ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

生まれちゃダメなの…?

2012-02-29 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義隆「先生、言ってた。戦は一度じゃない。常に強くッ、それに、守り続ける力、いるって!」
巴「先…生…?」
義隆「池田さんッ」
巴「彼…」作ってくれたビタミン水を見て「…先生、なの?」
“その命にこそ、生きた意味があるのではないですか?”
義隆「うん。手、貸して」おばちゃんの掌に、憶えたての漢字を書いた。
巴「仁…」
義隆「人が二人、手を取り合って…」
巴「愛…」
義隆「強くなるんだって」
“人が持つ、最大の強さで、
君が持つ、仁、という心だ”
「俺、一緒に戦うから、泣かないで…ねッ」
巴「一緒に…」
義隆「お腹の子、俺が守る。俺の妹か、弟」
巴「え…」
義隆「俺、兄貴、だ」
巴「…そう…ね。お兄さん…に、なるわ」
義隆「弟ならさッ、一緒に稽古付けてもらって、与一兄ちゃんに弓矢教えてもらっ…、て?」
巴「一緒に…」義隆を抱いて「逃げてッ」
義隆「に…」
“義隆を連れて、逃げてッ”
母上も同じように言った。
時々、お空見て、泣いていた母上…父上とケンカして泣いてると思ってた。
違う、俺だ。俺のせいで、泣いてるんだ。
「女の子なら、大丈夫よ」
女の子の格好させられてた。
俺、チンチン付いてるのに…。
知らなかった…生まれちゃダメな俺がいて、生まれちゃった兄貴が寺にいて、
「俺…いらない子…?」

日ノ本一の、女武将

2012-02-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
5年前、義仲と別れて、木曾まで逃げる山中、
もう少し…って時に、和田の軍に取り囲まれた。
初めて、恐怖というものを感じた。
いつでもどこでも、戦でも、私たちは義仲に守られていた。
義仲から離れると、甲冑をまとった男たちが脅威に思えた。
巨岩壁のように立ちはだかる和田 義盛に大切な形見を取り上げられ、
和田「お前が、日ノ本一の、女武将…?」訝しそうに見られて、足がすくんだ。
「全員、捕らえろ」
妊娠中の山吹を連れ、侍女数人と木曾まで逃げるのは、無理があった。
待って、病人がいるのッ。返して…お願いッ。
私たちは、容赦なく、全員捕らえられ、山吹は、頼朝の傘下である実家 河越(埼玉)に強制送還され、侍女たちと私は、和田の本拠地である桐生に連行された。
見知らぬ土地で丸腰にされ、男たちに晒される視線が、さらに恐怖心を煽っていた。
大丈夫よ、私が、何とかするわ。
侍女たちに、そう言ってなだめた。
でも、大丈夫という確証もないまま、気休めの言葉が空回り、空虚な言葉だけが法螺を吹く。さらに追い討ちを掛けるように、
和田「粟津で、義仲が討ち取られたってよ。義経の先陣隊に、」
義経に!?義仲が…うそ…。
和田「新人名手に、ド頭打ち抜かれたって。確か…」
そんなッ、兄は?兄は、義仲の側近なの、兄さんが生きていれば…ッ、
和田「さぁ…」と私の肩に手を置いて…「あの頼朝が生かすとは、考え難い」
私…捕虜は、
“いやぁー…”
バッ、伏せて、巴「うぅ…」気持ち悪い。義隆が、義仲にも、義高にも見えて…、
義隆「気持ち悪くて、泣いてるの?」
義隆「赤ちゃん産むって、気持ち悪いの?」
巴「赤ちゃんのせいじゃない…でも、こうして吐き気と…戦わないと、」
義隆「戦う?なら、作戦、考えよッ」
巴「作戦…?」

