いやはや、『AERA』1月16日号を読んで驚きました。
少子化と人口減少の影響についての特集です。いい加減な内容にもほどがあります。
P71に日下公人 氏の「人口減は日本のチャンス」と題した寄稿が載っていますが、
一読して仰天しました。(立派な経歴を持っている方なのに)
まず根拠薄弱な主張が複数あり、結論も間違っています。
思わず、東谷暁『エコノミストは信用できるか』の中の一節を思い出しました。
「エコノミストとして立つためには、
状況を読んで方向を決めたら声高に語気強く主張し、
前に何を言ったかに拘わらず時によっては平気で嘘を吐く
精神力の強さも持ち合わせなければ、ディベートに勝つことはできない」
【間違い その1】 「テレビも … 鮮明な日本の薄型テレビの技術が重宝される」
→ 日本の次世代ディスプレイ産業は「内強外弱」であり、利益率も高くない。
特に東アジアの猛烈な追い上げを受けている。
最大の市場である欧州では、松下電器のプラズマのシェアは2位。
フィリップスの後塵を拝しており、しかもサムスン+LGの韓国勢よりも下。
一方、シャープの液晶はシェア4位。フィリップス、サムスンに完敗。
成長市場である中国では、日本メーカーのシェアは更に低くなる。
(『週刊ダイヤモンド』10月1日号を参照)
『次世代ディスプレイ 勝者の戦略』でも日本の優位性の危うさが分かる。
【間違い その2】 「農作物も農薬を大量に使った外国産より、
高価でも安心できる日本産の価値が今まで以上に認められる」
→ 自給率が落ちている現実から考えて、どう考えても理解不能。
日本の湿潤な気候では、作物は病害虫の被害を受け易くなる。
特に、有機栽培作物の生産者は口を揃えてそう言っている。
寧ろ開発輸入の外国産の方が、自然条件に恵まれ無農薬で済む場合があると聞く。
【間違い その3】 「労働力不足も、日本は世界最高のロボット技術で解決済」
→ ではなぜ愛知に日系人のコミュニティができ、群馬にモスクがあるのでしょうか。
茨城県などでは、農業はアジアの「研修生」によって支えられています。
また、政府は看護・介護分野の労働力を海外から受け入れることを検討しています。
【間違い その4】 「質を求める社会では、豊かな消費が生まれます」
→ かつてアメリカの労働長官を務めたロバート=ライシュ氏は、
何かが取り立ててよくできる訳ではない大部分の人は賃金が下がる。
寛大な失業給付で生活しているヨーロッパの労働者も、
「無理に仕事をつくって市場価値以上の給与を払う企業の思いやり」
を受けて生計をたてている日本の労働者も、
世界中の投資家と消費者の圧力を受けて苦境に陥るであろう。
と著書の『勝者の代償』で予言しております。
さて、どちらが事実を直視し、どちらが偏向しているのでしょう。
(引退した評論家ではなく、現役世代に聞いた方がいいでしょう)
それぞれの知性のレベルも、かなり格差があるようですね。
【間違い その5】 社会保障制度に与える致命的な影響を無視している
→ これが最大の誤りです。この方が「社会保障 食い逃げ世代」だからでしょう。
繰り返しますが、こうした評論家が亡くなった後に日本が苦しむのです。
日本の社会保障制度は少子化に対応していません。それを放置したままで
「少子化は問題ない」と言って平然と年金を受け取る精神構造が理解不能です。
川本裕子『日本を変える-自立した民をめざして』では、
「年金制度を"社会的仕送り"という時代遅れの発想のまま維持しているが故に、
これから生まれてくる世代を含め、現役世代の負担を理不尽に引き上げています。
今の大人は未来への責任を果しているとは到底言えないのではないでしょうか。
……重要なのは大人たちが子供たちの将来の利益を真剣に考え抜くことです。
そうすることで、今なすべきことも見えてくるのではないでしょうか。」
と主張されています。
さて、皆さんはどちらが本気で日本の将来を考えていると思いますか?
