ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

森の鬼退治・白鷺と愛筆と、物語

2012-01-16 | 森の鬼退治
泉「中村様、いろいろと、ありがとうございます」夫を弔うことが出来た。しばらくして、私は男(おのこ)を出産し、この中村 一氏(かずうじ)様と再婚した。
時は流れ、弟たちも大きくなり、関ヶ原開戦。その時、池田方は徳川方に付き、勝利した。
その後、海上貿易の拠点 姫路に移った池田は姫路城主となっていた。
輝政「姉上、いかがです?」城の改築工事が終わったので見に来いと私を姫路に呼び寄せた。
泉「見事な…まるで、父上様を見ているようです」白く大きな翼を広げ、立ち舞う姿…、

輝政「白鷺城です」
泉「雄々しいお姿…」白鷺と、脳裏に浮かぶ父上様が重なって見えた。
輝政「どんな事があっても、決して落城致しません」(彼が断言した通り大戦中、砲弾を受けず無傷だった。その事からも難攻 不落城と讃えられ、昭和26年世界文化遺産に指定された)
「きっと、義兄上様も、天から眺めておいでしょう」
輝政は父や兄たちの意志を継いで立派な城主に成長していた。城下町や運河の整備、また、芸能文化、教育にも熱心だった。しかし、五十歳で急遽。長男 新之助が家督を継いだ。しかし、貿易拠点を任すには年若く、国替えとなった。白鷺城には本多 忠勝様の嫡男 忠刻(ただとき)様が城主となられ、大坂夏の陣で助け出された家康様の孫娘 千(せん)姫様と婚儀を交わし、ここで暮らすことになったという。
本多「心苦しく思います、安養院様」その後、本多殿と話す機会が設けられた。池田と私を配慮しての事である。その頃、私は剃髪し尼となり、泉から名を安養院と改めていた。
安養院「いいえ。長久手の、お礼のつもりでしょう」
小牧 長久手の戦いでは、世話に成ったと、そう父が言っているように思えた。
あの戦は、私から多くのものを奪った。代わりに彼らの意志と、忘れ形見の子を授かった。

戦以来、鉄砲を持つ事が出来なくなり、代わりに夫の形見の、愛筆を持つようになっていた。長可の筆を見つめ、湧き上がる思いとは…我が子たち、教え子たちに男の生き様と死に際を伝えたい、という事で…、池田の父と弟たち、森の鬼と恐れられた夫と、それを見届けた男たちを後世に遺したい。この乱世、刃突き合わせる事止むを得なく、しかし、戦においての弔い(敬意)を決して忘れない。それを教えて下さった信長様の思い『敦盛』と共に、私は男たちの物語を描いていた。
コト…、長可の愛筆を置き、安養院「父上様、もう…よろしいでしょうか」
天を仰ぎ、私は目を閉じた。夫、長可の元へ「逝かせて頂きます」
物語を完結させ、私は来世へと続く永い眠りについた。(番外編・森の鬼退治-完-)

森の鬼退治・鬼の離縁状

2012-01-15 | 森の鬼退治
中村「池田様は最期まで長可様を…、立派な最期でございました。それと、長可殿の懐に、」
血に染まった書状を差し出した。その内容は、
泉「遺言…?」ではなく、離縁状だった。
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泉、腹の子は、よく蹴っているか?
女子なら、銃等持たすな。医者に嫁がせろ。
男子なら、御父上様のような武将に育てよ。
俺のように、最後の最期まで聞き分けのない、出来の悪い息子にはするな。
俺は御父上様の後を追う。あの世でまたお叱り受けるだろう。
だが、父と子と、ゆっくり酒が飲みたくなった。戦に飽きた。
戦の度毎に心が壊れた。流れる血が己の血か、人か、鬼か。
そんな鬼の血を流させ、手当させてしまって、泉、すまん。
ひと時であったが、白装束を脱いだ時、幸せと思った。
心残りは、お前と子を幸せに出来ぬ事、許せ。
今回の件、お前たちの事は“秀吉様”にお頼みした。案ずるな。
今後、火急の時は“家康様”に御相談するよう、弟たちによくよく申し付けよ。
申し付け終わったら、再婚して好し。幸せになれ、子を頼む。

