ玉だがよ」
その日その日、生きるための漁より、
“一服、進呈致します”
その時その瞬間、出会った人へ、
渾身の一服、自ら差し出したい。
「頭も頭、何っつたと思うよ?」
帰蝶「…あの殿の事だから…」
風変わりな輩を愛でる癖が御有りで、
ぺろり、
鉄を舐める與四郎の姿を思い出して、
「茶を出すだけでは、済まさぬ」
五兵衛「お察しの通り」
“足りん。持て成すには、相応の器を持て”
帰蝶「舐める癖は、そこからか」

散華の如く~とっとの茶と、密売と~

2013-03-29 | 散華の如く~天下出世の蝶~
茶葉を一握り救い上げ、
袋に詰め、私に渡した。
五兵衛「公にされた茶会で、」
離れ四畳半の御茶室では武器の持ち込み厳禁。
それ故、刀の長さ以下に出入り口を設計した。
二人ないし三人で茶会と称した密談を開催し、
主催軍師が戦術を披露、戦法戦術が決定する。
また、来賓の贈呈賄賂の茶器茶釜は和睦の証。
「御頭がイチャイチャ軍師と茶を飲んでっと思うか?」
帰蝶「なるほど…」
五兵衛「分かったか?」
と…セイロンの木箱に、
重そうな木蓋を乗せて、
帰蝶「そうやって、そなたら海賊…」
五兵衛は元海賊で、
異国の武器を密輸。
鉄砲を高値で流す。
「船上で密談しておったのか?」
五兵衛「…」
帰蝶「しかし、その、とっとの茶だけ…と言うのは分からぬ」
五兵衛「アイツ、とっとは…」
五兵衛の家とは古い付き合いで、
堺に停泊した時立ち寄るとと屋。
その倅(せがれ)でとっとと呼ぶ。
とっとの家は表の稼業は漁師で、
とと(魚)屋。裏稼業は武庫管理。
「交渉成立には欠かせねぇ、茶を出す係よ」
密室での交渉は緊迫、手に汗握る。しかし、出された茶でほっと和み、
さらに、幼少より母に仕込まれた茶の湯で接待すると、敵の心も解れ、
ほ…と、難航を抜けて、武器密売交渉が成立する…という流れらしい。

散華の如く~Let's Tea- Party~

2013-03-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
監獄拷問所は、
ひやり、
夏も涼しく、
ぞくり、
気味が悪い。
ぞくぞくと悪寒が走って、
酷い拷問が脳裏を走って、
つつ…と、脂汗が流れた。
五兵衛「ちっと、待っとけよ」
ぶつぶつ…、
女連れ込むとこじゃねぇやな、
ぶつぶつ…、
言い訳のように独り言を並べ、
重厚な木箱の蓋を、
ゴトリ…と開けて、
ふわぁりと香った、
帰蝶「この香り…確か、」
沢彦様の、
Let's Tea- Party
「紅茶…」
五兵衛「御名答。セエィロン」
帰蝶「セイ…ロン」
五兵衛「西洋では、こん茶を廻る戦が起きとうがよ」
“セイロン戦争”
世界には茶葉の輸出入を制限する法令があり、
Tea- Party(茶会)開催権を貴族階級が保有し、
「エゲレスじゃぁのう、茶を政治に利用しとう」
帰蝶「一服するだけなのに…、制限するなんて、」
殿は何を考えて…、
五兵衛「アホ。密会密室の、その一服が怖いがよ」

散華の如く~お茶戦争~

2013-03-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
「あぁ~おめえ、まったこったらこと」
後ろから例の訛り、
振り向くとやはり、
與四郎「五兵衛どん…」
二人、顔見知り?
五兵衛「とっと、何でも食うなや」
五兵衛は、與四郎をとっと?と呼んだ。
とっと?
帰蝶「魚?…腹が空いているのか?」
五兵衛「アホが、早うイねや、おっとろし」
シッシ、シッシと、私を手で追い払い、
「おらが首、飛ばす気か?こんダラ」
私の腕を掴み、小屋からつまみ出す。
帰蝶「アホ…ダラ…」
これは堺と越の訛り言葉で、つまりはバカ。
元罪人五兵衛の訛りは北から南まで幅広く、
私が誰であろうが全く関係無く、扱いが雑。
水車小屋から乱暴にポーン、放り出された。
「私はただ…茶葉を分けて欲しいと、與四郎殿に…」
五兵衛「頭に言えや」
帰蝶「そなた一服するに、わざわざ、上のお伺い立てるのか?」
五兵衛「…ッ」
一瞬、怯んで、
「とっとの茶だけは、頭を通せ」
帰蝶「とっと…の茶…だけ?」
よう分からん、機嫌を損ねたら、
五兵衛「ちょっと来いや」
私をつまみ出したかと思えば、
しょっ引き、地下元拷問所へ。
深い茶事情を説明してくれた。

散華の如く~孟宗竹の如し~

2013-03-26 | 散華の如く~天下出世の蝶~
ぎぃ…ゴトン、ぎぃ…ゴトン
武庫内に清洲川を引き入れ、
三日で水車小屋を作らせた。
彼のための、彼専用の小屋。
水車がゴトン、岩盤を砕き、
ゴロゴロ…石臼が粉を挽く。
帰蝶「そなたの抹茶粉、分けてはくれぬか?」
武庫内に漂う、戦火の香り。
バチッ、
石の摩擦で、火花が散った。
與四郎「出来かねます」
たとえ、私が当主の妻であろうがなかろうが関係なく、
御屋形様の命は絶対。節を曲げず、梃子でも動かない。
根が広く芯が太く、天に伸びる孟宗竹のような青年で、
「ここは危のうございます。出て行かれませ」
どこ吹く風よと笹を靡かせ、くるり、私に背を向けた。
ゴロゴロ…ゴロゴロ…、
石臼の前に座り、長身を縮め、出来た蹉跌を見つめる。
帰蝶「皆に、そなたのを持て成したいと思うて…」
與四郎は、ちょっとばかり曲がある。
どこか頑固を一つ徹す職人のようで、
融通が利かぬというか、何というか、
芯という信念が腹に居座るというか。
彼の心を砕き、話を通すのが難しい。
「なぁ、與四郎殿…」
彼は親指と一指し指で粒子を確かめ、
與四郎「ぺろ…」
指に付いた黒を舐め、微かに笑った。
その姿を見て、ゾクリ、
背筋が凍る思いがした。