捕虜のやや

2012-02-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
炊き立てのご飯の香りが漂って、
「おーい、メシだっ」
義経「って…?」今の濁声ッ!?
斯波「大広間だ、行くぞッ、義隆ッ」DASHッで、行こうとした「ら?」
巴「義隆…、待っ…て…」義隆を止めて、手を握った。
義経「…義隆、ここでおばちゃんに付いてろ」二人を部屋に残し、大広間に向かった。
巴おばちゃんは、あれから、義隆「手ッ」握ったままで…「痛いッ」
巴「…男なら、」義仲の子なら…「泣き言、言うなッ」手を離して、
義隆「おばちゃんこそ、泣き…い゛ッ」クイッと、ほっぺを抓られ…「ヂャイ゛ッ」
巴「生意気ッ」義仲…そっくり。堪らなく愛おしくて…、辛い。
義隆が、義経の子として育てられていた。本来なら殺されても仕方ない。なのに、
生きていてくれた。嬉しくて、今度は、抓った頬を潰した。
ぐるぐるっと撫でるフリして、押し潰して、
義隆「おぶぅじゃんッ(おばちゃんッ)!」
赤みを帯びた頬は温かく、弾力があって、柔らかい。
その生命力に備わった運と、義経が、彼を生かした。
でも、頼朝は、
“いやぁー…”
義仲と兄と、娘婿の捕虜 義高を生かす事無く、殺した。
頼朝の家臣となった和田に、私の妊娠がバレたら、今度は…、
お腹の中で、ややと不安が入り混じって、マーブル状態の思考に、また、
巴「ぐ…」吐き気が戻って来た。
義隆の頬から手を離して、自分の口に手を当てた。
全て吐き出せたら、楽なのに…。
胃の辺りで吐き気と弱音が留まって、吐けない。
気持ち悪…。
義隆「おばちゃん…苦しい?」お碗の水を差し出し、背中を擦った。
巴「ごくッ…」と飲んだ一口にも満たない少量の水が、
「うぅ…」ポロポロ…ポロポロ…と、
止め処なく溢れる涙となって、思いを塞き止められなくなった。

生け捕り

2012-02-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
本当は…、一緒に笑いたかった。
咲良、お前も男ならな
勝手に女に生まれて来たから、捨てられた。
もし、男に生まれていたなら、
「う、うあぁー…」
一緒に暮らせましたか?
やっぱり、捨てますか?
おとうとお母ぁが私を作ったんじゃないの?
腕の刺青には耐えられたのに、この思いだけは耐えられなくて、
「私…を、見て、お…じ様、さくらを見て…、どう思いましたか?」
基治さん「私の最高傑作、強いさくらちゃんだ」
咲良「…もう一度、呼んで貰ってもいいですか?」
基治さん「“咲良”…」伊達巻のように、私を、丸ごと包み込んでくれた。
咲良「おじ様…」
“王子様になってくれるよ”
ここに、いた。私の王子様。
エプロンをつけた、昆布のおダシ、ほんのり醤油味の、おじ様は、うーんと、年上の王子様。
基治さん「伊達巻、味見するかい?」伊達巻卵の端を切って、二人でつまみ食い「ど?」
咲良「美味しッ」
手料理を味わう事なんて、すっかり忘れていた。
お母ぁが死んで、義母(おか)ぁの手料理の味も…、
“いつまで、メシ食ってんだい。このッ穀潰しがッ”
…忘れてしまっていた。
「あの、お手伝いさせて下さい」歯型の付いた襷で袖を捲し上げて、おじ様を手伝った。
本当は、義母(おか)ぁを手伝いたかった。義母ぁと一緒にご飯作りたかった。
基治さん「ど?」美味しそうな料理を並べて、一緒に笑って、食べたかっただけで、
咲良「どれもこれも、おじ様の最高傑…、きゃあぁー…!!」
基治さん「ッりゃッ」ガシッ、首根っこ掴んで、
ぎゃんッ
「つっかまえたっと♪」

もしも、のお話

2012-02-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
厨房では、
シャカシャカおシャカ…と卵を攪拌して、ジュ…と卵焼きのいい匂いが漂って、
すみか「あ…、あのッ、佐藤のおじ様ッ」に声を掛けた。
基治さん「おッ、桜…気に入ったかい?」皆のために朝食を作っていて、
すみか「はい」胸元に、そっと手を当てて…「とても、きれいです」
桜が、私の体をきれいに生まれ変えてくれた。
佐藤のおじ様が、私をきれいに変えてくれた。
醜いお灸の傷痕…醜くただれて、嫌いだった。
鏡に映る自分は、醜い、そう蔑む目が見えた。それが、一夜にして、桜になって咲いた。
嬉しかった。
「あの…もう一つ、お願いがあります」
基治さん「ほいッ」と伊達巻を一つ、作り終えて…「今度は何?」
すみか「斯波の咲良と、彫って下さい」袖を捲し上げて、腕を出した。
基治さん「芝桜…?」
すみか「今度は、痛みに…堪えてみせます」
これから、どんどん傷付くんだ。
今度は、痛みから逃げ出さないように、受け止めて、
その痛みに負けないように、グッと歯を食い縛った。
基治さん「…なら、舌を噛まないように、」襷を外して「これを噛みなさい」
すみか「はいッ」噛み締めた佐藤のおじ様の襷には、昆布のダシの、醤油の味がした。
尖った針は、
チクッ…
心の痛みに比べたら、小さいかった。大げさに、痛がって…
基治さん「良く堪えたね」針を水で洗い、仕舞って、私の腕を取った。
刻まれた文字“芝之桜”を見て、
「これで、一生、桜は芝のモンだ」
すみか「…咲良って、私の本名なんです」
基治さん「そりゃ、強く咲くな…毎年、毎年…と!?」
咲良「おじ様ーッ」と、抱き締めた。
もし、おじ様が、おとうだったら…、