泉、白装束が嫌いだと言っていたな。
俺も嫌いだ。お前の白装束など見たくもない。
だから、先に逝く。

もし、来世、許されるなら、
白き水に咲く花の如し
美しき白鷺の子を愛でたいものだ

さらば、森 武蔵 長可
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享年27、源氏の白鬼といわれた長可の首は父の眠る可成寺(岐阜県可児市)に埋葬された。
こうして、一番下の弟 千丸を残し、森の鬼退治は終わった。

森の鬼退治・貫かれた父の背

2012-01-14 | 森の鬼退治
「“羽柴軍”より、使者にございます」サルからの買収と、
池田「家康殿が…羽柴に寝返った?」情報が錯綜し、混乱を招いていた。
之助「もはや、家康も…敵?」小牧 長久手で両軍に挟まれ、長い膠着状態が続いていた。
池田「…」これではまずい「私が奇襲をかける。二人はその隙に、本陣から撤退だ」
之助「なりません。父上、それは…」自殺行為だった。
池田「酒が飲みたくなった…逝かせろ」人生五十、息子と娘婿の勇姿を拝め、満足だった。
長可「共に、飲みます」
池田「ダメだ。お前には、泉がいる。それに、腹の子も。下がれ」
長可「…。はい」久しく聞いていない素直な返事と…「義父上様…」そう呼ばれて、
池田「父は、」それだけで本望だった「先に逝く」長可の隊を本陣の後ろに下げ、私は家康方に奇襲をかけ…「何ッ!?」鉄砲隊の連射が、紫紺の空に響いた。
之助「森の陣に奇襲ッ!?」
池田「援護に、」向かおうとした時、本陣が家康方「本多…」の別動隊に囲まれ交戦となった。
之助「ち、ち…うえ…」息子が討ち取られ、私も、
池田「長…よ、し…、」背を、槍で貫かれた。
本多「長可殿は…、」
池田「…」息子たちを守れぬ父で「…す、ま…ない」
“共に、飲みます”
あの世で父子水入らず、飲む…か。
池田 信輝、享年49。奇しくも信長と同じ年であった。
一方、長可の陣では彼の鎧は剥ぎ取られ、白装束は無残に切られ、その体に首は無かった。
その首の行方は…、
中村「御方様にお目通りを…」血に染まった布包みを抱え、使者がやって来た。
泉「中村…様?一体…何?」恐る恐る包みを開いた。その中に「ハッ!」長可の首があった。
中村「本多が泉様に、と…」
泉「本多様…」彼の首を人目にさらしたくないと、私に戻してくれた。
長可の額には、鬼の角をへし折られたような鉄砲の傷跡があり、鼻はそげ落とされていた。
中村「池田様は…、」徳川方に手厚く葬られたと聞いた。
泉「家康様と…本多様に、お礼を…あ、ありがとうございます」夫の首を抱き締めて、
千丸「兄上ぇー」弟たちと共に、泣いた。

森の鬼退治・戦の鬼と、花

2012-01-13 | 森の鬼退治
池田と、せんと本多は後に深い関わりを持つ事になる。
泉「ありがとうございます」小さく頭を下げ、ゆっくり顔を上げた。
松明に照らされた本多様のお顔と逞しい腕が見えた。それをぼんやりと眺めていたら、
池田「泉、失礼だぞ」
泉「は…申し訳ございません。本多様の、甲冑のお姿しか拝見した事がなく、」…うつむいた。
本多様は前立に大きな鹿の角をあしらった鹿角脇立兜、姉川の合戦での活躍が信長様の目に留まり『花実(かじつ)兼備の勇士』と讃えられた。
戦法は長可と同じく、単独で敵陣に突入する、けど「戦では、かすり傷一つ負わないとか…」
血の気多く、無茶しがちな彼とは似て非なる方で、羨ましく思った。
本多「…長可殿は、」武田征伐の際に手傷を負って「…大事ないですか?」
泉「大事…、ありません」見え透いたウソだった。小指が切断され…出血がひどく、
池田「もういい。長可に付いてやれ」
泉「はい。では、本多様、失礼仕ります」礼をして、下がっていった。
本多「…」彼女の、か細い背中を見送り「長可殿の…白装束は、いつからなのですか?」
池田「さぁ、いつからでしょう」家督を継いだ13には、死に装束(死ぬ覚悟)をまとっていた。
…だから、家族を持たせたい、そう思うのは父の、私のエゴかもしれない。新たな家族を持ったなら死をまとう事、止められる。その役目を泉が果たしてくれるなら…と、その後、二人の結婚を許した。長可もこれを機に死に急ぐことはあるまい、死に装束を脱いでくれると信じた。しかし、本能寺の変が起き、再び死をまとった。
我ら主君が討ち取られ、織田後継者 信忠が死に、
“池…田様、気を、つけて…”
池田「蘭丸が、討ち取られた…?」
泉「そ、そんな…、幼い子たちまで、どうして…」
長可「武功は武功だ」三人の弟たちの死に涙も見せず、ただ、グッと堪えた拳を作っていた。
ポタッ、切断された小指から血が滴った。
泉「長可…」森家で残されたのは彼と、一番下の弟 千丸のみ。
私は白鬼の血の涙を受け「千丸は、私が守ります」再び、鉄砲隊長を志願した。
とうとう織田後継者争いが起きたのだ。信長の孫 三法師(後の秀信)を押す秀吉と、信長の、最愛の方 吉乃(きつの、生駒方)様の忘れ形見 信雄(のぶかつ)を援護する家康との戦いで、
池田「我ら、信雄殿をお守りする」家康方に付き、陣を取った。しかし、

