ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

掴みはOKッ!

2011-12-31 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
その後、巴御前は木曾に戻る事無く、義仲寺(ぎちゅうじ・滋賀大津)の義仲の菩提寺に度々訪れ、手を合わせた。そこの僧に、どこの尼かと問われ、我、名も無き妻よと答えたという。
その事から、義仲寺を無名庵、巴寺といわれるようになった。
巴御前の辞世の歌には、こうある。
『まぼろしよ夢よと変る世の中になど 涙しもつきせざるらん』
目まぐるしい変化とこの乱世を91年も生きた彼女の涙は夫と子のために、尽きる事無く流れたのではないか…、池田「と、あれは…」
おーいおいと、基治さんが「娘を、頼んだよぉ」手をにぎにぎ握って、号泣して、
兼雅「は…はぁ、義父上様」しがみ付かれて「弱ったな…」
冷泉院「…」どこに惚れたの?母上様…「あら?能子に…義隆?…その目、どうしたの?」
泣き腫らした義隆の目を隠して、能子「…いえ、」義隆の手を握って「何も…ありません」
冷泉院「…とに、世話の焼ける子ね」能子を傍に座らせて、
能子「この度は…」替え玉の事を「申し訳…ございませんでした」お二人に謝罪した。
冷泉院「そうよ…全ッ部!あんたのせい…あんたがいたから…」能子の手を引っ張って、
能子「冷…」
冷泉院「結婚できるの」能子に抱き付いて「ありがと…感謝しているわ」
能子「…冷、」そっと背中に手を回し、抱き締めて「幸せになろ」二人の門出を祝って泣いた。
基治さん「あ゛ッ!?」そういえばッ、と席を立ち、厨房に向かって、
兼雅「…ようやく、号泣から開放された…と、なんだ?」
義隆「じぃ…」と見て「夢…」
“夢見がちなおこちゃまには、分からない世界だろうな…”
「掴んだんだね」
兼雅「あぁ…君に謝らないといけないな」
義隆「もう…手、離しちゃダメだよ」
兼雅「そうだな」掌を出した。パチンッ、と、
義隆「うん」ハイタッチして「俺も、掴む」
兼雅「君は何を掴む?」
義隆「お笑いのコツを…う゛」ガシッと、頭を、
池田「すみません…生意気を申しまして、」鷲掴みにした。
義隆「ぢぇ゛、ぢぇ゛」イチャイでしゅ…。

あの人を、忘れない…

2011-12-30 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
巴「勝ち戦なら英雄、負ければ晒しもの…負けた武将の妻は夫と死ぬか、女に成り下がるしか術がなく、」お腹をさすって「惨めだわ。なぜ、私も一緒に逝かせてくれなかったのかと…」
この世にいない、あの人に向けて、疑問を投げ付ける日々で、
池田「妻が共に逝けば、誰が、その意志を引き継ぐのです?」
巴「あの人は、…いない。もう…何も、」
池田「義隆が生き残った。それに、その、生まれ来る命にこそ、義仲様の歴史と、ご意志を語るべきではないですか?」
俺も平家として、生き残った。
“平家の生き残りを頼む”
主君の命により、俺は、平家の歴史と、その意志を継ぐ…それが、生き残った俺の、
「その命にこそ、生きた意味があるのではないですか?」
巴「…説教臭い男…」
池田「すみません。説いても聞かぬ主君ばかりで、説教が性分になりました」
巴「ほんとに、私のいう事…全然、聞いてくれない人だったわ」
子供たちが成長して、義仲の思いを継いでくれる?そう信じていいの?
義仲の夢、
“あぁ、木曾に帰りてぇ”
やっぱ、木曾の空気が一番だ。都は肌に合わん、ゴロン、畳に寝転び、大の字になって、
いつか、木曾に戻るぞ、巴
はいはい、また言ってるわ。もう口癖ね。
征夷大将軍になって、日に日に高まった、その思い。
幼い頃、共に過した木曾と、無邪気に遊んだ日々を取り戻したい。
「あの頃に、木曾に…帰りたい…わよ」ポ、ロ…ポロポロ…と大粒の涙が溢れて、
照「きっと、その日が来ます」そ…と、手拭いを渡したら、
巴「えぇ」チーンッ、鼻をかんで「ありがと…」ずず、鼻を啜った。
その後、巴御前は和田合戦で夫とその子を亡くした。生き場を失くした彼女は倶利伽羅の合戦で義仲と共に戦い、また、和田合戦に参戦した越中石黒氏の元に身を寄せ、近く福光の寺で尼となった。石黒郷では村衆の相談役になり、子供達に和歌や詩歌を教え、夫の勇姿を語っていたという。小矢部 倶利伽羅の方で義仲が英雄となり、火牛の計を模した祭りが行われるようになったのも巴御前の語り継ぎがあってではないか…と、そう思わずにいられない。

