能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

「やめろっ」と言われても

2012-07-19 10:53:43 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
「那智の滝」で有名な熊野那智大社は世界遺産に登録されている。
那智の滝はそのものがご神体であり、那智大社付近は神聖な地として立入禁止区域である。

それを承知の上で28歳~35歳のお馬鹿なロッククライマー3名が滝を登ろうとして県警に現行犯逮捕された。規則を破ったからには、それ相応の罰を受けるのが人間社会だ。


入ってはいけない、見てはいけない、と規制されればされるほど、逆にしたくなるのは人間の性分で、誰しもが持ち合わせている一面なのかもしれない。が、しかし神域に入ってはいけない、ダメなものはダメなのだ。ダメ、いけない!と知りながらそれでもやってしまったお馬鹿ロッククライマーを見て能『黒塚』を思い出した。

能『黒塚』で、山伏達が陸奥安達ヶ原に着いたのは夕刻、一人寂しく暮らす女の家に旅宿を求める。女は一度は断るが、修験者ならば・・・と男たちを泊める。女は心の中でなにを思っていたのだろうか。人恋しかったのか、それとも久しぶりに人の肉が食べられると、ほくそ笑んでいたのか・・・そこは観る者の想像の自由だ。


夜も深まり、寒くなって来たので、焚き火の木を山に取りに行ってくると女はいう。
山伏は夜半のことなので遠慮するが女は山に向かう、親切心なのか・・・。
と突然山から引き返して来て

「私の閨(寝室)を見てはだめよ」と釘を刺す。

「とんでもない、そんな破廉恥なことはしない」と山伏は返事をする、が・・・。

ところがここに約束を破る者がいる。やってはいけないことをやる、それが山伏の従者(アイ)だ。

「女と約束したのは山伏で、俺はそんな約束はしていない。女の閨を見るなと言われれば、そりゃ~~、余計に見たくなるものだ」とスケベ心で覗くと・・・。

女の部屋は腐臭を放ち食べ散らかした人の死骸が累々としていた。

人食いの鬼女だ。

見てはいけないものを見てしまった。幸い敢えて見たことが命拾いに繋がったが、見なければ女は鬼にならずに戻って来たかもしれないのだ。

従者は山伏に事の真相を知らせ「おそろしや、おそろしや・・・」と幕に逃げ込めばそれで済む。さて立入禁止区域の「那智の滝」を登ろうとしたクライマーはそうはいかないだろう。

まずこれから現世でどのような罰を受けるのだろうか。もしも軽いお咎めで済んでしまうならば、また同じような事をしでかす者が現れる。

たぶん次は、スカイツリーをスパイダーマンのように登る者が現れるに違いない。

断じてそうなってはならない。

私が閻魔様なら、このお馬鹿クライマーには二度と山に登れないような下知を出すのだが・・・。

こんな気持ちになるのは、ときどき閻魔様を演じるからだろうか。

巻頭写真 
『鵜飼』後シテ閻魔大王 粟谷明生 撮影 石田裕
『黒塚』前シテ里女   粟谷明生 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アラカン世代として連想するのは: (どうきゅうせい)
2012-07-19 12:52:38
それにしても、ご神体だから云々のところがよくわからないなぁ、神様って法律で守られているの?
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失礼! (どうきゅうせい)
2012-07-19 12:53:23
これを見ていただきたかったのですが:

http://www.hollywood-ch.com/news/09061205.html
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お返事 (粟谷明生)
2012-07-19 13:25:30
どうきゅうせい様
神様云々は置いといて・・・

「触らないで!」と嫌がる人に同意を求めずに触りまくるそんな風にあのクライマーたちが見えたね、私には

あの綱渡りの人ね、あの度胸はすごいね
でもどうでもいいよ、

一度落ちてみて奇跡の命拾い、なんて言うのもニュースになるかもね
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清水の舞台から (京都黒澤)
2012-07-19 22:38:39
いまだに清水寺の舞台から、飛び降りる人がいます。確率で言うと、 7人に1人は死んでるようです、止めても無駄よ多分。罸として那智の滝から飛び降りる方、やらしてみれば~?
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