ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~まこと小さき次期当主様~

2013-05-23 | 岐阜城~刀剣美濃の道~
小堀「…美濃は、」
そして、小堀は稲葉山城、地下の見取りを、クシャ、
ぽいと、松明の炎に放って燃やそうとした。しかし、
一旦水に浸した美濃の油紙、容易く燃えてくれない。
「強うございます」
じわりじわり、じじじ…と、
ゆっくり燃える美濃の和紙、
信長「只では落ちぬか」
ぱらぱら…、黒く焼け落ち、
最期の一瞬、強く光を放ち、
帰蝶「…」
灰になって落ちてしまった。
小堀「御淋しゅうございますな」
ちらり、と、
一瞬と私を見て、
ふと目を落とす。
帰蝶「時代時代、古城を払うは至極当然」
信長「次代に合うた城を築けば良かろう」
と丸を見る…、
帰蝶「と、とと」
コ…ツン、と私の腕に凭れ掛かって、
ハッとしては、またねむねむ御ねむ。
小堀「これはこれは。次期当主様には、まだちと早い話でありましたか」
帰蝶「まぁ丸や…」どこぞ猫を借りたかと思えば、
こっくり、こっくり舟を漕ぎ、居眠りしておった。
今日の失踪大冒険、父の折檻…疲れたのであろう。
小堀「あれだけの家臣を煙に巻き、末が楽しみにございますな」
信長「ふ…」と口元が緩み、
父が子に、小さく照れ笑い。
「まだまだこれからよ、濃」

散華の如く~義父の地と、婿の天~

2013-05-22 | 散華の如く~天下出世の蝶~
もう一枚懐から紙を取り出し、
今度は、それを川の水に浸し、
ベチャベチャ、水滴を落とし、
帰蝶「これは?」
まるで迷路か、アリの巣か。
くねくね曲った道が現れた。
小堀「城下、庄屋に繋がる地下道にございます」
帰蝶「庄屋…」町の名主の事で、
主に下級武士や豪族が道路整備、
工事監修などを執り行っていた。
小堀「私の生家に繋がっております」
帰蝶「知らなかった…」
小堀「これを知るのは一部側近、我ら小堀家のみ」
信長「これほどの道が、地にあるか」
小堀「斎藤の親父様は、我ら庄屋と深く深く繋がっておりました」
出掛ければ、山を、町を探索。
山を整備、町民の声を聴いた。
信長「そうか、義父は深く地、その民と繋がるか」
帰蝶「父の祖、元は油売り…と、聞いております」
信長「油売りから身をお越し、天下取りとは未聞」
小堀「我ら下の気持ち、よう汲んでくれました。しかし、無念…」
下を手厚くする余り、
重鎮腹心が不平不満、
鬱屈謀反に繋がった。
帰蝶「父の死で、その功は全て無」
小堀「無に致しません。討つ今、美濃は荒れております」
父を慕っていた民が一揆暴動。
「長井…そう長くは持ちませぬ」
信長「義父が地、ならば婿は、天と地か」
帰蝶「はい。美濃を、お治め下さいませ」

散華の如く~八方塞がり、二方逃げ~

2013-05-21 | 散華の如く~天下出世の蝶~
金華その形状、まさしく金。
小堀「天から四方見渡し、八方攻め来る敵を討ちまする」
信長「しかしこれでは、八方塞がり」
手薄を狙われ、籠城戦。
水責めは無いにしても、
「食攻め(兵糧攻め)」
女子供が、まず落ちる。
帰蝶「この間取り…、ちょっと宜しゅうございますか?」
可笑しい…この間取り、
私の記憶違いか?違う。
「これ稲葉山城…?金華の見取りではない」
私の潜んでいた武庫から直通、
一本の抜け道があったはず…。
だが、ここに記されていない。
それに、
「私の部屋が、無い」
どういう事か?と小堀を見る。
すると彼は、見取り図を手に、
じりじり…蝋の炎を近付けた。
薄らぼんやり浮かぶ新たな線、
武庫から一本抜け道が現れた。
信長「炙り出しか」
蜜柑の絞り汁を筆に付けて、蝋の炎で炙り出す、透かし。
※昔、香具師は塩水、神酒を吉凶占いに使っていました。
小堀「そして、帰蝶様の部屋…」
じりじりと炙り出す、私の部屋…
帰蝶「出てきた…」
焦げ茶の部屋が現れて、丸が目を丸く、へぇ?
私を見て、和紙を見て、不思議そうな顔をした。
小堀「城の十の口、その二は抜けにございます」

