能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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『道成寺』見どころ  その5 「再演について」

2014-02-24 08:35:06 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
ソチオリンピックは閉会しました。
いろいろな感動を与えてくれた雪や氷の上で活躍したアスリートの皆さん「感動を有難う!」と、お礼を言います。

アスリートたちは、「また次ぎなる目標に向かって」と語っていますが、伝統芸能に携わる私たちも、「次の機会にさらなる飛躍を」という志は同じだと思います。

能・狂言の世界では、大きな曲に挑み、演ずることによって、成長の証を示さなくてはいけないことがありますが、その中で『道成寺』はいろいろな意味での大きな節目となる大曲です。

初演の「披き」は、能楽師として一人前になれるかどうかの入学試験の意識であると考えられます。
では再演とは? と自問自答すると、それは卒業試験かな・・・?とも思っていましたが、いやいや、まだまだ成長途上ですから、昇進のためのレベルアップの試験です。うまくアップ出来るように気を引き締めてより良い演技で勤めたい、と思っています。

昔も今も能楽師は『道成寺』を披いて、はじめて一人前とみなされますが、
残念ながら披きはやはり「無事にお勤め、おめでとうございます」の域を超えることはなかなか出来ないようです。今、自分の初演の動画を見ると、そう思わざるを得ないでいます。

『道成寺』という戯曲の真髄を若さあふれる一回目で演じきること、これには少々無理があるようです。それは『道成寺』のテーマが大き過ぎるからだと思います。今、58歳での再演は初演の出来なかったことへの再チャレンジ精神でいます。そして緩みがちな私の精神と肉体に負荷をかける絶好の機会となりました。心技体の充実を心掛けて曲を深く読み込み、世阿弥の説く「初心忘るべからず」の教えを真摯に受けとめて精一杯勤め、力を出し切りたい、そう心底思っています。

稽古を重ねていくと、体力と集中力が無くなって来ていることを痛感します。
初演の頃の若い体力を取り戻して、あの時の集中力を回復し、と何度も思うのですが、正直なかなか思うようにいかず、反省の毎日です。
しかし60歳手前の体力限界を駆使し、謡の力を見直し、そして何よりも一度演じた経験を味方にして、今一番よい『道成寺』が演じたい、と生意気ながらソチのアスリートと同じ気持ちでいます。

技術的完成を期しての訓練をして、その成果を問われるのが初演、披きです。
再演は初演と同じでは情けない。もっと上を目指さなければ・・・。
では、その上とはなにか? なにを心掛けているのか、それは次にお話します。

写真 初演の番組
文責 粟谷明生


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