妻、側室の評価

2011-12-29 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
照「池田様…どうぞ」と酒を注いで「先ほど、…見えましたでしょう?」
池田「…はい」
照「私、この体で。あの人との、」斯波様と羽目を外す土岐を見て「縁談、お断り致しました」
巴「え…」
照「私の代わりに姉が嫁ぐことになり、あの人、何と言ったのと思います?」
巴「もったいぶるわね」
照「”話が違う”と、」
池田「話…?」
照「姉と顔が似ておりましたので、代わりに申し分ないと思いました。しかし、姉と入れ替わった事に気が付かれ、話が違うと自宅まで押し掛けて来られました。それで、正直に、この湿疹の事とお話し、姉が代わりに嫁ぐ事になった経緯をお話しましたら、それこそ見損なうなと怒ってしまわれて、
“体が嫁ぐわけではない。構わぬ”…そう言って、私を貰って下さいました」
池田「そういう…方、なのですね」斯波さんにガンガン飲まされている土岐さんを見た。
照「…そういう人。だから、私は土岐の妻になろう、そのように務めようと嫁ぎました」
池田「惜しげもなく、女の命を売って、男を立てる。正直、驚きました」
巴「私には、」一口つまみをパクッと入れて「命を売るなんて…出来ないわ」
照「…巴さん?」
巴「敵に拾われ、妾に買われ…、私は、夫に対して、そういう感情無いわ」
池田「そうでしょうか?」
噂に寄れば、義仲様は地方豪族の姫君と、さらには、朝廷側 松殿の娘 伊子様と婚姻関係を結び、戦を避けようとしたとか。そういう義仲様の思いを一番に汲んでおられたのは…、
「巴様…側室の、あなたがお傍にいてこその、朝日(義仲)将軍です」
巴「義仲は、ただの幼馴染よ」
池田「幼馴染だから、彼の、戦を避けたいという思いが、あなたには分っていた…ですよね?」
巴「…」
池田「女在っての男」1184年、征夷大将軍 義仲を影で支えた「あなたあっての朝日様です」
巴「買い被るわね。彼は、倶利伽羅の合戦で、平家を一夜にして壊滅させたのよ」
池田「俺は、史実に至る過程を高く評価すべきと、言っているんです」
武将を支える妻、義仲様の側室としての巴御前は評価に値する。

側室は…お嫌、ですか?

