能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

装束付けの妙

2012-07-20 14:30:50 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介

能装束の組み合わせには大まかな決まりがある。
昨夜の国立能楽堂公演の『鵺』で例えると、後シテの着付は厚板唐織が決まりだ。

さていくつかの厚板唐織の中から何を選ぶかは基本演者の自由。
今回のように白頭を付けるならば、厚板は紅無し(いろなし=赤色が入らない)がいい。
シテの友枝昭世師は楽屋に紅無厚板唐織を二種類持参された。どちらも『鵺』にお似合いの装束で、開演間近になってもどちらを使うか迷われていた。このようなときは、まわりの意見も選択のヒントとなる。

さてその二つ、色合いが濃い目の黒色地と薄目の萌黄色地の厚板だが、白頭で面が「金泥小飛出」を使われるというので私は薄い厚板の方をお薦めした。

そしてお返事は「答えは舞台で!」と笑顔で答えられた。地謡を謡いながら中入り後が楽しみで待ち遠しかった。こんな気持ちでいるのも舞台の緊張感に繋がるかもしれない。
さて後シテの装束は私のお薦めした薄い色の厚板でとてもお似合で、正解だった。

ただ、装束付けが気になった。残念ながら私の趣味ではなかった・・・。
私は観世のお偉い先生方に装束付けについていろいろなお教えを受けた。それをご紹介しよう。

明生「喜多流では装束を付ける(着せる)人が装束を留める紐の位置を演者に聞くのですが・・・」

先生「演者の着心地なんて聞いてちゃだめ、無視。付ける者が一番よい位置を決めてそこで紐を結ぶよ

明生「演者が文句を言いませんか?」

先生「文句なんか言わないよ。もし言っても聞かないよ」

すごい教えで、私は驚き、以来、自分もそのようにしている。
そして先生は最後にこう続けた。

「どうせ舞台に出ちゃえば、そんなこと忘れちゃうんだよ」

私は紐の位置はバランスが7・3、または6半・3半の配分がいいと思う。
下の袴が3,上の着附が7だ。これにより着附の模様・柄が強調される。

この私の好み、私は私に付けてくれる人達に説いてまわっている。自分の好みをまわりに理解してもらう、これも舞台人の忘れてはいけないひとつだ。

写真 『白是界』シテ 粟谷明生 撮影 石田裕


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1 コメント

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後見とは (高砂)
2012-07-20 17:02:35
【以下、引用はじめ】

明生「喜多流では装束を付ける(着せる)人が装束を留める紐の位置を演者に聞くのですが・・・」

先生「演者の着心地なんて聞いてちゃだめ、無視。付ける者が一番よい位置を決めてそこで紐を結ぶよ」

【以上、引用おわり】

この先生の見識は、全く以って、真っ当です。そうでなければなりません。

「(着せる)人が装束を留める紐の位置を演者に聞く」なんて輩は、後見失格です。

(↑ オイオイ、ところで、アンタ、何様?(笑))

以上、わたくし、能楽に関しましては素人ですけれども、物の道理を鑑み。
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