もう一本の剣、草薙剣

2012-02-24 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
暗に隠そうとすれば、表に出ようとする。
それが、日ノ本の 天照 八咫之鏡の法則。
童ちゃん「剣は、日の当たる場所(日ノ本)と、その影に置くべきなんだ」
能子「影…とは?」
童ちゃん「神話の話だ。須佐之男神は出雲を婿に任せてどこを統治しに行った?」
見えぬ国を統治する。お前はこの国を統治しろ
能子「見えぬ国…つまり、禰(ね)の国」
童ちゃん「須佐之男神は分権を図って、もう一本、剣を作ったはずだ」
能子「もう一本の剣力…って、」
童ちゃん「二本、あるべきなんだ」
能子「同一の剣だと思っていたわ。それに気付かず、象徴を一元化していたのね」
雨雲を呼び、龍神降ろす天之剣 天叢雲剣と生命の息吹 地之剣 草薙(くさなぎ)剣は、
童ちゃん「水も、風も、この世には必要なんだ」
能子「…日ノ本を作った、イザナギ…イザナミの力が要る…」
繭子「要るといえば…、童子さん。私に、あの機織を譲って頂けませんか?」
童ちゃん「あの、お古(旧式)をかい?」
繭子「私、最新式は使った事がないの」
童ちゃん「捨てる神あれば、拾う神あり、だな。持ってきな」と繭子にウィンクした。
繭子「ありがとうございます」
能子「機織?」
富樫「今度は、俺の越中褌(ふんどし)でも織るのか?」
繭子「下着は、シルクに限るって?」クス…と笑って、授乳を終えた。
和菓子ちゃんの口元を拭って、そ…と傷付いた胸を仕舞った。
能子「繭子…もしかして、」
繭子「私、本物の剣は見た事ないけど、本物を包んでいた織物の柄は目に焼き付けてあるの」
能子「本物は、藤原摂関氏族であっても見ていない可能性が高い」
繭子「だから、本物を包む、織物が要るのよ」
童ちゃん「剣は蘇るとして、鞘や柄はどうすんだい?」
能子「与一…」彼が作ってくれた櫛を出して、それを皆に見せて「…出来る」
繭子「決まりね」

歴史の波動

2012-02-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
当時、前代未聞の、9歳後鳥羽天皇と7歳安徳天皇の同時即位だった。
幼き彼らも、私たち平家も源氏も、醜い政権争いに巻き込まれただけ…。
「今だからこそ、戒めがいるんじゃない?歴史を繰り返さないためにも…」
能子「象徴を、天にお返しする…という事?」
繭子「聖剣を然るべき所に、置くの。そして、地に住まう私たちは、再び天に委ねられる」
能子「聖剣が、日ノ本を左右する…」
繭子「確率的には、恐ろしい話よね」
能子「それでも、大うつけの確率に賭けてみたいと?」
繭子「正しい者の手に渡れば、聖剣は正しく波動する。義経が生きている。それが証拠よ」
能子「兄様…」
繭子「それに、源氏ばかりが目立っちゃ立つ瀬がないわ。それが平家のケジメってモンよ」
能子「…はい」
繭子「能子にしちゃ良いお返事ね」ポンと、能子の肩を叩いて「任せたわよ」
おんぎゃーー、
能子「え(--)?」けたたましく泣き始めた和菓子ちゃんが、
繭子「お乳の時間だわ」サブ ロクから、ひょいと和菓子を受け上げて、
「あっち向いて、ほいッ」と、男たちを右に向けさせて、ペロッと出した胸には…、
能子「あ…ッ」自刃の、傷痕が残っていた。
繭子「胸は貸せないけど、大いに余ってる男手がいっぱいよ」顎で男たちを指し示した。
サブ・ロク「えっ(@@)、俺たち(・・)?」こっちに向こうとしたから、
富樫「だッ」と野郎どもの目を覆って「今度は、何のアルバイトだ($▽$)?」
繭子「ふ…」と顔を和菓子ちゃんに戻して…「佐渡よ」
能子「金山?」
童ちゃん「あぁ…合金な。その鱗は、刃金で出来てんだ」
能子「鋼…って、」鉄を削り、伝説の須佐之鉄剣 十拳剣を折った、錆びない金属「これが…」
繭子「伝説は、一つずつ、具現化するわ」
能子「危険だわ…歴史の表舞台で、また、聖剣が…」
繭子「危険だから、避けるの?誰かが危険を冒さないと、歴史は動かないわ」
能子「だからって…」
繭子「神の子が残した遺産(オーパーツ)は、包み隠されるためにあるんじゃないわ」