2011-12-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「それで、賀茂女ちゃんを養女にすると…」そんな話を身重の二人から聞いた。
巴「こうして出逢って…」私は、由利夫妻に、和田の、夫の計画を話してしまった。
協定までは行かなくても「ここでの戦は避けられないかと…」
照「私は、この子を出産した後、」お腹を擦って「夫に従い、ここを出ます」
池田「越前へ」
照「えぇ。…こんな時代に生まれて、この子が男子なら父と共に戦に行きましょうね。私は、この子が世継ぎであって欲しいと、本当に願っているのか…分かりません」
池田「…」言葉を失くしてしまった。御方様も、そのような思いをされていると考えると、
照「ごめんなさい。これから、子を授からねばならない方にこのような愚痴を…」
池田「いえ、大切な話です」
照「ちょっと、お待ち下さい」よっと、席を立ち、前かがみになった。髪が前に垂れて、
池田「大丈夫ですか?」と手を添え、彼女を支えたら「あ…」赤みがかった発疹が見えた。
照「…池田様、お飲みになるしょう?」残っている酒田銘酒『三十六人衆』を持って「先ほどのお礼がしたいわ」と注いでくれた。
池田「頂きます」杯に注がれた銘酒を見て、身重のお二人に礼した。一人酒に「恐縮です」
巴「まったく恐縮せず、出来上がってる連中がいるわ」お酒いくらあっても足りないわね。
照「斯波様が、無礼講とおっしゃっておられましたし、」
池田「その…無礼ついでに、土岐さんとの馴れ初め、聞いてもよろしいですか?」
照「わ…」顔が赤くなって「私どもの話など…」
巴「私も興味あるわ」髪の一件もあって「ついでに、夫婦円満の秘訣も教えて」
照「秘訣…、そのようなものはありません。私が、心底、惚れたのです。土岐という男に」
巴「惚れた男に、あそこまで言わせる?」
たとえ、天を取らんとて、側室は持たぬ
「いいわね。私なんて、何人目の妾か…」
池田「側室は…お嫌、ですか?」
巴「そりゃ、正妻が良いに…」
池田「愛する者たちに順を付け、目を掛ける事など、男なれば致しません、断じて」
巴「は…ん?それって、」
池田「いえ…、ただ、女性それぞれに魅力があると思います」クッと酒を一気に飲んで、
巴「ふ…ん」ここにも意外な男がいた。

決して、切れない心と、縁

2011-12-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
賀茂女「せ、戦…術?」
義経「刀か?槍か?薙刀か?…それとも、弓矢か?得意戦術を答えろ」
賀茂女「え…」、匠「ちょっと、義経さん?」
義経「簡単に戦えると思うな。俺たちは、それなりの訓練を積んで、戦に備えている」
賀茂女「そ…」
義経「備えの無き者、生き得る者たちの足枷」
賀茂女「う…うぅ」
義経「戦う術のないお前は、由利さんの足枷。だから、俺たちと、来るんだ」
賀茂女「ヤだぁーッ!義経さんなんか、大ッ嫌いッ」
義経「嫌いでも、俺たちは、お前を連れて行く。由利さんの、邪魔はさせない」
賀茂女「えぇーん」泣き崩れて、
義経「…」
賀茂女「お父さーん、お母さーん、捨てないでぇー」両親にしがみ付いた。
由利さん「今日で…親子の縁は切る。だが、ずっと、俺の娘だ」親子三人で抱き合っていた。
匠「賀茂女…」
義経「匠、今のお前なら分かるだろ、アイツの気持ち。切らざるを得ない縁がある、それに、決して、切れないのが心と、縁。…賀茂女を頼む」この場を二人に任せた。
匠「はい、分かりました」ここでの桐生和田との直接対決は避けられたが、24年後、由利一族は和田義盛(巴御前の夫)の起こした和田合戦に加わり敗北、領土は没収された。和田一族と、義盛の子 朝比奈将軍は討ち取られ、その他多くの兵が斬首となった(1213年)。
由利さんは、酒田北部にその名の地名(由利本荘)を残して、逝った。
この時代、武将、棟梁であるが故、苦渋の選択を強いられた。まだ幼い愛しい我が子を遠く離れた縁者に養子に出し存続を図る者、また、敗北を悟り密かに敵方の許へ娘を託す者さえいた。子はそれに従うしか術がなく、両親から引き離された。特に、陰陽軍師の血を引き継ぐ子息は悲しい宿命を背負っていた。由利 賀茂女、彼女もまた、その宿命を背負った一人だった。その名が記す通り、母が安倍 賀茂一族…吉備真備の縁者。
平安時代、乱れた世を兵法と陰陽術を使い、たった一人で内乱を治めた陰陽師の祖 吉備真備だった。縁者の中でも安倍晴明が有名だ。しかし、この血筋が元で悲劇が起きる。その強大な知恵と戦術(軍事統括力)は朝廷から恐れられた。残った氏族を各地に飛ばされ、ある者は名を変え、素性を隠した。賀茂女もこの日から名を、由利の子『由利子(ゆりこ)』改めた。

得意戦術は?

