ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~天下の足掛かり~

2012-09-30 | 散華の如く~天下出世の蝶~
血の繋がりが引き起こす戦で失う兄弟の絆。
清く澄んだ酒と忠誠心が繋げる兄弟の契り。
“酒が飲めぬ、許せ”
殿はお酒をお飲みに成らない。ただ、下戸は、下戸なりに気を配る。
お若い頃は、無瓢箪(むびょうたん=無病息災・子孫繁栄の願掛け)徳利を引っ提げ、五臓六腑に沁みる兄弟契酒を「飲め、飲め」と兄弟家臣らに注いで回る。
なんだかんだと信心深く、よくよく験を担ぐ殿である。
信長「なんだ?だらしがないのう」
酒場を屋形船から今夜の宿 本陣に変えて、弟を酔い潰す。
森「ふう…」
酔い覚ましか?殿に呆れたか?
可成様が、す…と縁側に出た。
帰蝶「すみません、殿が…」
弟を介抱しながら、可成様の背に声を掛けると、
森「いえ、向こうに…」
私の恐縮と視界を遮り、
信長「ほう。犬山に桃山…」
お二人で木曽川に浮かぶ犬山、遠くに臨む桃山を眺めておられた。
私からは殿方の背中と、その視線の先の闇しか見えなかったが、お二人には、しっかり見えていたのであろう…天下の足掛かり。
この時代、築城には木曽檜が使用されていた。
伐採された檜は木曽谷から犬山に流され、全国へ。犬山は木材流通の要だった。
森「“木曽を制すは、天下を制す”」
可成様は、信州木曽の御出身だった。
信長「是が非でも、手にしたい。のう?」
天を目指すなら、まず美濃。次、犬山。
天下拠点築城には欠かせぬ道筋だった。
(犬山城は信長、次に義弟 信輝が犬山を手中に治め、長久手で池田逝去後、成瀬氏に渡る)
帰蝶「また、戦…の話にございますか?」
その道筋に、美濃の私がいた。

散華の如く~まだ十五、もう十五~

2012-09-29 | 散華の如く~天下出世の蝶~
可成様は、不思議な方だった。
そういえば、長良の合戦の前もこうして、一つだけ笑って、私の不安を治めて下さった。
鋭い目で何を見据えておいでか…、まったく分からない方であったが、一つ分かった事は、
彼の奥底に篝火より熱く燃える“何か”を秘めたものがあるという事。
帰蝶「もはや、森様には頭が上がりませぬ…」
何を思い、弟の面倒を見ようというのか?
しかし、今は彼の細やかな心遣いに、ただただ敬服するのみで、
ず…、鼻を啜る音を隠すように膳を横にずらし、三つ指付いた。
「新吾を、宜しくお願い致します」
私は、指と額が触れるまで頭を下げた。
森「あ…、顔をお上げ下さい」恐縮する可成様に、
信長「弟を、頼む」殿まで頭を下げ、兄弟盃の仲介役を買って出た。
可成様に酒を注ぎ、
「おい、新吾。そなたもだ」
弟に並々と酒を注いで、浴びるように飲ませていた。
今宵、殿はすこぶる上機嫌。飲めよ飲めよと止まらぬ兄弟酒に新吾が助け舟を求めてきた。
帰蝶「殿、そんなに飲ませては…。新吾は、まだ十五にございます」
信長「もう十五ではないか、のう?」
新吾「はぁ…あッ」
殿は、新吾のちょんちょん頭をぐりぐり引き回し、
信長「これでは、月代(さかやき)出来ぬぞ」
新吾「え?」
帰蝶「元服…にございますか?」
信長「当たり前であろうが」
帰蝶「あ…、ありがとうございます」
私は弟と顔を見合わせて…「よかったな」と、笑った。
かつて、殿は実弟を家督相続争いで已む得ず誅殺なされた。
実弟の、その理不尽な死を寂しく、深く悲しんでおられた。
だから、嬉しかった。
新吾を我が弟のように可愛がってくれる殿が、まこと嬉しかった。

