英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第76期名人戦(2018年)第1局 その5

2018-06-12 21:01:40 | 将棋
サボっているつもりはなく、割りと真面目に記事をアップしているのですが、また、前回から間が空いてしまいました。
(羽生竜王に関して、芳しくない記事を書かねばならないのが、辛いところです)

「その1」「その2」「その3」「その4」 の続きです。


 先手陣の6筋の歩を取ると▲6四歩と絡まれる手が生じることを承知で、佐藤天名人が△6七角成▲6四歩△2七歩▲同銀△6五桂と踏み込んだ第7図。
 先手は△5七桂成▲3八玉△4九馬以下の詰めろが掛かっており、それを受けるには、①▲5八銀と②▲3八玉の2手段が考えられる。
 ①の▲5八銀は手堅い受けだが、金や銀を使って受けるのは小駒で攻められた場合は損なことが多い。交換になった場合に駒損になるし、清算(交換)されなくても、受けに駒を使った分だけ、攻め駒不足になる。
 なので、先手としては②の▲3八玉を選択したい。持駒を消費しなくて済むし、敵の攻め駒から遠ざかる利が大きい。例えば、5七の地点を突破するのに3枚の小駒を集中させた場合、受け側が5七に拘らず玉を逃がすと、5七の地点を突破したとしても、突破した駒以外の2枚の攻め駒が置いてけぼりになってしまう。(ただし、攻め駒が大駒の場合は機動力があるので、この限りではない)

 羽生竜王は▲3八玉!

 大丈夫なのか?………本局の場合、上記の但し書きの“攻め駒が大駒の場合”に該当する。
 ▲3八玉には△4九馬▲同玉△6七馬の攻め筋がある。△4九馬と切ることによって、先手玉を4九に引き戻し、せっかくの▲3八玉の1手を無効にできるのだ。

 実際、中継サイトの解説欄には
『驚きの声が挙がる。控室は▲5八銀が手堅いと見ていた。△4九馬▲同玉△6七馬▲5八合(▲3八玉は△4八金▲同玉△5七桂成で詰み)△5七桂成で先手が受けにくくなる。△5七桂成に後手玉に詰みがないとまずいが、まだ控室では見つかっていない。「いきなり終わるんじゃないか」という意見も出た』

 不安を抱えて見ていると、解説欄に
『検討の結果、どうやら途中の△6七馬に合駒するのが銀と桂どちらであっても、△5七桂成に後手玉に詰みはないようだ。しかし、△6七馬に▲5八桂△5七桂成▲6三歩成△同玉▲7五桂△6二玉▲6三歩△5一玉▲2四角△3三歩▲6二銀△4二玉▲5三銀成△同玉▲5七角△同馬▲5五飛△5四銀▲5七飛と、後手玉を追い回し、角と飛車を使って成桂と馬を抜く筋があるという。▲5七飛まで進めば「第2ラウンドです」と広瀬八段。』
 が加えられた。

 △4九馬▲同玉△6七馬とされると全く見込みがないという訳ではなさそうだ。しかし、後手に分があるような展開になりそうだ。やはり、手堅く▲5八銀とすべきだったのでは…
 局後の感想(中継サイト)では
『▲3八玉に代えて▲5八銀は△4五馬▲6三歩成△同玉▲6四歩△5二玉で、「何かありそうだけど、具体的な手が……」と羽生。』
とあるが、『将棋世界』の観戦記(小暮克洋氏)によると、後日の取材に対して
『「▲5八銀には△2八金▲5五桂△6四歩のときに、ヘタな手を指すと△5七桂成から詰まされてしまうのでダメだと対局中は思いました。あとから考えると、△2八金には▲6三歩成△同玉▲7五桂から王手を続ければ先手がよさそうですね」』とある。