2011-12-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
葛葉「当然、殺される…吉備真備、その縁者の血と分かれば、生かしてはくれない」
義経「賀茂女に…どう説明する?」
由利さん「黙って、連れて行ってくれ」
義経「隠し通せるはずが無い…」
瑠璃姫「ねぇ」ヒョコッと顔を出し、話に首突っ込んで「私に、彼女を預からせて」
由利さん「匠君まで…君たち、話を聞いていたのか?」
瑠璃姫「大きな研究依頼が舞い込んで助手がいるの。それに、」匠君の背中を、ドンと押して、
匠「…俺の作った蠱毒には、賀茂女…彼女の血液(血清)が必要なんです。娘さんを…」
由利さん「匠君…」
匠「今度は、俺に、守らせて下さい」賀茂女のご両親に、土下座して「お願いします」
由利さん「娘を」グッ、彼を起こして「今度は、守る?」
匠「は…はいッ」由利さん、普段穏やかそうだけど…こ、怖ぇッ。
由利さん「守れるんだな?」と凄まれて、匠「も、もちろんです」って、脅しだよな?
瑠璃姫「私は、賀茂女ちゃんを預かるだけよ。必ず、返す。だから…死なないで」
葛葉「それは、無理な話だわ。人は、必ず、死ぬ」
義経「…」
葛葉「そんな顔しないで。死ぬまで、生き続ける努力をする。だから、娘をお願いね」
瑠璃姫「お預かりします」葛葉さんに頭を下げた。
由利さん「匠君。娘を、頼んだぞ」ガシッ、と肩を掴んで、匠「わッ!?は、はいッ」
チリーン、と鈴が鳴って、義経「あ…」後ろに、
賀茂女「こそこそと、何の話…?」
匠「か、賀茂女…」
賀茂女「私も、ここに残る」
由利さん「ダメだ。ここは、危険だ」
賀茂女「私を養女…って、捨てる気?」
匠「違う…」俺と同じだ。10年前と…同じだ。
輝にぃ、俺を捨てないで。まっ…て…、
「捨てるんじゃない…危険を避けようと、」
賀茂女「同じよ。私もここで皆と戦う。由利 賀茂女として、お父さんと戦う。戦えるッ!」
義経「…なら、どう戦う?戦術を聞かせろ」

戦の裏の陰陽師

2011-12-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
なんだ?何か、ある。
池田「匠、あの方は?」こちらの様子を伺っている。土岐さんの奥方様と一緒にいる女性は、
匠「巴さん…」
池田「巴…御前?」
瑠璃姫「今、和田義盛の側室よ」桐生和田(群馬)…山に囲まれた土地から海に面した、
池田「隣の、この領土を狙っていると」実(まこと)しやかに囁かれている。まさか、
匠「ここで、戦!?」ち…らっと、すみかちゃんと食事している「賀茂女…」を見たら、
ん?と、賀茂女が俺の視線に気付いた。
池田「鋭いな」
匠「彼女…は、どうなるんだ?」
池田「さぁ…お前は、姫のお相手でもしてろ」巴御前に真相を確かめるために動いた。
匠「ちょ、兄貴?」
瑠璃姫「匠君に、私の護衛、務まるかしら?」すっと手を出して、
匠「護衛?」瑠璃さんに外に連れて行かれ「て、ちょっと?俺には…」好きな子がぁ~、
酒宴の席から離れ、外に連れ出された。月明かりの下、夜風に当たって、
義経「その…」沈黙が苦しくなって、こちらから話を切り出した「匠の事は…、」
由利さん「…。娘を、賀茂女を養女にしてはもらえないか?」
義経「え?」
葛葉「娘を連れて、ここを離れてもらいたいの」
義経「突然、何を言い出す?養女…って」
由利さん「ここで戦が起きる」
義経「…」藤原秀衡亡き後、奥州政権は乱れた。スパイが最上を下り、酒田に侵入して来た。
由利さん「斯波と土岐は、越前に向かう」
義経「戦になると決まった訳では…」
葛葉「和田が天童に軍を待機させているのは、頼朝の命。あなたの首実検(遺体の確認)に派遣された。だけど、それは口実でしかないわ。分かっているでしょ。もう、始まっているの」
由利さん「戦で親を失くした子の、義隆を養子に持つ君なら…分かるだろ」
義経「…だが、賀茂女は、うん、とは言わない」
葛葉「一緒に戦うと言い出すわ」
義経「陰陽師…なら、」

