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英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

NHK杯準決勝 郷田棋王-羽生三冠 「天才ですね」

2013-03-11 17:18:27 | 将棋
「天才ですね、さすがぁ…。……いや、天才です。やぁ…羽生さんは……昔から天才だとは知ってたんですけどねえ…や、なるほど…天才だ(天才)の詰みですこれは」

 解説の先崎八段の言葉である。
 先崎八段は言葉が立ち、その上、将棋の造りを分かりやすく語ってくれるので、解説者として一流である。さらに、羽生三冠を始めとする森内名人、佐藤九段、郷田棋王らの羽生世代の俊英たちのこと語らせたら右に出る者はいない。当の先崎八段も羽生世代で、「天才」と称されていた。しかし、特に、羽生善治が登場してからは、「元天才」という非常に有難くない呼称をつけられてしまった。
 先崎八段も羽生三冠の才や恐ろしさを感じていたが、表にはストレートに出さず、「俺が一番、羽生善治を理解している」という自負を表しており、将棋関係者もそれを認め、羽生三冠の重要な将棋には、先崎八段に解説を委ねることが多かった。
 しかし、「俺も羽生善治には負けない才がある」と対等な先崎八段のプライドが、解説のマイナスになることが多々あった。羽生三冠の深い読みや高次元の大局観に、先崎八段がついていけないのである。

 昨日の先崎八段は違った。
 棋理に照らし合わせながら、読みを重ね、対局者の指し手を尊重した謙虚な解説であった。
 郷田棋王の剛直な仕掛けに対し、それを斜めに受け流し側面から郷田棋王を揺さぶる羽生三冠。まさにねじり合い。そんな「山あり谷ありの将棋」(先崎八段の言葉)であったが、この日慎重な先崎八段が「先手(郷田棋王)が優勢」と言及した局面で、郷田棋王が決めに行った。
 これが危険だったようで、後手玉は受けなしであるが、先手玉も危ない。第一感は詰みだが、詰ましにいく手段がいくつもあり、どれも詰みそうで、詰まないかもしれない。秒読みの中で読み切るのは困難。
 そして、詰ましに行った。角打ちから入るか、銀打ちから入るかの違いはあったが、先崎八段の詰みの本命に挙げた手順で進み迎えたのがクライマック図。



 詰みがありそうだが、詰み手順が見えない。先崎八段も言葉が泳ぐ。
 羽生三冠も、視力検査のランドルト環(アルファベットのCのような隙間のある輪)を覗きこむように顔をしかめて盤面を凝視している。≪顔をしかめると詰みが見えるのであろうか?≫などと変な突っ込みを入れていたら、秒に追われながら、銀を掴み、8六へ、先手の歩の頭に放りだすようにその銀を置いた!(銀がやや斜めになった)……??!!?!天才図



 15秒後、この手の意味を理解して発したのが冒頭の言葉。
 指し手を解説するより、先崎八段の言葉を紹介するほうが良い。
△8六銀の後
「ほおおおぉぉ銀からですかぁ………銀から……そう…で…す…はっぁなるほど!最後7二に桂が打てると言ってるんだ、や、これはす、凄いことが起きましたね。これは気がつかなかった。天才ですね、流石ぁ…。……いや、天才です。やぁ…羽生さんは……や昔から天才だとは知ってたんですけどねえ……や、なるほど…天才だ、の詰みですこれは」
「やこれ、△8五桂▲8六玉△7四桂と打てるところだから、桂の方が良いって理屈が普通ありえないんですよね。桂を…あの…銀と桂をどちらに駒台に残すかで。
 これはね、数少ない例外ですね。▲7五玉△6六馬▲6四玉に7二に桂を打って詰みなんだ(天才図2)。…いや天才ですね。や、もう…ええ、や…す……や、これはねえ、素晴らしいですね、この詰みを発見したのは。信じられません。よく発見しましたね」



