英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2023年度NHK杯将棋トーナメント 準決勝 羽生善治九段-藤井NHK杯保持者 その2

2024-03-20 09:40:11 | 将棋

 前記事は、この図から、《▲3六飛は疑問手で最善手を指せば、先手羽生九段がやや有利だったのでは》と述べたところまでだった。
 で、その最善手というのは、▲6三桂。(感想戦で、藤井八冠もこの手を示しており、自信がなかった模様)

 この手に対し、①△6三同金と取る手が当然考えられる。
 △6三同金以下▲4三成桂△同金▲3一飛成△4一歩▲3二銀△5二銀▲2三角(変化図2-1)が想定される。

 上記手順の▲4三成桂△同金では△3八とと飛車を取りたいが、▲5二銀△6二玉▲6三銀成△同玉▲4一角で先手勝勢。(▲6三桂はこの▲5二銀を打つためだった)
 当たりが掛かっていた飛車が手順に成り込め、後手玉に迫っていて調子が良い。
 ただし、図の局面は意外に難しい。図より△4二金▲4三歩で後手が困っているようだが、△6二玉と身を翻され、予定通り▲4二歩成と金を取ると△同銀が龍当たりになり、▲1一龍に△5七歩成という変化が考えられる。それに、▲4三歩に対して△4二ではなく△3三金と角取りに逃げておく手もありそうだ。
 ①△6三同金の変化は、先手が良いとは思うが、簡単ではない。

 ▲6三桂に△同金が思わしくないなら②△6一玉と躱す手のはどうだろうか?
 △6一玉には、▲3二成桂が調子が良い。後手は△3八とと飛車を取りたいが、▲7一金△5二玉▲4一角で詰んでしまう。かと言って、▲3二成桂に△同銀と取るのは▲同飛成で先手勝勢。そこで、もう一手△7二玉と先逃げする手がしぶとい。飛車当たりになっているので、▲3三飛成(変化図2ー2)と成り込むが、やや不満な成り込み位置。

 図より△4四銀と逃げる手や、逃げずに△8七歩と攻め合う手がある。先手が良さそうだが、相当難解な形勢。

 結論めいたことを言わせていただくと(自信なし)……
 ▲6三桂と打てば、①△6三同金も②△6一玉も難解ながらも先手がやや良し。

 先手が気持ちよく攻める手順なので、先手ペースで先手が勝ちやすそうだが、気持ちよく攻めている割には難解なので、《おかしいなあ》と焦りが生じるかもしれない。たいていの場合、後手が間違えそうな将棋だが、相手が藤井八冠なので踏みとどまる。そのうち、こちら(先手)が間違えてしまうことも大いにあり得る。


 実戦は、▲6三桂とせず、▲3六飛と角取りに逃げ、△5九角成▲同銀と進み、ほぼ互角に。実は、△5九角成では△3七角成が正着で、後手が優勢だったらしい。
 ▲5九同銀以後、△3五歩▲同飛△3四歩(第6図)と進み、

 ▲3四同成桂△同銀▲同飛△3三銀と進む。
 上記手順中、▲3四同成桂では▲4三成桂が、また、△3三銀では△4三銀が正着だったらしい。
 3三に歩でなく銀を打ったのは、▲2四飛と回られる手を防ぐためだが、△4三銀でも飛車回りは防げている。歩を使わなかったので、飛車回りには△2三歩と打つ歩が残っている。銀の位置は3三より4三の方が良いということなのだろう(よく分からないが、3二の金が浮いているかいないかの違い)。
 ともかく、△3三銀に▲3六飛と引いた局面はほぼ互角。
 ただし、ここで最善手を指すのが藤井八冠。やはり、最善手の△8七歩(第7図)を着手。

 歩を打たれて…
《そうか、藤井八冠に攻めのターンが回ってしまったのか……気がつけば、後手陣には敵影(先手の駒や足掛かり)が消えてしまっている
 評価値は互角でも…………》

 そこで、後手陣に手を付けておこうと▲2一角……
 次に▲3二角成と金を取られると、一気に後手玉は危険になる。△4二金と躱すなら、▲8七角成と打った歩を払いつつ、馬を自陣に引き付けることができるのだが……藤井八冠は△8六飛。この手が厳し過ぎた。
 ▲8九歩と受けたが△7六桂の追撃され、▲9七銀と飛車当たりに受けても、かまわず△5七歩成とされ、▲8六銀に△5八と左で先手玉に必至が掛かってしまった。羽生九段、敗勢に

 ▲2一角では、▲7六銀が粘り強い手で、まだまだ熱戦が続いていただろう。また、“寄せてみろ”と強く▲8七同金とする手もあった。以下△5七歩成に▲7六角なら、藤井八冠ももう一汗かかねばならなかっただろう。

 
 羽生九段は▲8一飛と王手。合駒に金を使ってくれれば、先手玉の詰めろ(必至)が解けるが、藤井八冠は当然、△6一金と金を引いて受ける。その後も正確に受け続けた。
 △5二玉で、羽生九段、投了。 



 面白い将棋だったが、やはり、負けたのは残念。本音を言えば、面白い将棋でなくても、勝ってほしい。
 ▲2一角が残念だったが、敗因は別のところにあったと思う。
 ここ数年の傾向として、中盤までは“斬り合い辞せず”と、強く踏み込んでいくが、終盤に差し掛かると、妥協してしまうことが多い(本譜で言えば、▲6三桂を逃した“▲3六飛”、第6図の△3四歩に対する“▲同成桂”
 勝ちを求める貪欲さが薄くなってきているように思う。
 それともう一点。
 中盤戦までで将棋力が消耗・摩耗してしまう。“局面でのアンテナの感度”、「“大局観”(ここはこう指せないとおかしい)と、それを実現させる“読みの精度・深さ・意欲”……終盤戦になるころには、そういったものが摩耗してしまう。
そんな気がする。

 とは言え、NHK杯の決勝戦での解説は、非常に手が良く見え、読みも正確だった。
 そう、羽生九段はまだまだ強いのである

(「その3(追記)」に続く)

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