散華の如く~一つの不安、一つの笑み~

2012-09-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
狙われた鮎の未来は、喉に囚われるしかないのか…。
まるで、易者が「あなたの未来は…」そう、勝手に決められているようで、怖かった。
不用意に湧き上がる恐怖心から、私は、無意識に、す…、お腹に手を当てていた。
ぐらり…、時おり吹く風が船と心を煽る。
新吾「姉上、腹が痛むのですか?」
弟が、私の顔を覗き込む。体格も立派、風格も父の影が出て、男らしくなった。
しかし、顔付き表情は、まだまだ若い。
若いからこそ、新吾の…弟の処遇と、彼の未来に一層の不安が募った。
帰蝶「いや…」首を一度横に振って、目を閉じ「…夜風を利いているだけじゃ」
ふふ…と鼻で笑う風が、涼しい顔で通り抜け、素知らぬ顔で鵜匠が、ささ…と筮竹を束ね、屋形船の隣を悠々と通り過ぎていく。篝火も遠くなり、皆も着席。
ようやく船の揺らぎが安定した。
私の重い体も動くようになり、可成様の許で、彼の盃に酒を注いだ。
帰蝶「我が弟のために、忝く存じます」今回の件、その礼を述べた。
可成様は、しばし盃の波紋を見つめ、その波が穏やかになるのを待ち、意外な事を申された。
森「彼を、私に預けては下さいませぬか?」
帰蝶「新吾を?」
唐突な申し入れだった。しかし、新吾とは暗黙の了解があったらしく、
新吾「私からも、何卒、何卒、宜しくお願い致します」
殿に、中途半端な坊主頭を、深々と下げていた。
険しい山中、寝食を共にして何かしらの情が芽生えたか、それとも、潜伏の真意を察したか。
信長「拒む理由が無かろうが…のう?」
帰蝶「むしろ、有り難く存じます」
新吾の教育と、護衛も兼ねるという事で、しかし、
“何かの時”、可成様にご迷惑を掛けする事に成るやも…。
「しかし、これ以上の…」
森「では、お預かり致します」私の言葉を遮り、
心配には及びませぬと、一つ、笑って、
「戴きます」
目を閉じ、酒を、一つ、口にされた。

散華の如く~筮竹と易者、見えぬ未来~

2012-09-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
足を戻し、息を調えようとしたが、やはり恐い。
川が、舟が…私を急き立て、不安を囃し立てる。
信長「ほれ」
ふらつく私を見て、しょうがない奴だ、と屋形船に乗せる。
帰蝶「…すみません」
揺れの小さい中央付近に座り、す…、袂から手拭いを取出し、額に押し当てた。
意識とは無関係に脂汗が吹き出す。熱いわけじゃない…なのに、顔だけ火照る。
気分が悪い、降りた方が、い…
「あ…」
船頭が、ぐっと竿で岸を押し、船は瞬く間に川の流れに乗ってしまった。
途中で引き返す事の出来ない歴史という川に、箱舟は流されてしまった。
川の水の音を船が掻き分け、ぎぃ…ぎぃ…、軋む音が船を左右に揺らす。
大事ない、大事ない…夜風に当たれば、気分も晴れる。
何もない、何ともない、何も心配する事は無い…新吾も、ややも、大事ない。
そう言い聞かせ、水上舞台 鵜匠の鵜舟を探した。
暗幕を破り、篝火が屋形船に、ぐいぐい、近付き、
バシャ、
篝火の下から、一匹の鵜が急に踊り出た。
げげげ、ぐぁぐぁ…、
濁った声で騒ぎ立てる鵜たち、それを紐でさばく鵜匠。
私には、鵜匠が筮竹(ぜいちく)をさばく易者に見えた。
バチバチ…
唸る松明から、ぶわっと火の粉が火の鳥のように舞って、闇の川に放たれた水鳥が、
バシャンッ、水しぶきを上げて、潜り込む。その刹那、鳥は魚に変化し、鮎を喉に捉えて、水から上がった。鵜の喉は、魚一匹分膨らんでいた。
くいと、鵜匠に紐を引かれ、舟に連れ戻された鵜は呑んだ鮎を、ぐぇ、ぐぇ、吐き出し、誇らしげに喉を鳴らした。ギラッ、鵜の目は鋭く、不気味に青く光った。
そして、次の獲物を捕らえんがため、黒い川に再び、その身を投げた。
鵜たちは暗い闇の川を、如何に泳ぐのであろう。
見事なまでに利く、その夜目で何を見据えているのだろう?