マドンナの買収

2011-12-24 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「取り出せた命を無にしては、それこそ研究者の笑いもの」
瑠璃姫「笑いたければ…笑えばいい、私には、」
池田「あなたの智慧、世に知らしめず封じるに口惜しい」
瑠璃姫「…」
池田「例の団子(賄賂)は、その意味だと理解しました」論文を返して「いい論文です」
バサッ、瑠璃姫「何ッ!?」ショールが頭に舞い落ちて来た。
池田「伝説の…マドンナブルー…」
義経「池田ッ」と呼ばれて、ハッとした。
池田「何です?」
義経「コソコソと、」瑠璃の論文『一夫多妻制と種の保存』を見て、「お前の入れ知恵かッ」
瑠璃姫「あら、自分の論文を広めちゃダメ?それに、あなたが彼を頼むって言ったのよ」
池田「ふ…ん」瑠璃姫から、ショールを受け取って、懐に仕舞った。

瑠璃姫「あなたが紹介した患者に口説き落とされたわ
義経「口説いた!?俺が頼んだのは、カウンセリングで、」
瑠璃姫「ちゃんとしたわ」、池田「えぇ。相談に、乗って、頂きました」
義経「相談?」
瑠璃姫「恋愛相談」←研究は遺伝子工学、職業は”女性専門”恋愛心理カウンセラーです。
池田「俺が”男性”患者第一号らしいですよ」ニッと笑って、
義経「顔が赤ぇッ」
池田「義兄さんも、どうです」にこりと笑って、杯にさら…と粉を、とっとっ、酒を注いで、
義経「お前に義兄様って言われたくねぇ、きも…」クッと飲んだら「いッ!?…何仕込んだ!」
池田「胃薬です。義兄様の、その胃に、酒は毒です」
義経「脅かすなッ。それより、タクッ」
匠「はい」ピラ…と、折り紙を開いて、兄貴に見せた。
池田「斎藤…今日付け…退職って、これ一体?」
義経「おそらく、奴を外して、俺らの動向探らせるつもりだ」
池田「あ…」席を立とうとしたら「確か、由利さん…」
匠「あ…あの、」蠱毒の一件、賀茂女の御両親に「すみません」頭を下げたが、
由利さん「…ふい、」と横を向き「義経…ちょっといいか?話がある」向こうに、
匠「あ…」義経さんを連れて、行ってしまった。

神か?天か?