森の鬼退治・せん、という名の女

2012-01-12 | 森の鬼退治
本多は家康の今川義元に人質時代から仕える重臣だった。
家康には今川の姪 瀬名姫(築山殿)との間に信康(信長の娘 徳姫と結婚)がいたが、その正妻が信長のライバル関係にある武田勝頼と内通しているという疑惑から、
信長「よきに計らえ」と、家康は瀬名姫と長兄に切腹を命じた(築山事件)。
その年に生まれたのが、三男 竹千代(後の二代将軍 秀忠)で、本多はその教育係だ。
父が兄に切腹を命じた、その真相を知って幼心に傷を残したのだろう。父が許せぬ、と。
本多「心開かぬ子で困っております」
そういえば、長可も幼き頃、心開かぬ子だった。
“…人質、なのか?”
そう言って、私を見た。その鋭くも哀しい目が焼き付いている。
池田「若君は、おいくつになられた?」
本多「四つ…、もう五つになります」
池田「一番、多感な時だな」
本多「一番、伸びる時です」
池田「という事は、」その伸びる時期に、本多に任せたという事は「家康殿は若君を、」
本多「さぁ、それは…」言葉を濁した。
(次男は長久手の戦いの後、秀吉との和睦に養子(人質)出された)
池田「そうだな」彼は思慮深く、沈着で言葉を選ぶ男だった。
そこへ、追加の酒を運んで来た泉「父上、お持ちしました。どうぞ…」本多様に酒を注いだ。
本多「お初にお目にかかります」女鉄砲部隊長の「噂は兼々伺っております」頭を下げた。
泉「噂…は、その…」気恥ずかしくなり、深々と頭を下げ「あ…ありがとうございます」
池田「くッ」と笑って「噂など、信じるに値せず」
本多「は?」
泉「父上ッ」シーッと人差し指で合図して「言わないで下さい」とお頼みしたのに…、
池田「裏で、ベソかいておりました」チビッと酒飲み、娘を酒の肴にした。
本多「はぁ…」噂では、男たちの度肝を抜き玉無しにして撤退させたとか、
泉「…怖かった…戦は、」訓練と、実戦の違いに相当応えたらしく…「もう嫌にございます」
本多「よく、頑張られました」
泉「弟たちは、」森家の末っ子 千丸も「まだ幼く、戦となれば女も城を守らねばなりません」
本多「それは心強い」武将の妻に相応しい、泉殿を見て「…美しい響きの名ですね」