散華の如く~難攻不落の、廃城~

2013-05-20 | 散華の如く~天下出世の蝶~
この時殿が打診したのは市の縁談で。
浅井家嫡男長政の先妻様の代わりに、
継妻にお市を…、という話であった。
信長「一つ…」酌をして、
「頼む」と縁談を進める。
帰蝶「今尾張は、正念場にございます」
小堀「長井討伐…」
信長「無論」
帰蝶「…しかし、伯父様が謀反など…」
その危険な香…薄々とは感じていた。
…四年前、長良の合戦、義兄の謀反。
その裏で糸を引くは、長井の伯父様。
父と反りが合わず、幾度となく衝突。
家臣側近らに広がる怪しい雲行きで、
隣尾張との和睦、私の婚儀を急いだ。
斎藤派、長井派と二極化、荒れる国内情勢に、
他国隣国と戦している場合では、なくなった。
信長「義父殿、亡き後…」
御身内の裏切り、さぞ辛かろう、と。
「金華は妻の山。この手で返す」
帰蝶「嬉しく、有難く存じます」
小堀「…この小堀、非力ながら」
懐から、血と泥に染まった茶紙を取り出し、
「手を貸します」
古紙のくしゃくしゃ、皺を丁寧に伸ばした。
帰蝶「それは…」
小堀「門外不出、父の傑作にございます。信長様、その手に」
広げられた紙に小堀の父が設計した庭と、城内外と見取りが記されていた。
それを見て再び、難しい顔で腕を組む。
信長「流石は親父殿の城、責め難し」

散華の如く~和睦か否か~

2013-05-19 | 散華の如く~天下出世の蝶~
小堀「いやいや鴛鴦。私、安心致しました」
くい、くいと杯を空にして、
「もう一杯、頂けませんか?」
殿の意を読んだか、酔いどれが。
市を正視、さらに酒を所望する。
市姫「はい」
ととと、と注ぎ、
ツンと鼻に突く、
純粋な酒の香で、
小堀「…信長様も人が悪い」
鼻先を赤らめた。
信長「はて、何の事か?」
小堀「いえ、特段意味は、ございません」
杯に口をして、チビ、
殿の意を呑み込んだ。
市姫「?」小堀の意外、
早い酔いに不可思議に思ったか、
お市は首を、可愛らしく傾げた。
帰蝶「お市。絡まれるで、向こうに行っておれ」
市のお披露目終了、その手の銚子を取り上げ、彼女を下げる。
小堀「ではまた改めて」
市姫「はぁ…、では…」また…?と、
やはり首を傾げ、空の銚子を下げ…、
「お…とと」波風に大きく揺れる船に、
あっちでゆらゆら、こっちでゆらゆら。
その身を委ねるお市、その背を見送り、
小堀「浅井の父も、満足致しましょう」
酔ったついでに、また本音が、ぽろり。
その時近江も揺れていた、和睦か戦か。
帰蝶「義妹を何卒、宜しくお願い申し上げます」

散華の如く~尾張か、甲府か~

2013-05-18 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「殿…?」
信長「何をしておる、小堀殿の酒が足りぬぞ」
帰蝶「これは、ご無礼を」
酒と若鮎の御代わりを申し付け、
まず酒が運ばれ、注ぎに回るは、
市姫「どうぞ」
小堀「と、とと…」
美しい娘に、不意を突かれ、
杯の酒を零しそうになった。
帰蝶「まぁ」
無理もない。織田一族女系は名護屋人。
市、尾張一の美人と謳われ、いずれは、
浅井に嫁ぎ、近江一の美人と称される。
小堀「ほぉ…これまた、」
帰蝶「小堀殿、年頃を然様見つめては」
小堀「いや、失礼致しました」
ぺちッ、と頭を一つ打ち、年頃の娘から視線を外す。
ぽろり、ほろ酔い加減で、男、戦国の本音が漏れる。
「帰蝶様もこの頃には、数多ご縁がございましたな」
天下人の娘となれば、当然。
父も、娘の縁談に骨を折る。
尾張か甲府か、都か田舎か?
帰蝶「そんな昔、持ち出すでない」
市姫「へぇ?」このおませが、
花の縁談と聞いて喰らい付く。
帰蝶「これ、小堀よ」
昔を封印、小堀を嗜める。
しかし殿、小堀に加勢し、
信長「酔い良い。甲府にそなたは持て余そうが」
帰蝶「まぁ失礼。私、武田様にも卒なく、お仕え致しまする」

