ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

黒髪のマリア

2011-07-31 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
酒田の料亭から、新しく芽生えた命の瞬きにそぉっと手を伸ばし、
巴「子供…かぁ」子宮の辺りに置いた。まだ、実感が湧かない。
そんな巴に「大丈夫ですか?」と声を掛け、白湯を持って、女性が部屋に入って来た。
彼女の見事な黒髪を見て「黒髪のマリア…」土岐が守っている勝利の女神だ、と分かった。
「私には、もったいない通り名です」と苦笑いして「土岐の妻、照(あき)と申します」とお辞儀した。その拍子に、さらり…と横髪が垂れた「巴様がここに居られます間、身の回りのお世話させて頂くことに成りました」スッと頭を上げ、黒い髪の間から白い肌を覗かせた。
白に揺れる黒髪が美しく、見惚れていたら…、ドタドタドタッ、ワァと奇声と共に、ガラッと戸が開き、巴「よしたか」と、女の子が入って来た。
照「コラッ、珠。向こうで遊んでなさいッ」と叱りつけた。その珠(タマ)と呼ばれた、年のころ6、7歳の可愛らしい女の子は、
珠「はい、ごめんなさい」と利発そうな顔を向け、私に謝った。
義隆「ごめんなさい」一緒になって頭を下げたが、ブスッとした顔で
巴「クスッ」照れくさそう。女の子に目を向けて「あなたの子?」とマリアに尋ねたら、
照「えぇ」ほんのり赤くなり「実は、ここに、」お腹に左手を当てて、パッと右掌を開いた。
巴「え…」五人目?彼女を見て「頑張るわね」耳まで真っ赤にした土岐の顔を思い浮かべた。
照「はぁ…」と頬を赤らめた。そういうとこ、夫婦似るのかしら。
巴「なるほど」彼女が、私の付き人に抜擢された理由が分かった。
義隆「伯母ちゃんッ」と呼んで「与一兄ちゃん、話あるって」と生意気そうな顔を、こちらに向けた。その顔が幼馴染みの、若い頃の義仲に似ていて、
巴「その伯母ちゃんって、やめてくんない?」こっちだけ年食って…ヤだ。
小さい義隆の向こう側に映った義仲の面影を、チッと睨んだ。永遠の31歳が妬ましかった。妬んでもどうにもならない。分かっている。彼を通り越して三つも年を取ってしまった…。
「私も彼と話がしたいわ。彼を“呼んで”もらえる?」と義隆に頼んだら、
義隆「うん。”連れて来る”、珠ちゃん、行こッ」と手を繋いで、廊下を走って行った。
ドタドタドタ…、
照「廊下、走っちゃ、」と注意しようとしたら、
巴「連れて…来る?」
照「…彼、目がお悪いそうです」と、そう付け加えて、部屋から下がってしまった。
巴「…え」閉まった戸を「目が…悪い?」睨んでいたら、いきなりと戸が開いた。

夢の中の彼女

2011-07-30 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
志津「その弟が、話題に上っていたよ」
池田「はい…」察しは、付いていた。ただ、
志津「そりゃそうと…」チラッと御神酒に目をやり「鹿嶋の白髭に、会ったね」
池田「それを、」軋む胸のアザを服で誤魔化して「戴きました」と言ったら、
志津「突っ張り、喰らったろ?あの白髭…相撲と能書きが好きでねぇ」
池田「道理で」
布に水を潜らせ、ギュッと固く絞り、志津「ほら」もういいよ、シッシッと部屋から出るよう急かされた。そっと静かに立ち、抜き足で戸に近づき、す…と戸を開けて、
池田「立ち聞き、ですか」
継「いやぁ」と頭を掻き「買出し行こうにも金なくて、な♪」と部屋を覗こうとしたから、
グイッと胸倉掴んで、懐に、池田「…」スッと金を入れた。
継「おっ♪」と思ったら、
池田「覗いたら、」パタンと戸を閉めて、首元に懐刀を突き出し「タダじゃ、おきません」
継「…はい」両手を挙げ、降参ポーズで、お金は「頂きますッ」
池田「それと、」首の刀を離して「温泉は、どこです?」今度は、背中に突き付けた。
継「お一人様ぁ、ごあんなぁ~い…」
池田「では、お願いします」彼を、温泉まで連行した。
ス…と戸を開けて、志津「やれやれ…育ちは良いが素行が悪い…」二人を見送った。
ピッシャッ、と戸を閉め「まったく、源平の元棟梁は、なんて悲しい遺産を遺すンだろうね。平家に生まれた源氏の妹…か」と彼女を着替えさせていたら、
能子「うぅ…ん」と寝返りをうった。
その拍子に、チリン…、巾着に手が触れて、悲しい鈴の音が鈍く響いた。
志津「泣いていたのかい…アンタ」涙の痕が、しっかり残っていた。
源平合戦が終っても、残された者たちの戦いは終らない「いつ癒えるんだろうね。この傷」
と胸の辺りを拭いてやった。時が癒す傷もあれば、時がえぐっていく傷痕もある。
「強くなるしかないんだよ」と、夢の中の彼女に言い聞かせたが「聞こえちゃいないか…」
それをこっそり、背中で聞いていた富樫は腕組み、空に「ふぅ…」小さく溜息を吹き掛けた。
息を吹き掛けられた空は、夕陽の橙から薄紫、紫から濃紺のグラデーションになっていて、宵の明星が、まるで瞬く命のように、輝いていた。
富樫「…」バリバリッ、歯痒くなって「どうすっかな…」頭を掻いていた。