数パーセントの確率の、気付き

2012-02-22 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能子「神の手から離れた象徴が、愚かな人間の手に渡ってしまったのよ」
繭子「人間の大多数はバカか、愚か者。天武の才を持つ大うつけは一握りしかいないわ」
能子「何が言いたいの?」
繭子「神話(啓示)なんて、人口の数パーセントの確率でしか理解されないって事よ」
能子「そんな確率問題では…、」
繭子「生贄になる確率も数パーセント。白羽の矢が自分に当たらなければ、安泰…」
能子「…」
繭子「そう考えるバカが、我が身安泰に率先して生贄に賛同する。さしずめ、あんたは数パーセントに突っ込むタイプね」ビタンッと、おでこを叩いて、
能子「ッたぁい!もッ」おでこを撫でて…「自分だッ…て」言いかけて、口を噤んだ。
繭子「今は、迷わず、生を選ぶわ」
サブ ロク夫妻にあやされて、きゃっきゃっと、あどけない笑顔を見せる我が子を見た。
能子「和菓子(わかこ)ちゃん…」
繭子「生贄と同じくらいの確率で起こり得るのが、奇跡よ」
富樫と出会い、和菓子…奇跡が生まれた。
愛(めぐ)と出会い、傷の相殺が生まれた。
天からもたらされた一粒の雫は、
チャポン…、
水面に広がる波紋のように、奇跡もまた広がる。
「私は、その数パーセントに賭けてみたいの」
能子「大多数の人間は、その存在にすら気付けないわ」
繭子「奇跡や神話(啓示)を皆に知らしめるなんて、おこがましい。数パーセントの確率で気付けば、それで良いのよ。ただ、私が、その数パーセントの確率に出逢ったのは、事実よ」
富樫「…」
能子「そうね。こうして、二人は源氏よって生かされた」富樫さんを見つめた。
繭子「死を止められて…」胸の傷に、そっと手を当て、
「止められなかった者の苦しみを知ってしまったの…」
能子「兄上…」
繭子「彼は苦しんでいるわ。叔母を止められなかった。安徳天皇を救えなかった…。今度は、彼を救う番じゃないの?たった一人の、妹として…」