森の鬼退治・敦盛と熊谷

2012-01-11 | 森の鬼退治
明智光秀「始まりましたよ、信長様の敦盛…」彼が三人の間を取り持ってくれる。
池田「ほ…」明智がいてくれて助かった。彼は聡く場を取り成すのが上手い。難しい交渉や朝廷への使者も担ってくれる。ただ、私たちよりも高齢で…彼、亡き後どうなるか。
その不安は信長の同じで、その不安を抑え、死者の鎮魂のために信長は舞う。
『敦盛(あつもり)』
敦盛は敵に背を向け、馬を走らせた。それに対し、
熊谷「敵に背を向けるとはッ」
敦盛「ならば、」馬を止めて「この首を、取れ」兜を脱いだ。その顔を見ると、
熊谷「年は?」
敦盛「16」の美少年だった。
熊谷「…この場から立ち去られよ」逃そうとするも、
敦盛「敵に、背は向けられん。私を打て」と首を差し出した。
首を落とした熊谷直実(なおざね)は16という息子と同じ年頃の、その若い命を人目にさらしたくないと敦盛の首をこっそり盗んで、別の場所に埋めた。
(後世、二人を弔う霊廟が高野山に並んで建てられました)
若い頃は敦盛に感銘を受けた。今、私も子を持つ親となって、熊谷の、父としての気持ちを考えるようになった。戦での情けは無用、しかし、人として、父としての熊谷の行動が私の心を打った。信長も四十後半に差し掛かり、舞に変化が生じた。年(寿命)のせいかも知れん。
…人間五十年 化天(第六天の寿命)の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり
一度生を受け滅せぬ者の有るべきか…
死のうは一定 しのび草には何をしょぞ 一定語りおこすのよのう
(生ある者死ぬ定め、人生50限られた生の中で死に囚われる事無く生きる…それが、悟り)
信長は、第六天になれるものならなぁ、そう零した事がある。長い寿命を持つ第六天になれば、世を泰平にする事叶う。人ひとり、五十という寿命では泰平には足りない。一人天下を治めたとしても維持するのは困難。それ故に後継者がいる。だが、周りが危惧するように織田家では育ってはいない。これでは先代斯波、土岐氏族の二の舞だ。相続争い、そのドサクサに紛れ、家臣が謀反を起こす。天下を狙う鋭い目と、この緊張感の中で糸が弾かれたら…。
せめて、長可と蘭丸が独り立ちするまでは「と、」酒が差し出された「君は、本多…」
本多忠勝「お考え事ですか?」この者とは何かと縁深く、話す機会が多く、
池田「君も、同じ悩みがあるのでは?」酒を酌み交わした。

森の鬼退治・森のエリート衆

2012-01-10 | 森の鬼退治
池田「長可、向こうに…」泉を手当てさせようと合図を出したら、
斎藤「そういや、泉ちゃん…御年頃」向こうにいる泉を見て「うちのと結婚させては…、」
池田「断る」マムシの娘と結婚しているお前と親戚付き合い等出来ん「長可、行け」
長可「…」頭を小さく下げ、無言でヤツに一瞥くれて行ったが、そういう態度もまずい。
斎藤「まさか、あの白鬼と?」
池田「娘は医者と結婚させる」
斎藤「部隊長殿が、」二人の様子を嘗め回すように見て「夫に穴あきを回すんですか?」
その頃、泉は女200まとめ上げる鉄砲部隊長になっていた。その戦いぶりが噂となり、
「どう見ても、鬼の援護射撃」
奴の言うとおり、泉は弟たちを守るため、戦に出ます、そう言い出した。
幼い弟たち…血の繋がった弟と繋がらないが大切な長可の弟たちを守りたい、その一心での心願だった。その事が二人の仲は急速に縮めていった。
長可は無口な男だが、戦中においても筆と紙を懐に携え、心情を綴るという能筆家で、その文才は信長も感銘を受けていた。
あの無口が、礼のつもりで花を添えた文でも贈ってプロポーズしたか、先日、泉「森の、鬼武蔵と結婚致します」と言った。ダメだと言って聞くような娘ではなく、
織田「鬼に鉄砲(金棒のつもりらしいです)だな、ははは」と笑っていたが、
池田「笑い事ではありませんッ」二人が結婚するとなったら、それこそ「タダじゃ…」
サルの、羽柴 秀吉「何が、タダ、で?」ヒヒッと顔を出した。
草履を懐で温めるという器量の良さを買われ、信長が草履取りから小姓に採用して重臣に成り上がった。気回し良く、サービス精神旺盛で人たらし(人の心を掴むのが上手い)。さらに、軍師二人を手懐けるほどの交渉上手で信長も重用している。だた、田舎野猿が森の鬼(エリート)を見る目は鋭い。20代先鋭に、30代猿が危惧するもの当然の事。
蘭丸「御屋形様、準備が整いました」
織田「おう」能の達人は舞台に行かれ、それに付いて行く、
羽柴「蘭丸」を呼び止め…「御屋形様は、お優しいか?」と10代新参に茶々を入れる。
負けずの蘭丸「はい」と、にっこり笑って「夜は、格別に、お優しいです」さらりと返す。
池田「蘭丸ッ」そういう挑戦的な態度が家臣たちには鼻につく。しかし、窘めるも利かない。
そこへ「まるで、信長様二世三世、ですな」ポン、と狸の松平が顔を出した。
羽柴「家康殿」と猿が対峙した。この両者、年の頃も近く、天下乱れた時は…「おッ」と、