異父兄妹と兄弟

2011-07-29 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「おそらく、その子に仕込まれた薬は…」
継「匠の、蠱毒(コドク)…」
池田「はい。今の段階で、施す手立てはなく、鎮痛剤で痛みを“抑える事だけ”でした…」
継「が、治った…?」
池田「診てみないと、なんとも言えませんが、血清(けっせい)だとすれば…」と言い掛けて、
シャッと、いきなり部屋に入って来た志津「油売ってないで客室掃除の次は、買出しだよッ!行きなッ、シッシッ」と二人を追っ払い「アンタは…」スッと、
池田「…」浴衣を差し出された。
志津「池ちゃんだっけ?温泉入ってきなッ」
池田「…」ちらっと、すやすや眠る御方様を見て、
志津「能子(よりこ)ちゃんだっけか?取って食ぃやしないよ。この格好じゃ、苦しいだろ」と女性用の浴衣を出した。
池田「どうして、彼女の名を?」
志津「今朝方、兄貴から“妹”だと、紹介された。あの兄貴の妹にしちゃ、品がある。しかも、かなりの身分…だろ?」
池田「…」
志津「”タダ”で泊めるんだ。そこら兄弟の事情と素性、教えてくれてもいいんじゃない?」
池田「…」迷ったが、正直に「義経さんは、源氏方棟梁の源 義朝様の最後のお子。義朝様が家臣の謀反により殺され、その後、行き場を失くした側室の常盤御前様が平家棟梁の平 清盛の側室に迎え入れられ、その後、彼女が産まれました」と彼らの素性を明かした。
志津「異父兄妹…清盛の娘」を見て「源平合戦、かつてのライバルが、兄妹を残した…」
池田「はい」
志津「何の因果(いんが)で…」ふぅと吐息を漏らし「ところで、あんたは何の因果だい?」
池田「私は…ただの、従者です」
志津「平家の情操教育じゃ、誤魔化しも習うのかい?」と睨んだ。
池田「…私は、小松(重盛)重臣 池田家の生まれで、その子 資盛の従者をしておりました。池田輝と申します。今は検非違使として彼女の護衛を仰せつかっております」
志津「ふぅ…ん。で、タクちゃんだっけ?弟の…」
池田「…あれは、越前織田庄の忌部(いんべ)※を父に持つ、異父弟です」
※祭事を執り行う職業集団氏族です。

まさか、妊娠!?