2011-12-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
泉…小さな、小さな妹…幼く、逝ってしまった。
小さく産まれて、ガラスのように透明で、すぐ壊れそうだった。だから、
早く大きくなれ、とずっと思っていた。だが、月日が経つに連れて、さらに白く弱くなり、
ある日、黒い瞳を俺に向けて、微かに頬が動いた。
あ…笑った?と思ったら、ゆっくり瞼を閉じ、もう二度とその瞳を見る事は無かった。
二年も生きられなかった。
俺の、この小さな妹に何の罪がある?
こんな小さな体に誰が何を仕込んだ?
神か?天か?
誰も、妹を病に犯す権利なんて無い。
誰も、妹の命を奪う権利なんて無い。
「俺には理解できなかった…妹の死が」
瑠璃姫「…」じっと、匠君の欠片、歯を見つめる事しか出来なかった。
池田「その死から二年後、匠が生まれた。そして、妹のへその緒は、弟を救ってくれた」
俺は妹を救えなかった。泉(いずみ)の命を守りたかった。
“兄様、待って”
兄を追い掛ける妹の姿を…いいな、と思った。
「ただ…妹と一緒に遊びたかった、だけかもしれません」クッと笑って、酒を飲んだ。
瑠璃姫「あ…お酒…」鍵と、歯を床に置いて、彼に酒を注ごうと、
池田「ただ、妹がいたら、匠はいないな…と、」
瑠璃姫「え…?」手が止まった。
池田「泉の死を今でも理解出来ないのは母です。だから、蠱毒の成分表を盗んだ…」
瑠璃姫「お母様が、服毒自殺…?」
池田「匠が生まれても尚、泉を死なせてしまった事への罪悪感に苛まれていた」
瑠璃姫「罪悪感?母体に原因は無いわ」
池田「それを解明できるのは、あなたです」」白い肌の清らな水…泉のような酒を覗き込んで、
「遺伝的欠陥、突然変異、原因不明の難病を、解明して下さい」
瑠璃姫「…私には、大き過ぎるミッションだわ」酒を置いて、代わりに鍵を手に取った。
池田「あなただから、渡しました」
瑠璃姫「…」匠君の歯を見つめた。

薬と願いと、カケラたち

2011-12-22 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「それで、反魂丹(解毒剤)を作ろうと…」
瑠璃姫「ふ…」と薄く笑って「全て終わったわ。研究所は荒らされ、夢は消えた。いくらデータが脳に刻まれていても、薬を作る施設がない。生薬も焼き払われた。研究所を再建するには後ろ盾(スポンサー)がいる…私は夢を、伝説の蘇生薬 反魂丹を失った。結局、人知を超えた研究には神罰が下る。人魚姫の愚かで壮大な願いと共に泡となって儚く消えた」
池田「神罰?果たして、人魚姫は愚かな思いだけから人間になる薬を飲んだのでしょうか?」
瑠璃姫「何が言いたいの?」
池田「人魚姫は確信が欲しかったのだと俺は考えます。王子が生きている事をその目で確かめる。失った声の代わり…己の足で歩き、王子の幸せを見た。それは、愚かな事ではない」
瑠璃姫「私に説教するつもり?」
池田「薬の研究者がそんな気弱であっては困ります。研究者の夢は、生き続ける限り消えない。引き継ぐ者が必ず現われる。そう信じています。俺は、今でも、金烏玉兎(太陽と月と)…そういう童話(夢物語)を信じています」
瑠璃姫「殺された陰陽師が蘇って…て、その話、私も読んだわ。そんな陰陽術があれば、」
池田「それに替わる反魂丹(魂を丹田に反す)の薬を、」
瑠璃姫「現実には…無理よ」
池田「…、これ」渡したモノは、
瑠璃姫「鍵?」
池田「俺の、吉備にある薬剤庫の鍵です。弟に場所を案内させます。それと」包みを出して、
「これ、解析して頂けませんか?」
瑠璃姫「こ、これ、匠君の…」血の付いた歯。
池田「この世の、人の心も体も神が創ったものなら全てにおいて意味がある。無駄は無い。この欠片を使えば、失った細胞を蘇生することが可能なのではないか、と」
瑠璃姫「欠陥遺伝子の蘇生…」
池田「匠は幼い頃、流行病に掛かりました。適した薬も無く、施しようがなかった。祈るような気持ちで、妹のへその緒を煎じて飲ませた。数日後、熱が引いて…良くなった」
瑠璃姫「妹…さん?へその緒?」
池田「非科学的で何の根拠もありません。ただ、弟を失いたくなった。その一心でした」
瑠璃姫「…」
池田「泉(いずみ)…の欠片を煎じて匠に飲ませた時、妹の死には何かあると直感的に思った」