散華の如く~月の本性、黄泉の国~

2012-09-26 | 散華の如く~天下出世の蝶~
狙われるその命、姉である私が守らねば…。しかし、
私には、守る力も、術も、何も持ってはいなかった。
…どうしよう。新吾を私の…殿の養子にして頂き…、
いや、そんな事したら、今度…生まれて来るややと…尾張で内乱。
それに、義兄に知れたら、それこそ、美濃と戦。それは、まずい。
雨は上がったが心は晴れず、灰の曇が不安の色を濃く残していた。
私一人、勝手に出せる結論ではなく、新吾の処遇はしばし棚上げ。
信長「しかし、よう生きとったな、え?」
森「蛇や蛙に悩まされました」なぁ?と、新吾を見て、
新吾「はぁ…」ボサボサ坊主頭を掻いて「…下らぬ物を、口にしとうございます…」
帰蝶「下らないモノ…」
どうやら、お粗末な物ばかり口にしておったようだ。
何か…美味い酒と、肴を…と考えていたら、
ピン、殿が閃いた。
信長「鵜だ、鵜。おい、木曽に行くぞ」
木曽川の鵜飼は鎌倉の時代からと歴史は古く、殿はご覧になるのがお好きだった。
鵜匠に名を与え優遇し、四季の移ろいには必ず足を運ばれ、夕涼みなさるが習い。
鵜舟の篝火、屋形船、それらが闇に浮かぶ能舞台のように見えるのかも知れない。
帰蝶「はい。ただ今」
家臣たちに馬の支度をさせて、夕餉は屋形船での食事となった。
木曽川に着き、夕暮れを待つ。
次第次第に暗く、闇の出入口に夕日が沈んだ頃、空の色は赤紫に変わった。
天空濃紫の雲間から三日月が我らをこっそり覗き見、木曽川の幽玄を待つ。
夕から暗雲立ち込め闇に変化する頃、月は本性を現し、その目を光らせた。
信長「どうした?乗れ」
帰蝶「はい…」
先ほどの俄雨で水量が上がり、水は濁って、流れは速い。
片足、そろ…と甲板に乗せると、
少し、ぐら…と舟が横に揺れた。
ほんの少しの揺れだが、五ヶ月過ぎた私のお腹には、大きな揺れに感じた。

散華の如く~骨と肉と、その鼓動~

2012-09-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
男臭さと、衣に染みた汗と泥に雨の匂いが混じって、ツン、鼻に付いた。
着物の汚れと衣の激しい痛みから、潜伏中の過酷さが容易く想像出来た。
「可哀そうに…」
着物の汚れは洗えば澄む。痛んだ衣は継ぎ接ぎ、ほつれは繕えば良い。
しかし、兄に命狙われた事実は、取り繕う事の出来ない真実。
隠蔽された真実は、拭いようが無い心の深傷となって残った。
かつて殿も、実兄に城を攻められ、命を狙われた事実がある。
痛いであろう、その傷は私の手から遠い。
すか…感触の無い空しさだけが心に残る。
役立たない、私の手は、彼らの体に触れても心癒せず、ただ撫でるしかない。
撫でた弟の体は雨に濡れて冷たく、石のように硬かった。
ゴツ…
骨に当たった。筋肉は、痩せ細っていた。
骨に耳を当て、彼の鼓動に耳を澄ました。
とく、とく…、
心の臓から太鼓の連打が聞こえ、胸を打つ鼓動が私に届いた。
抱き締めた弟から、蒸気のように熱いもの、温もりが伝わる。
人間らしい温もりと心臓の音は、弟の生命を証明してくれた。
弟は紛れも無く、生きて、ここにいる。
そう…やっと弟を確認する事が出来た。
「ありがとうございます…殿、森様…」
彼らに、礼を尽くしても尽くし切れぬ。このご恩は…、
信長「礼はいいから、放してやれ」
帰蝶「は?」
新吾「く…くる、しゅう…ございますぅ…」
帰蝶「す、すまぬ…」
入れ過ぎた力を、パッと放したが、
弟から放れた私の手は、名残り惜しいようで、左右の手を固く結び、
カタカタ…、震えが止まらなかった。
今ここで、手放して良いのだろうか?