2011-07-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
巴「伯母ちゃん…伯母ちゃんって…」バッと右手を振り上げ、
斯波「あん?」と思ったら、
巴「まだ、おばちゃんじゃないわよッ!」と、愛する人の子を抱き締めた。力いっぱい。
そしたら、義隆「テェッ!」と悲鳴が上った。それを無視して、
小枝「“よ…し、た…か”」と一緒になって泣いて、孫を、力いっぱい抱き締めた。
義隆「おばちゃん…」のキレイな素顔に「もうお面付けちゃダメだよ」と注意して「伯母ちゃん、苦しいって。うぅ…ん」と、離れようとした。
巴「私より強くなって、撥ね退けなさいッ」ギュッと放さず…さらに、強く抱き締めた。
義隆「痛いってばぁッ」テレる。けど、こういうの、あり。
日本海に沈む夕陽をバックに、座って抱き締め合う木曾の命の繋がりを見守り、
義経「眩しいな…」と夕陽を遮った。
与一「はい…」視力でぼやけるのか、夕陽でぼやけるのか…堪えている涙でぼやけいるのか、
こういうぼんやりした世界のはっきりした繋がりも「いいもんですね…」と、改めて思った。
斯波「お前も、そろそろだろ?なっ」と、与一の腕を小突いた。
与一「…だと、いいですね」つい本音が出て、素っ気無く答えてしまった。
義経「…」そう答えた与一が、意外だった。だから、ふっと浮かない顔した妹の顔が浮んで、
“おばちゃんッ!”と叫ぶ義隆の声にかき消された。
斯波「どしたッ?」
すみか「巴さん!」に駆け寄って、背中をさすり、こっそり「つわりです」と教えてくれた。
義経「…腹に、子供が…!?」と、とにかく、急いで、料亭に戻った。
すー…引き戸が開き、眠っている能子の部屋に、
富樫「…大丈夫か?」エプロン姿でほっかぶり、ホウキ片手にバケツと雑巾を持って、
継「その…顔色悪ぃから、てっきり妊娠でも…」清掃作業をサボって、入って来た。
チリーン…
池田「それより…」巾着の中から鎮痛剤を取り出し「お腹を痛めた子は?」
富樫「あぁ、賀茂女なら治ったぞ」
池田「治った…?」と眉をひそめて、
継「さすが、吉備の薬だ…」池田のおっかない顔に「…な?」と首を傾げた。
池田「まさか…」血清?
富樫「あん?」

木曾義高と、義隆

2011-07-27 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
義経「れ?あん時の、のぞき魔じゃねぇか
巴「醜いもの見せられて、のぞき魔はないわね。逆に、目の治療費、請求したいわ」
義経「醜いって、失敬な女だな」
巴「それより…そこの坊ちゃん、渡しなさい」
義経「断る」と言ったら、
巴「じゃッ!」薙刀をブンッと振り下ろし、
義経「あぶねッ」後ろに飛んで、薙刀を避けた「剛怪力無双女…ここに見参ってか」
巴「腕は、落ちちゃいないよ」薙刀を構えた。そこへ、
「与一兄ちゃん、いじめンなッ」と鹿角君に乗った義隆が巴御前の前に立ち塞がった。
義経「危ねぇから、どいてろッ」
巴「あら、威勢のいい僕ちゃんだとこ」と薙刀で脅しに「ハッ!!」と振り落とし…ッ!?
バァッと両手広げ、十文字で義隆の盾になる女が巴の前に躍り出た。
巴「ちょ、ちょっとッ」と寸止めして「今度は、誰?」と義経に訊いたら、
義隆「おばちゃんッ!」と代わりに叫んだ。
巴「次から次へと、退きなさいッ」と振りかぶったら、また、吐き気が…。
小枝御前は、ス…ッと能面を外し、“やめ…な、さい”と消えそうな声で、巴を制した。
義経「…おばちゃん…声が、出た…」
巴「え!?」面の下の素顔に、ずる…っと構えた薙刀が落ちて「お義母様…!?」
落ちてくる薙刀の柄を握り、巴から薙刀を取り上げ、小枝「“よし たか…”」と空気が漏れるような声で、必死に訴えた。
巴「え…?」鹿に跨る威勢のいい、この子が「義高…?」
義隆「?」
与一「彼は、義仲様と山吹御前のご嫡男 源 木曾義隆(よしたか)様です」と代わりに答えた。
巴「よしたか」越しに、義高の面影を重ね、義経に「どう…いう事?」と聞いたら、
義経「今、俺が父親になってる」と答えた。
義隆「父上…」の、その言葉が嬉し…「あっ」と、斯波さんが鹿角君から下ろし、
斯波「伯母ちゃんとこに行ってやれ」と、背中を押してくれた。
義隆「おばちゃん…?」恐る恐る巴御前に近づき「おばちゃん…?」小枝御前の素顔を見た。
義経「どうやら、どっちもおばちゃんで…」
斯波「困ってるみてぇだな」

暑中お見舞い申し上げますッ

2011-07-26 | 日記
つるなし朝顔が今朝方、咲きました。
ポ、ポンと。


そして、ポポポポンと生まれるのは、第二期生のツバメの子どもたちです。
めでたいですね、う~んと、運と糞が増えます。
世の血迷える子羊よ、
運と気分の上昇降下は、こういう所で探してくれ。
私に、
「どうしたらいいですか?」と運気の上昇アドバイスを求められても、
「フッ」笑止「私も分からん」と言うしかない。

さて、話は変わって、
義経記を書いて…の話ですが、
「のの…」って、何のこっちゃ??
頭にクエスチョンマークを取り付け、
「のの、のの、のの、のの…」と、ののを呪文のように唱えておりました。
すると、
天の声が聞こえるではありませんか!?
「あぁ?のの様のことけ」とな。

