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後輩の飲み食いは先輩がご馳走する、所謂「おごる」のが私のまわりの習慣だ。
芸能界のジャニーズ事務所所属タレントや吉本興業などのお笑い芸人達も同じように先輩が支払係だという。
芸能界と能楽師を一緒にするのは如何なものかもしれないが、先輩からご馳走になった者はお世話になった先輩にではなく、ひもじいカネの無い後輩にその分のお返しをする。それを見て先輩が喜べばいい、そのような巡り合わせなのだ、と父が言っていた。
いつだったか父がお勘定を支払おうとしていると
「先生、ここは私が支払います」
と年下の先輩が言われた。すると父が
「君、僭越だよ!」
と、それが格好よく見えてそれ以来、父の真似をしている。上が下を気遣う、これが正常で良いはずだが。
ところが世の中には、ご馳走になりながらそのお返しをしない輩もいる。格好悪い奴らだ。もっとも、私はそういう連中とはあまり付き合いがないので、その実態の深いところは知らないのだが、どうも彼らは不思議と支払の時に姿を消す術を知っている。その忍法を知りたい気もするがこれは真似しないでおく。
大金持ちはおごるなどしない。
「そんなことしていたらいつまで経ってもカネなど貯まらん」
と宣うた人がいる。なるほど、とは思うが、ちっとも良いことを聞いた気がしない。
カネが無くても、後輩には支払いをさせない、というのが立派な大人のやりかたではないか。
なに見栄っ張りだと・・・、
そうかもしれないが、そのぐらいの見栄を切っても罰は当たらない。
どうしても支払えない時はある。そのときは誘わない。あきらめて一人酒でガマンすればいい。
そうは言っても、どうもひとり酒は苦手で、酒友が欲しいと探してしまうのだが・・・。
能『松虫』の二人のおとこは酒友だが、これはホモ関係。男と呑むのもいいが、やはり女性が入らないとつまらない。女性が入ると楽しくなるので、その場は自分でつくる。
月の半分以上は女性と呑んでいるが、これにはやはり事前の段取りが必要だ。そのために「うまい段取りの仕方」などという本まで買って読んでいる。
もちろん女性に勘定などさせない。
いや少しお支払いいただくこともたまには、ある、それもほんの少しだ。
だからカネが貯まらない。でも構わない。