散華の如く~後の、茶聖人~

2013-03-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
確かに、上に意見を通す時、
帰蝶「読み書き(勉学)も大事。それは母に習え」
寧々「しかし、忙しい、忙しいと…」
ふく「お寧々。お母様はお城の仕事、大変大事」
寧々のおしゃべり。
姉の面目丸つぶれ、
妹が焦りに焦って、
恐る恐る私を見る。
帰蝶「お寧々は、よう見とる」
耳と、心が痛む話である。
さて、心を切り替えるに、
「一服と、しよう」
ふく「ならば私が…」
寧々の手を放し、立ち上がろうとするのを制し、
帰蝶「先達て、鉄砲商が美しい、茶葉を持って来た」
ふく「鉄砲商が、美しい…茶葉を?」
帰蝶「殿のお気にを、少々くすねて来る」
すくと立ち上がり、
「年の頃15、6…まだ若い、なれど奥深い。しばし待っておれ」
ふく「はぁ…」
親子もどきが同時、左に首を傾げる。
同じ時を過ごすと、似るのであろう。
夫婦似れば、背を見て育つ子も似る。
そしてここにも、母似の青年が居る。
帰蝶「與四郎殿、ここに居られるか?」武器庫を覗くと、
與四郎「はい、ここに、」進み出て、頭を下げる若き青年。
義母様の古くからの御親友、田中月様の四男坊。
母は商才に長け、その父與兵衛は堺一の武庫商。
夫婦二人三脚で商いを切り盛りするその息子は、
田中與四郎。後の茶聖人(政略家)千利休である。

散華の如く~英才教育と、嗜み~

2013-03-24 | 散華の如く~天下出世の蝶~
ふくが寧々を養女に迎え入れるのは、まだ少し先の話で、
血縁とは不思議、この二人実の親子以上に深い仲となり、
しかし実母と不仲となり、生涯その溝は埋まらなかった。
ふく「力抜いて、踊る布を縫うて…」
ふわりふわり、布が宙を舞う。
舞っては刺し、舞っては刺し、
帰蝶「上手いものじゃな」
寧々「あのね、これも叔母様が、」
自分の着物をほれほれ、つんつん引っ張った。
子供は、大人の暗黙了解をペラペラしゃべる。
帰蝶「ほ…ぉ?」
寧々のべべを繁々見つめて、
「お寧々、回ってみせよ」
寧々「はい」
てててて、と回ってみせて、
正面、にこと笑顔を見せる。
ふく「…昔のを、縫い直しまして、」
帰蝶「よう似合うとる、ぴったりじゃ」
おいでおいでと寧々を呼び寄せ、
今度は近く、着物の身丈を見る。
身幅のだぶ付き、身丈のおはしょりもない。
袖丈も寧々に丁度良く、これら全て目測で?
通常なら抱いてみて、体で採寸するのだが?
寧々「昔からずっと、おべべは叔母様」
ふく「お寧々…」
あせあせ、それ以上言うては…、
寧々「母様、教えてくれませぬ」
ぶぅ…と頬を膨らませ、
「お縫い物より、お勉強と…」どうやら英才教育重視、
やれやれ…女子の嗜み手習い全て、妹ふく任せとは…。

弥生三月、花開く頃…

2013-03-23 | お知らせ
卯月新学期新生活の準備に、
何かと気忙しい時期ですね。

心ばかり世話しなく、
忽ち、時間が流れて、
俯けば、ユキノシタ、
春を告げていました。

四月からのスケジュール、
大幅に、変更致しました。



勝手私ごとに、
ご容赦下さい。

散華の如く~養女、寧々~

2013-03-23 | 散華の如く~天下出世の蝶~
針穴の向こう、ふくがころころころり、
床に転がる反物を手にくるくるくるり、
地獄の瀬戸際、三途の川を片していた。
地獄の穴、その蓋を塞ぐように糸通し、
くにっくにっ
しかし、地獄の番人が寧々を通せんぼ。
何度も試み、糸の先が綻ぶ、パチンッ、
糸切りで先を切って舐めて、糸が通す。
布をぎこちなく、針を危なかしく持ち、
一つひとつ縫うが肩と腕に力が入って、
ちくり、
ふく「あッ」
寧々「ッタ」
誤って自分の手を刺してしもうた。
ぷくくぅと赤く丸い血が顔を出す。
帰蝶「ちょっと待っておれ、な」
手拭いを濡らして来よ…と、すると、
ふく「これくらい…、」
寧々の手を取り、指を口に含む。
寧々の血を吸い、頃合指を出す。
寧々「あ、止まってる。叔母ちゃん、ありがと」
血が止まり、痛みが治まって、
再度、針を手にして布を持つ。
ふく「針は、そのまま…」
寧々の不器用、見るに見兼ねて二人羽織。
寧々を包み込み、左手の、布の動かし方、
つくんつくん、針の刺し方を教えていた。
こうして呪い掛かった人形様を真ん中に、
実子に恵まれないが、養子には恵まれる、
我ら三人の縫い物、躾け教室が始まった。