森の鬼退治・武蔵の森

2012-01-09 | 森の鬼退治
私の子たちも、森の子鬼たちと共に過す時間が長くなり、稽古も同じで、
織田「おッ。いい勝負じゃないか」
池田「そう見えますか?」息子 之助(ゆきのすけ)が木刀を持ち、勝蔵が長刀で対決していた。
同じ年なのだが、体格が随分と違う。
織田「まるで、」面白そうに「五条大橋の弁慶と牛若丸だ」と見ていたが、
池田「…そうでしょうか?」牛若丸が霞んで見える。
織田「よし、武蔵坊 弁慶を戦に出す」15歳で初陣…それはいいとして、
池田「はぁ?」寄りによって、あの羽柴 秀吉と連座させた。つまり、小姓扱いではなく、いきなり「重臣?」扱いだ。もちろん、農民上がりの元 草履取りは面白くない。家臣共々、早過ぎると危惧したが、信長の期待に応えるべく、森の鬼武蔵は戦火に飛び込み、27の首級を上げた。長槍の振り回した、その戦い振りに、
織田「我が槍を持て」槍の名手が気前よく自慢の十文字槍を譲ったから、家臣はもちろん、織田家一族も驚いた。さらには、「確か、森家は源 義隆が祖だったな」
家督を継ぐ者には祖の一字、源氏であれば”義(よし)”を継承する。
「勝。これから、長可(ながよし)と名乗れ」
勝蔵「え…」
織田「我が字(あざな)“長(なが)”と源氏の字でお前の父の字“可(よし)”で、長可だ」
こうして”森 長可”が誕生した。これは、信長が彼を自分と同格であると認めた事を表す。
だが、この名前の一件でも良からぬ噂が立った。信長は長可に家督を譲るつもりだ、と。
ここで、事を収めておかねば、
池田「これでは、家臣たちに示しが付きません」
軍規違反のお咎めを請うたが、書状で注意するに留まり、
織田「良い働きだった。やはり、鬼ノ武蔵だな」その名の通り、武蔵守に就かせた。
20代にして他の家臣たちより多く石高を貰う等、その早過ぎる出世に、
勝蔵「この武蔵長可」微かな喜びを見出していた。主君に褒められる事がよほど嬉しかったと見え「その名に恥じぬ、武蔵の守(森) 長可となります」その様子を見て、
池田「…」教育係、父代わりの私は「良かったな…」嬉しくも誇らしくもあった。
しかし、依然向けられる家臣たちの鋭い視線が「…と」
「よッ、調教師(教育係)様」と現われた明智腹心の斎藤 利三「よく鬼を、手懐けましたね」
長可「…」サッ、と戦での手傷を隠した。