散華の如く~実家と婚家と、御身内と~

2013-05-17 | 散華の如く~天下出世の蝶~
小堀「それはそれはお厳しい方で」
“こんな所で、危なかろうッ”
帰蝶「そういえば、私も…」
入室厳禁武庫に忍び込み、
眠り込んでしまった私を、
“どれほど心配したか…”
必至に探し回ってくれた。
そんな彼の気を引くため、
「よう困らせたわ…」
帰命丸「母…?」
帰蝶「私、少々お転婆が過ぎて…な」
帰命丸「おチェバばぁ?」
小堀「私もヤンチャ、兄貴衆が冷や冷や、ヤキモキしておられた」
帰命丸「チャんちゃ…」
大人の話に首を傾げながら、
何となく意味を理解する丸。
その傍らで、
信長「…」
依然、気分の優れないご様子で、
あの時のように、右の手を隠し、
私らの話に耳を傾けておられた。
帰蝶「…御身内には格別篤き方にて…」
長良川の合戦で、我が母小見方を匿い、
道三方にも付けず、義龍方にも付かず、
義を貫き、地位より名誉と浪人に落ち、
小堀「しかし、勿体ない話にございます。京にも広くいらっしゃるのに…」
京…という言葉に、
信長「ん」
ピクリと一瞬、隠れていた右の手が顔を出し、
するりと再び、顔と指を忍ばせ、心中隠した。

散華の如く~あの頃は~、ハッ!~

2013-05-16 | 散華の如く~天下出世の蝶~
信長「鵜匠らに伝えよ、宴する」
父の背中に、わんわんわん、
ひっくひっく嗚咽を投げて、
帰命丸「はぁ、うッ、は…、はは、は…」
この母に、救いを求めるが、
皆の手前、私も厳しく接し、
帰蝶「…皆に、ごめんなさいは?」
帰命丸「うッ、うぅ…」
父に初めて叩かれ、
母までもが冷たい、
「うぁあぁ~」
本陣に鳴り響く声。
帰蝶「丸…」
信長「濃よ、放っておけ」
帰蝶「…は、」
溜息のような返事で返す。
見兼ねた客人が口を挟む。
小堀「さぁ若様、一緒に参りますよ」
ひょいと、丸を担ぎ上げ、
背中をポンポン、叩いて、
「帰蝶様。まだ鵜が怖いと仰せにございますか?」
ほらほらと私を急かした。
帰蝶「いいえ、もう平気にございます」
小堀殿の御配慮で、凍て付いた本陣に初夏が戻る。
騒然から一転幽玄に包まれ、気を取り直し屋形へ。
暗に光灯す篝火の中、鵜飼鵜匠の演技が再開した。
伝統の技を見ながら、小堀がククと思い出し笑い、
小堀「私も悪戯が過ぎ、よくよく、明智の兄貴に叱られました」
帰蝶「明智様…」
丸の頬を冷やしながら、私も、あの頃を思い出す。

散華の如く~父として、母として~

2013-05-15 | 散華の如く~天下出世の蝶~
家臣ら総出の大捜索から一時間弱、
丸発見、殿の御前に引き出された。
帰命丸「…」
帰蝶「このバカ、皆がどれほど…」
母一人、私の気を引くために、
斯様馬鹿な企てを引き起こし、
御客人の大切な時間まで割き、
「心痛めたか…、そなた、分かるか?」
帰命丸「…だって、」
丸の気持ちも、分かる。
だから、
この胸に抱いてやろ…、
帰蝶「と…」
ツカツカと腕組みした殿が、
丸の前で仁王立ち、そして、
組んだ腕をすと解いた刹那、
バンッ
私の目の前で、丸が飛んだ。
ピキッ
初夏が一瞬で、凍りついた。
丸の頬が見る見る赤くなり、
ようやく状況が呑み込めた。
「殿ッ。丸の事…これら全て、私の責めにございます。どうかご勘弁を、」
私は殿に土下座した。
妻の謝罪が利かぬか、
くるり、と背を向け、
信長「見苦しい所、すまぬ」
浅井家の使者である小堀に、
深く、丁寧に、頭を下げた。
小堀「お嫡男様の御無事、何よりにございました」