忘却の、啓示

2012-02-21 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
神話…それは鏡、心の縮図。同時に、神のメッセージ(啓示)。
生贄…神の思し召しと称した、愚かで哀しい人間の浅知恵。
大蛇…異国の神にその座を追われ、記憶から忘却された神。
聖剣…それは諸刃。愚人の策略により、一人歩きした伝承。
“異国より出(いずる)神の子、天之剣を掲げ、国を守らん”
賢人たる聖徳太子は混乱した国内を治めようと、異国の政策を参考にしていた。
秦の始皇帝氏族 秦河勝を呼び、彼の助言により国造りに励んでいた。彼らの新政権は、今までのそれを根本から覆すものだった。民の救済に仏教の教えを広め、憲法改正と抜きん出た太子の才は多くの支持者を集める一方、ある一部の豪族や権力者からは厄介者となっていた。
愚人により、突出した賢人は排除され…そして、死。聖徳太子の名声と功績だけが歴史に残り、太子の親族縁者、妻子…幼子に至るまで根絶やしにされ、黒い事実は隠蔽される。
「歴史や神話は、人の手により、都合の良い様に作り変えられ、捻じ曲げられてしまう」
神の啓示は覆され、歴史の深部は除外視されるのが現実…その結果、
平家がッ!出てけッ!
ズキッ、また胸が軋んだ。大きく息を吸おうとすると、時おり、胸に激痛が走る。痛い…、
「それでも、天叢雲剣は必要ですか?そのために、生贄が要りますか?」
安徳天皇の手に持たされた天叢雲剣は、その小さき手には大き過ぎた。
私たちは、分かっていたはず…、なのに、
大蛇の生贄に賛同するしか術を持たない、歴史の傍観者に成り下がり、大人同士の醜い権力闘争に巻き込まれる7歳を誰も救えなかった。
いえ、救おうとはしなかった。
我欲(エゴ)のために、その幼くも清き魂は祖母である時子様と、聖剣と共に沈んだ。
泰平とは、幼い天帝の命を犠牲にするものなのでしょうか?
7歳で天帝に就くなど、最初から可笑しな話だわ。
甥っ子は、子供らしい事も許されず、周囲大人の仰せのまま、
“皆で、逝こう”
そう言って、祖母の懐で笑って、入水した。
結局、神話のように、神が地上に降り、生贄を救いに来るなど有りはしない。
「天叢雲剣を作り直し、再び、戦の火種になってはいけません」
繭子「じゃ、神は、いけないモノを象徴としたの?」

八岐大蛇伝説~国造りと国譲り~

2012-02-20 | 八岐大蛇伝説 ~治世の象徴 天叢雲剣~

五つになったばかりのおてんば娘 須佐之娘(すせり)「ふぅ…ん」と白い雲を眺めていた。
真っ直ぐ、大きな瞳の奥で見た事のない異国の地 高天原を空想しているのだろう、
こんな事言い出した。小さいお手手をうんと大きく広げて、
白い雲の上に、うぅ~んと大きな白いお城があって、異国の人たちがいっぱいで、
須佐之男「…で?」
すせり「そこで、結婚するッ」なぬ?高天原に嫁ぐ!?そんな事してみろッ!
須佐之男「ダメだッ」俺が娘と会えなくなるッ!
すせり「えぇーっ!?じゃッ、ここで結婚するぅ~…」
須佐之男「それなら良しッ」婿なら、まぁ…許す…と思っていたが、娘が年頃になり、
すせり「私、結婚致します」と連れて来たヤツを見て、
須佐之男「ダメだッ」絶対ッ「認めんッ」
すせり「えぇ!どうしてですかッ!?」
須佐之男「ダメなモンはダメだッ」どうしてもこうしてもあるか。もっと、こう優しそうな、
すせり「もぉッ、父上様なんて大嫌いッ」ぷんッと顔を横に向け、話をしてくれなくなった。
娘の機嫌最ッ悪ッ。メシが不味くなるほど険悪なムード…で仕方なく、結婚に条件を出した。
須佐之男「見事、試練にクリア出来たら、結婚を許す」試練は、並大抵の智慧ではクリア出来るものでは…「な!?い!!」その男、見事すせりの智慧を借り、全ての試練をクリアした。ちッ、約束は約束だ。娘との結婚を許した。婚儀は完成した神殿で行い、その後、
須佐之男「俺はそろそろ隠居だ。見えぬ国を統治する。お前はこの国を統治しろ。で…これ、」
国家権力、治世の象徴“天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)”を戴冠した。

娘婿「はッ、しかと承りました」剣を受け取り、
須佐之男「抜いてみろ」
娘婿「ハッ!?」鞘から抜いた剣の型を見て、驚いた様子だった。それは、
須佐之男「諸刃の剣だ。いいか、剣力は悪しきに傾けは禍を、善に向かえば徳となって返る」
国の権力を間違った方向に使えば、自国に禍が降り掛かり、国を滅ぼす。戒めの剣だった。
娘婿「良き国を造りたいと存じます」諸刃の剣を神妙な顔で眺めていた。こやつが、出雲の新しき神 大国主命(おおくにぬしのみこと)。今後、こやつが中心となり、新しい国造りが始まる。しかし、苦心したようで、異国より援者を呼んだ。海を渡って来た異国の男は、小さき体に多くの智慧を持っていた。その事から、この異人を皆は、こう呼ぶようになった。少彦名(すくなひこな)命と。彼の助言を受け、出雲は長く繁栄した。
八岐大蛇伝説 - 完 -