森の鬼退治・鬼に鉄砲

2012-01-08 | 森の鬼退治
ぐるぐる巻きの包帯が見えた。パッと、彼は羽織を正し、それを隠した。けど…、
蘭丸「にぃちゃん、それ…、まさか、お前がッ!」
池田「…」今度は私が標的か…?
泉「このぉ、やんちゃ丸ッ!父上様になんて事をッ」
蘭丸「え…」一瞬、動きが止まり「ちち…う、え…うえぇー」泣き出してしまった。
泉「ら…蘭丸」彼はお父上様と一番上の兄上様を亡くしたと聞いていた、だから「…ごめん」
勝蔵「泣くな、兄ちゃんがついてる」懐に弟を埋めて、慰めていた。弟思いの兄なのだと分かった。多感な時期に父の死を経験し、私は信長の若かりし頃を思い起こしていた。
17で父を亡くし、人質だった兄も死んだ。次男でありながら家督を継いだが、その時、悲劇が起こった。信長の教育係 平手政秀が諌死(かんし)…織田家の家督相続争いに平手様が息子を押すのでは、との疑いが浮上したのだ。この一件を治めるため、彼自ら死を選ばれた。
さすがの平家赤鬼といわれる彼も堪えたらしく、泣いていた。そんな己と子鬼たちの生い立ちを重ね、織田「こいつらを引き取る」と言い出した。それは良いとして「教育係、頼むな」ポン、私に子鬼どもを預けて、
池田「ふぅ…」参った。
勝蔵「…」無口で何を考えているのか分からん。蘭丸は、
泉「ほら、男の子でしょッ」感受性が強く「いつまで泣いているの」不安定だった。
勝蔵と年の近い泉が弟たちの面倒を見てくれ、助かった。よく世話を焼いて…、
勝蔵「余計な事をするな」
やっと口にした言葉がこれだ…。先が思い遣られる。
泉「なッにぃ!」今度は、こっちの二人に険悪なムードが漂って、
池田「泉、少しお淑やかにな…」
サッと、懐から、
勝蔵「短銃(拳銃・ピストル※)…」を突き付け、
泉「試してみる?」と勝蔵に短銃を「バーンッ」と空打ちした。
池田「泉ッ」
※当時、火縄銃の小型改良版、西洋の短銃を作らせていた。その試作品の、
蘭丸「カッコイイ」おもちゃのピストルを「貸してッ」
泉「はいッ♪」コロッと、池田「…泣き止んだ」それには、
勝蔵「くくっ」小さく笑っていた。弟たちの扱いは泉の方が上手のようだ。

森の鬼退治・死に装束

2012-01-07 | 森の鬼退治
池田「切腹?」羽織の下に白装束を着込んでいた。
ザッ、刀を突き刺した瞬間「待てッ」止めたが、腹から血が流れ…、
織田「面白いヤツだな」織田から笑みが消えた。
池田「な、なんて子だ」表情一つ変えず切腹しようなど、
勝蔵「これで、弟たちを返せ」鋭い目で、俺を睨んだ。
織田「死んだら、戻って来ん。おい、手当てしてやれ」関守を切ったお咎めは免除となった。
池田「…はい」別室に連れて行き、手当てを施した「君が死んだら、幼い弟たちはどうなる?」下の弟は七つになったばかり、その下にも弟が三人「君は、生きて弟たちを守らねばならない。その死に装束は…、」
勝蔵「…人質、なのか?」
池田「違う」関守を切った理由か…「君の弟は、私の子たちと遊んでいる。少し、」
血が止まらない「その緊張を解いてくれまいか、これでは…」
勝蔵「…」素直に治療を受けていたが、私に警戒している。敵意と殺意が剥き出しだった。
池田「君のお父上 可成様は恩義ある方だ。我々は敵ではない。君たちを人質にするなど、」
勝蔵「味方が主君を裏切り、敵となった」いつ、敵になるか…信頼出来ないのも、
池田「…致し方ない。ただ、この時代に生まれ、家督を継いだなら残された氏族を生かす事を考えろ」やっと血が止まった…「これで、手を洗え」水を張った桶を差し出した。
勝蔵「家督…」チャポン、水が血色に染まって、手がきれいに洗い流された。
池田「手を拭け」白い布を渡した。主君が家臣に滅ぼされた。この下克上では「誰に就くか、どこで生きるか、生をどこに繋げるかを考えろ。死の覚悟は、その後だ」白装束を脱がせた。白装束の下には筋骨隆々とした肉体が隠れていた。私の羽織を着せて「すこし、大きいな」成熟している体に未熟な心、何ともアンバランスで…危なっかしい。
若ければ、やんちゃという簡単な言葉で片付けられるが、家督を継いだ以上…「は?」
ダダダダァー、
泉「待ちなさいッ、このぉ、乱暴丸」の首根っこをひっ捕まえて「お仕置きよッ」
乱暴丸と言わているのが、森家の三男 蘭丸で、
池田「泉(せん)…」というのが、私の娘「向こうで、遊びなさい」
泉「遊んでいたら、このやんちゃ丸がッ」
蘭丸「後ろ取られる方が悪いッ」木刀を振り回して、
泉「ここで振り回すのは止めなさい」拳骨を振り上げ「て?」止められた。その男を見たら、