◇ ◇ ◇ ◇
いとすぎは、人口が減少しても生産性が上がる可能性はあると思います。
しかし、「人口が減少しても平気」という論は、怠惰を助長します。
日本は戦前から問題を先送りする悪癖を持っており、現在まで改善されておりません。
その悪癖を甘やかす主張は、日本社会に損失を与えるものです。
なぜならそれは、社会保障制度の持続性・公平性への危機感を失わせ、
更に人口減少の速度への注意を確実に鈍らせるからです。
…… 長くなってしまいました。次の機会には、
「年金問題に潜む二重の深刻なモラルハザード」について書きます。
少子化と人口減少の影響についての特集です。いい加減な内容にもほどがあります。
P71に日下公人 氏の「人口減は日本のチャンス」と題した寄稿が載っていますが、
一読して仰天しました。(立派な経歴を持っている方なのに)
まず根拠薄弱な主張が複数あり、結論も間違っています。
思わず、東谷暁『エコノミストは信用できるか』の中の一節を思い出しました。
「エコノミストとして立つためには、
状況を読んで方向を決めたら声高に語気強く主張し、
前に何を言ったかに拘わらず時によっては平気で嘘を吐く
精神力の強さも持ち合わせなければ、ディベートに勝つことはできない」
【間違い その1】 「テレビも … 鮮明な日本の薄型テレビの技術が重宝される」
→ 日本の次世代ディスプレイ産業は「内強外弱」であり、利益率も高くない。
特に東アジアの猛烈な追い上げを受けている。
最大の市場である欧州では、松下電器のプラズマのシェアは2位。
フィリップスの後塵を拝しており、しかもサムスン+LGの韓国勢よりも下。
一方、シャープの液晶はシェア4位。フィリップス、サムスンに完敗。
成長市場である中国では、日本メーカーのシェアは更に低くなる。
(『週刊ダイヤモンド』10月1日号を参照)
『次世代ディスプレイ 勝者の戦略』でも日本の優位性の危うさが分かる。
【間違い その2】 「農作物も農薬を大量に使った外国産より、
高価でも安心できる日本産の価値が今まで以上に認められる」
→ 自給率が落ちている現実から考えて、どう考えても理解不能。
日本の湿潤な気候では、作物は病害虫の被害を受け易くなる。
特に、有機栽培作物の生産者は口を揃えてそう言っている。
寧ろ開発輸入の外国産の方が、自然条件に恵まれ無農薬で済む場合があると聞く。
【間違い その3】 「労働力不足も、日本は世界最高のロボット技術で解決済」
→ ではなぜ愛知に日系人のコミュニティができ、群馬にモスクがあるのでしょうか。
茨城県などでは、農業はアジアの「研修生」によって支えられています。
また、政府は看護・介護分野の労働力を海外から受け入れることを検討しています。
【間違い その4】 「質を求める社会では、豊かな消費が生まれます」
→ かつてアメリカの労働長官を務めたロバート=ライシュ氏は、
何かが取り立ててよくできる訳ではない大部分の人は賃金が下がる。
寛大な失業給付で生活しているヨーロッパの労働者も、
「無理に仕事をつくって市場価値以上の給与を払う企業の思いやり」
を受けて生計をたてている日本の労働者も、
世界中の投資家と消費者の圧力を受けて苦境に陥るであろう。
と著書の『勝者の代償』で予言しております。
さて、どちらが事実を直視し、どちらが偏向しているのでしょう。
(引退した評論家ではなく、現役世代に聞いた方がいいでしょう)
それぞれの知性のレベルも、かなり格差があるようですね。
【間違い その5】 社会保障制度に与える致命的な影響を無視している
→ これが最大の誤りです。この方が「社会保障 食い逃げ世代」だからでしょう。
繰り返しますが、こうした評論家が亡くなった後に日本が苦しむのです。
日本の社会保障制度は少子化に対応していません。それを放置したままで
「少子化は問題ない」と言って平然と年金を受け取る精神構造が理解不能です。
川本裕子『日本を変える-自立した民をめざして』では、
「年金制度を"社会的仕送り"という時代遅れの発想のまま維持しているが故に、
これから生まれてくる世代を含め、現役世代の負担を理不尽に引き上げています。
今の大人は未来への責任を果しているとは到底言えないのではないでしょうか。
……重要なのは大人たちが子供たちの将来の利益を真剣に考え抜くことです。
そうすることで、今なすべきことも見えてくるのではないでしょうか。」
と主張されています。
さて、皆さんはどちらが本気で日本の将来を考えていると思いますか?
◇ ◇ ◇ ◇
いとすぎは、人口が減少しても生産性が上がる可能性はあると思います。
しかし、「人口が減少しても平気」という論は、怠惰を助長します。
日本は戦前から問題を先送りする悪癖を持っており、現在まで改善されておりません。
その悪癖を甘やかす主張は、日本社会に損失を与えるものです。
なぜならそれは、社会保障制度の持続性・公平性への危機感を失わせ、
更に人口減少の速度への注意を確実に鈍らせるからです。
…… 長くなってしまいました。次の機会には、
「年金問題に潜む二重の深刻なモラルハザード」について書きます。