「はぁ?」ののに“様”が付いた。
さらにクエスチョンマークを取り付け「ののって、おえらい方様なのか?」と聞くと、

「神様やんけ」

ゲッ!?
知らなんだ…。のの様って神様やったんや!?
「方言か?」と聞くと、

「違うッ!昔のそういうとったん!」
富山弁でもないらしい。
昔の言葉で神様、まん丸お日様とお月様の象りらしい。

物語を書いている時、私の知らぬ知恵を持つのおかんが頼りでな、
こういう“声”が必要になってくる。

私の中だけで、天の声と言っているが、ただのインスピレーションだ。
「おぉ、これでまたストーリ展開が出来た!」と喜んでいたら、

ぬぉっとばっちぃ手が横から伸びてきた。
「え?握手を求めてるのか?」と、私はキレイな手を差し出した。すると、
パッシンッ
手を払われ、
「金ッ払え!」と言うではないか!?
なんと、情報提供料を出せっと言っているのだ。
「んなぁ、アホな!大体を持って、このブログ自体、タダもんだ!皆無料の情報提供のもとに笑っとるんだぞ!」

「笑えるかッ、世は金じゃッ」

「あんた、おダッチか!」
※織田信長様は、戦は終わり泰平となれば、世は金で動くと永楽銭を旗印に戦いました。

すると、
「おダッチって、馴れ馴れしいッ」一喝されました。

すみません。つい…、
ここで、織田様ファンの方々にお詫びを申し上げます。
そして、
暑い日々が続きます。
お体、ご自愛下さい。

危ないじゃないッ!

2011-07-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
二人の女性に、それぞれ渡すと予測でき…ガッ、と頬を潰され、
斯波「何詮索してンだッ」と怒られた。
与一「す゛み゛ま゛せ゛ん゛」と素直に謝ったら放してもらえたが、ここで引き下がれず、
「どちらも…黒髪に、似合いますね」と言ったら、
斯波「それが、余計ッてンだッ」与一の頭を腕に挟み、拳で、ぐりぐりッと、
与一「テッ」小突かれた。聴取失敗…。
そこへ、「斯波さんッ」と呼ばれて、声の主を見たら、
斯波「土岐…仕事サボって」円仁さんとすみかを連れて「接待か?」と薙刀を持つ女を見た。
巴「男同士じゃれ合って、淋しいわね」
斯波「あん?なんだぁ、このおばはんッ」と土岐に尋ねて、与一の頭から腕を外したら、
巴「ッ!!」と薙刀を振りかざし「誰が、おばはんよ!」と与一に目掛けて突っ込んだ。
すみか「きゃッ」と目を覆い、円仁「待ちなさいッ」と制するのも聞かず、
与一に、薙刀を振り下ろした。
ガキッ、
斯波「ふぅ…」与一の前に立って、長槍を縦にして「間一髪…」で巴の薙刀を受け止めた。
巴「フンッ」と、再度、振りかぶって、
斯波「誰だ?このおばちゃんはぁッ!?」
すみか「巴さん、やめて!」
斯波「巴…?」
与一「斯波さんッ」の槍を握って「木曾の…巴御前です」狙いは俺だ、と分かった。
斯波「和田の、妾…?」巴型の薙刀を見て「源…木曽義仲の妾!?」
巴「アンタに用はない。そこの坊ちゃん、渡しなさい」
斯波「どういう事だ?」後ろにいる与一に聞いたら、
与一「これは、俺の、失態です」グッと力を入れて、斯波さんの槍を抑えた。
斯波「え…」
巴「あら、聞き分けがいいわね。じゃ、こっちに身柄を引き渡してもらおうかしら」
斯波「そうは行くか!槍、放せって」
そこへ、ドドド…ドドドドーー、と鹿と山羊が突っ込んで、
義経「与一ッ!」バァと鹿角君から降りて、割って入った。
巴「ちょっと!」数歩、後ろに下って「危ないじゃないッ!」と怒ったら、