散華の如く~洗い流せば、すむ~

2012-09-24 | 散華の如く~天下出世の蝶~
ささっと、涙を拭いて、城外門口を見ると、
ガタイのいい虚無僧(こむそう)と、それより細いのが、衛兵と問答を起こしていた。
托鉢(乞食)?…違う。殿への御目通りを願っている、彼らは…。
遠くて、お顔がよく見えない。もっと近くに、もっと傍で、そのお顔を拝見したい。
衛兵に言伝して、広間に二人の虚無僧をお通しした。
殿もお呼びして、そのお顔を確認した。やはり、
帰蝶「森様…お…お帰りなさいませ」
可成様の隣に、私の弟が座っていた。
新吾「姉上、お久しゅうございます」
帰蝶「よく…、無事で」
尾張に嫁いで十年余り。十年ぶりの弟は、ボロボロの汚れた衣で身を包み、頬はこけていた。
山中潜伏、身を隠しながらここ尾張まで、さぞ辛かったであろうと、労いの声を掛けたが、
「ただ今、沐浴、の、支度させて、おります…、お疲れに、なったで、ござい、ましょう…」
言葉が喉に詰まって、文章に成らなかった。
涙を堪え、思いをせき止めるのが、精一杯。
森「…他に誰もおりません。姉君に戻られては?」
そう言われて、私は、
帰蝶「新吾ぉ…」姉に戻った。
ダム湖で必死にせき止めた涙が、一気に放水。
弟の許に駈け寄って、弟のこけた頬を掴んだ。
「こんなに、やせてしまって…」
私より、うんと小さかった五歳は面影を残しつつ、もう十五。
私より、うんと背が伸びて、逞しくなって、男になっていた。
兄に命狙われ、追われ、殺されかけた新吾は、義理の兄に救われた。
父が出家させてまで護ろうとした弟の命は、可成様が守ってくれた。
生きて、弟に触れられるとは思っていなかった。だから…、
弟を逃がさないように、抱き寄せた。
新吾「あ、姉上…汚れます…」
身なりの汚さに恐縮する弟を叱責し、余計に強く、しっかり抱き締めた。
帰蝶「洗えば、すむであろうが」

散華の如く~ざわめきと、どよめき~

2012-09-23 | 散華の如く~天下出世の蝶~
ヤスケの鉢巻を、ひらひらさせて、
信長「ぼぉっと、何をしておる?」
帰蝶「殿…」
信長「次は、これで行く」…と、それだけを私に伝えて、
鉢巻を、ひらりひらりと、はためかせて、
スタスタスタ…再び、籠ってしまわれた。
余りに突飛な殿のお考えは、私の理解を超える。
ポッと出た発想が、我々凡人にはあまりに斬新。
特に戦術的閃きは、誰もが為し得ない異業の類。
“人がやってからでは、それこそ遅い”
目的に向かって走る奇才は、偉業の先駆者。
過去の戦術にこだわる家臣に退屈した殿は、
スクッと立ち上がり「寝る」と寝所へ直行。
しかし、眠る訳ではなく、空(くう)を眺め、戦術戦略を練る。
主に寝られた家臣は軍議に取り残され、途方に暮れる。
腹心以下誰にもその秘策、戦術、勝機が理解され難く。
天を突く閃き発想の裏で、理解されない淋しさを持つ。
私は心を理解して頂きながら、一方で、その心を理解出来ていない。
帰蝶「ふぅ…う…」深い、深い、ため息が大きく漏れる。
殿は、話に数回出て来ただけの、私の弟を覚えていて下さった。
新吾の事まで気遣って下さる殿に、礼を申したかった。なのに、
礼を申し上げる暇さえ、淋しい事に、私に与えては下さらない。
ポッ、ポッ、
ため息の次に漏れ出したの、嗚咽と涙だった。
ザァ…、
俄に強くなる雨足に嗚咽をかき消して貰い、空と共に泣いた。
天之神に、雨之神に…これ以上、私の大切な方々を奪うでない…、そう訴えた。
しかし、そんな訴えを棄却するかのように、雨は新緑と不安の色を濃くし、地に落ちた雨雫は心配と共に大きな水溜りを作っていった。すると、何事か?
どどどぉ、ざぁ…、雨のざわめきと衛兵のどよめきが起こり、城外が騒がしくなった。