 ちょっとした錯覚で▲5八銀を選択肢から外したのだが、『それにしてもこんな危なそうな玉寄りをわずか26分の小考で指せるとは……』と小暮氏が感嘆していたが、まったく同感。
 思うに、羽生竜王は▲5八銀のような手はあまり好きではないのかもしれない。

 対して佐藤名人は▲5八銀を予想していた。
『佐藤も(控室と同様)▲5八銀を予想していた。「▲5八銀以下、△4五馬▲6三歩成△同玉▲6四歩△5二玉▲3六銀に△5四馬と引いてうまく立ち回れれば、と。……(中略)……形勢は厳密には悪くても、先手の具体的な指し手も難しいと思いました」』(観戦記)


 佐藤名人は延々と考え続けている。何しろ▲3八玉は26分の小考だったのだ。
 ≪危険な玉寄りで変化も多いはずなのに、26分で指せるものなのか?……よほど自信があるのか?それとも、自分が見落としている変化があるのか……≫(勝手に想像)

『 15時、おやつが出された。佐藤はショートケーキ、アップルジュース。羽生はフルーツ盛り合わせ、ホットコーヒー、佐藤は席を外した。羽生はおやつにすぐ手をつける。戻ってきた佐藤、頭を座布団につけるほど前傾姿勢。15時11分、佐藤が起き上がり、ショートケーキを食べ始めた。羽生は席を外している。時折、佐藤はケーキを食べる手を止めて、小さくうなずく。15時16分、羽生がゆっくり座る。「いやぁ」と佐藤。15時19分、佐藤が考慮時間と残り時間を尋ねた。佐藤は現局面に41分考えており、残り時間は2時間15分。
 15時34分、佐藤の考慮時間は56分を超え、残り2時間を切った。名人が苦しんでいるのが伝わってくる。15時39分、佐藤はリップクリームを塗ってから、グラスにストローを挿し、アップルジュースをひと口飲んだ。「△4九馬以外の手は思い浮かびません」と阿久津八段。
15時56分、佐藤がまた時間を尋ねた。現局面の考慮時間が1時間17分、残り時間が1時間39分であることを告げられると、「そっかー」とつぶやく。羽生はいない。16時0分、佐藤はアップルジュースを飲みきった。数分して、羽生が対局室に戻る。今度は佐藤が席を外した。』
(中継サイト解説より)
 ちなみに羽生竜王の▲3八玉は14時38分の着手。

 阿久津八段が言うように、△4九馬以外の手はないように思える。
 渡辺棋王だったら、≪ここは“△4九馬の一手”。ざっと考え悪くはなさそうだが、変化が多すぎて読み切れない。ここで脳力と時間を消費するのは無駄。他に手はなさそうだし、そもそも、△4九馬▲同玉△6七馬の時、桂合いか銀合いかも難しい。ここはサッサと指して、相手に答えを出してもらおう≫と30分ぐらいで着手するのではないだろうか。


 さらに解説が付け加えられた。
『△6五桂の顔を立てるためには△4九馬の変化に飛び込みたい。だが、変化は膨大のようだ。例えば、△4九馬▲同玉△6七馬▲5八桂△5七桂成▲6三歩成△同玉▲7五桂に、△5二玉は▲6三角△4二玉▲5二飛△3三玉▲3二飛成(▲2四銀は△2二玉で詰まない)△同玉▲4一銀△3三玉▲2四金△4四玉▲4六竜から詰み。阿久津八段はこの詰み筋になかなか気がつかなかったという。また、途中の△5二玉に代えて△6二玉▲6三歩△5一玉▲2四角に△3三歩と△3三銀打、また仮に△3三歩として以下▲6二銀△4二玉に、例の成桂と馬を抜く筋を決行するにしても、▲5七角と▲5三銀成どちらを先に入れるか、比較が難しいという。』

 とにかく変化が膨大。佐藤名人がなかなか指さないのは読み切れないからなのだろう。勝負の行方はまだまだ分からないと考えよう。
 

 16時15分、△4九馬!
 1時間37分の考慮だった。

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