源氏絵巻『末摘花』

2011-07-25 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
池田「過換気症候群(かかんきしょうこうぐん)…おそらく、極度の不安で過呼吸になった…」
“ズキッ”と、胸のアザが軋んだ。不安な彼女を追い込んだのは…俺だ。
継「不安…?」
池田「彼女を休ませる旅館を探します」
志津さん「客人はッ」と親指を突き立て、真っ暗な温泉旅館を指差し「逃がシャしないよッ」
池田「え…」
志津「うちに、泊まってきなッ」
池田「…」どうやら、狐につままれたのは俺のようで「では、お願い致します」頭を下げた。
志津「アンタたちッ!」富樫と継、二人を指差し「一晩、働いてきなッ!」
富樫・継「え゛!?」
志津「その育ちの悪さ、教育してやるよッ」チッと看板を見た。
富樫「育ち…」の良さそうな平家のボンボンを、目を細めて見て、
池田「平家の情操(道徳、価値観、秩序や精神性)教育は行き届いていますから」にっこり笑って返した。
…ズキッと、またお説教喰らった胸のアザが軋んだ「そうでもないか…」と誰にも聞こえないように呟いた。太ちゃんから荷物を降ろし、案内されるまま旅館に入ろうとしたら、
継「てめッ、弟の教育なってネェぞぉ!」池田に向かって怒鳴られた。
池田「義経さんに任せました」
富樫「判官贔屓※じゃねぇかッ!」と志津さんに向かって怒鳴って、
※後白河上皇に利用され、戦いを仕向けられた悲劇ヒーロー 義経に対する同情心から生まれた言葉で、立場の弱き者への声援を送る意味があります。
志津「シャッ、ラップッ(黙れッ)!」と振り返り「モタモタしないッ!まず、風呂掃除ッ!」
富樫・継「う゛…」
一方その頃、酒田港の片隅の、斯波のアトリエで…
斯波「んッ」と伸びをして、夕陽と潮風を浴び「明日で仕上げだな」やれやれと肩を叩いた。
与一「…えぇ」と生返事。明日には完成する漆の櫛は能子さんに、そして、斯波さんに頼まれて作っているかんざし二つは…「どなたに、渡すんです?」と聞いてみたが、
斯波「余計な詮索すンな」と注意され「ほら、帰っぞ」と、腕を掴まれ、連行された…。
与一「はい…」やはり、教えてはくれなかった。
かんざしの一つは桔梗の花をあしらい、もう一つは、源氏絵巻『末摘花』がモチーフで、

幼い頃から、

2011-07-24 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
そこへ、志津さんを負ぶった富樫が「おい、池ッ」と[無許可入山禁止]の看板を踏み潰し、
継「ちょっと、ツラ貸せッ」と、下山して来た。
志津さん「まったくお育ちの悪い野郎どもだねッ。看板、どうしてくれんだいッ!」
富樫「そんな事より…」ストッと、志津さんを下ろして「話がある」ズイッと、
継「弟の事だ」と、池田ににじり寄った。
池田「ふぅ…。デート中に、無粋な人たちですね」ドンッ「と!?」と背中にぶつかって、
能子「ぐ…ッ」胸を押さえ、ずるぅ…と、体が…落ちて、
池田「御方様?」地面に倒れる直前に受け止めたが、血の気の引いた顔で、
能子「く…、るし…」息が…肩を上下させ、必死に空気を吸い込むけど…入ってこない。
池田「…紙袋、ありますか?」
継「え?」チリン、鈴が鳴って、気付いた「これ…」と親父から渡された巾着袋を出して、
池田「貸して下さい」巾着を引ったくり「御方様…」の口と鼻に当て、
「佐藤さん、空気が漏れないように両手で押さえて下さい」
継「へ?」訳が分からないが、言われるままに…巾着を手で覆い、空気の漏れを塞いだ。
能子「ハッ、ハッ…はぁ…はぁ…」
そうしていると、少しずつ…呼吸が長くなってきた…
「スゥ…スゥ…」と柔らかい呼吸に戻った途端…「すぅー…」
池田「え…?」
チリーン…、彼女と巾着が、地に落ちた。
継「よ、能ちゃんッ!?」
池田「…」脈を測ったら、正常で「大丈夫…」だけど、
富樫「これ…」巾着を拾い上げ「どういう事だ?」と池田を問い詰めた。
池田「ペーパーバック法※です」※過呼吸の対処法です。紙袋などを使って、鼻口を覆い、呼吸します。自らの呼気で、血中の二酸化炭素濃度を調整し、症状を緩和させます。
富樫さんから巾着を受け取り、中を見たら「鎮痛剤…」が入ったままになっていた。
鎮痛剤の中に入れておいた誘眠剤で「眠っただけか…」と分かって安心した。
富樫「対処法、聞いてんじゃねぇッ。なんで、こうなった?」
池田「彼女…幼い頃から、不安症なんです」と、彼女を抱えて、立ち上がった。
継「おい!?」
志津さん「…ちょっと、どこ行くんだい?」