散華の如く~挫かれた思い、削がれた心~

2012-09-22 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「…」信輝に言われて、ハッとした。
可成様は子を持つ親、殿は子を失った父…一人の男親として、
斎藤道三という、義父の親心を汲んで下さった、と気付いた。
池田「御遺言により、家督は義龍殿に譲られる形となり、尾張へは退去命令が出ました」
父が、義兄の家督を容認した?…それは、尾張を、殿を、助けるため?
父は最期、この内戦を治めて逝った。
「ただ、気掛かりが、末の…、」
帰蝶「新吾…」
池田「はい」
関に一人残しておくのは、危険と考えた殿は、尾張に新吾を連れ来るよう命じた。
新吾を尾張へ、そして、殿の持つ国譲り状が生きているとしたら、家督継承権が二分する。
帰蝶「義兄が、許すはずあるまい」
池田「許せないのは、我々も同じ」
父の書状を無視し、力で以て家督を奪取。
義理とはいえ弟…無抵抗な弟君まで手を掛けんとするその所業は、武士の風上にも置けず。
天下人道三公に買われた恩を忘れ、意に背き、義に反するは武士道を愚弄、外道に値する。
わなわなと、怒りで彼の拳が、震えていた。
帰蝶「信輝…」
彼もまた、誇り高き武士の一人として、この結末が許せないのだ。
存分に義を尽して戦いたい。それなのに遺言により心が削がれた。
池田「もう…いいですか?」
(…これ以上、不甲斐無い自分を晒したくないんですよ…)
そんな声無き声が、私の心に劈(つんざ)いた。
「失礼します」
くる…、向けられた背中が痛々しく、私は掛ける言葉を失った。
二十二、三の若い彼らの心に、義理の父子の骨肉の争いは相当堪えたらしい。
戦の結末に男たちは沈黙するしか無く、自分を責めるしか無かったのだろう。
しかし、責めは、全て美濃。私にある。私が…、
帰蝶「と…」
目の前を、ひらりひらりと、紋黄蝶のように布が舞い降りた。

散華の如く~理由があるんですッ~

2012-09-21 | 散華の如く~天下出世の蝶~
父 道三が入道し、家督のために、再び俗界に返り咲き。そして、戦で果てた。
人間五十の戦乱の世に、六二まで生きた。
それはそれで、私は父を誇らしいと思う。
しかし、なぜ…誰もが、父の最期を黙す。
父の国譲り状も、ただの紙切れと化し、義龍の、尾張侵攻も無い。
この結果に誰が納得しようか。到底、殿がご納得なさるとは、思えない。
私がいるから、両者侵攻しないのか?しかし、真相を問い質そうとしても、
信輝は、キュと口を堅く噤んで一文字、その返答を頑として拒む。ならば、
帰蝶「森様は、どこに居られる?」質問を変えた。
殿が無事尾張に戻られた、それもこれも彼のお蔭。
可成様に、ひと言礼を申し上げねば…、と探しているが、お見掛けしない。
池田「存じ上げません」
帰蝶「そんなはずがあるまいッ」
厳しく彼を叱責し、問い詰めた。
可成様の身に何かあった?美濃に土地勘があると、殿を先導され、長良川へ。
父の死を確認し、即時撤退。としたら、一緒にご帰還なさるはず。なのに…、
池田「…、お一人、軍を離れ、関へ向かわれました」
帰蝶「関…」
池田「ご無事なら、今日明日にもお戻りに成るかと存じます」
信輝の話によると、長良川の合戦で、義龍軍 長井の伯父は父 道三以下、斎藤家血縁を悉く討ち取り、長井の手は出家した道三 末子 新吾にまで延びた。
そこで、殿は新吾を密かに連れ出すよう、可成様に命じた。
帰蝶「…ご無事なら…って、」
関は、長良川からそう遠くない。そんな事したら、
途中、義龍残党に見つかり、捕縛されでもしたら、
新吾だけでなく、可成様まで…危ない。
可成様は…、
“まだ顔も見ていないとか”
「森様には、ややが居られると言うとったではないかッ。殿は、それを…」
池田「それ故に、ございます」