「やあ、素晴らしい。や、これはねえ、あとで……あとで聞けば「こういう手で詰みがありました」というのが普通なんですよ。……桂を残した方がいいというのは、ちょっとこう…考え…られないですね。…素晴らしいとしか言いようがないですね」
「いやぁこんな天才と、ふふ、(天才が)いるんですねぇ」
「今、△6六馬と引いて、次▲6四玉の一手で、さっき言った7二に桂を打つ手が残って、▲5四玉に△4四金で詰みなんですよね。金と銀だと詰まないかもしれませんね、▲6四玉の時は」
「桂を残した方が良いということが、相当浮かびにくいんですよね。…いやあぁ素晴らしいです。ええ、驚きました。やあ、凄い。これはね、もの凄い(く)難度が高い詰みですね」
天才ですね。やあ本当に凄いもんです」
「やああぁぁ凄いなあ」
「郷田さんも詰まされても仕様がないと思ったんでしょうけど、この詰みは見えてなかったはずですね」
「いやあ、凄い詰み。素晴らしいとしか言いようがないですね。秒読みでこれを詰ますのは」
郷田棋王投了。
「途中はね、いろいろと山あり谷ありだったんですけど、この最後の素晴らしい詰みが圧巻でした。これはね素晴らしい詰みでした」

 「天才」という言葉に鬱積したものを抱えている先崎八段が、「天才」を連発。表現力豊かな先崎八段が「素晴らしい」「凄い」としか表現できない……先崎八段の感動の大きさを物語っている。

【追記1】
 昨日の記事で一番アクセス数が多かったのは、「羽生将棋 早指し将棋における強さ① ~NHK杯戦から思う~」(2012年2月14日記事)でした。
 記事の内容は、昨年のNHK杯の準々決勝羽生-郷田戦で、昨日の郷田-羽生戦の詰みが強烈だったので、「羽生 郷田」で検索した方が多く、その際、私の昨年の記事がヒットしてしまったのでしょう。325名の方に無駄足を踏ませて申し訳なく思い、急いで本記事を書いた次第です。

【追記2】
 天才図の「△8六銀では、△8八銀の方が簡明」と感想戦で述べられましたが、▲8八同玉とせず、▲8六玉と逃げると結局本譜と同じ詰み筋になる。なので、▲8八同玉とされた時の△7九馬▲7七玉に△7八馬と追いかける筋が見えにくく、実戦の△8六銀の方が簡明であると思える。それに、▲8六銀の方が鮮烈だよね。

【追記3】
クライマック図の一手前、6九に銀ではなく角を打ったのは、ある程度、詰めあがりの目途がついていたように思う。


【追記4】
△4四金(投了図)に「▲4四同龍(質問図)とする手はどうなのか?」というご質問がありました。


 ▲4四同龍には△同馬(詰み途中図1)



 逃げ場所は6五の一カ所で▲6五玉(詰み途中図2)



 そこで△5五飛(詰め上がり図)で詰みです。



 後手の2枚の桂馬がよく利いていますね。
 詰め上がり図の△5五飛では△6六飛▲7五玉△5三馬▲8五玉△8四歩でも詰んでいます。

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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観てました。 (勝手新四朗)
2013-03-11 23:04:26
確かに凄かったですね。
ただ、郷田棋王の桂馬の成捨てが見た目、凄く危ない感じでした。
アマなら▲57角成を許す順が怖過ぎて踏み込めない図でしたが、それで最後にドラマッチクな詰みが発生したのでさすがはプロとうなるしかないです。
これで、2年連続の決勝同一カードとなりました。
さて、どうなりますか。
返信する
見落としのような ()
2013-03-12 00:02:32
勝手さん、こんばんは。

>、郷田棋王の桂馬の成捨てが見た目、凄く危ない感じでした。
>アマなら▲57角成を許す順が怖過ぎて踏み込めない図でしたが

 ▲6一金に手抜きで△5七角成が利く(次に▲6二金としても後手玉が詰めろにならない)のをうっかりしたんだと思います。▲5三馬~▲5二飛~▲5三飛成は予定変更だと思います。
 これが最善の頑張りで、奇跡的な局面を作ったのだと思います。
返信する
Unknown ()
2013-03-14 06:17:36
最後44竜はだめなんですか?
返信する
Unknown ()
2013-03-14 06:35:58
素人なんですがyoutubeで
詰んだ場面見て44竜はだめなの?
と思いました
返信する
▲4四同龍には ()
2013-03-14 10:45:23
あさん、記事を読んでいただき、ありがとうございます。

 ご質問の「投了図から▲4四龍としたらどうなのか」ですが、以下△4四同馬▲6五玉△5五飛で詰みます。
 詳しくは、本記事の最後に追記してありますので、そちらをご覧ください。
返信する
Unknown ()
2013-03-14 23:13:20
ありがとうございます
返信する
Unknown ()
2013-03-14 23:15:46
浅学ですいません
迷惑かけて
返信する
迷惑ではありません ()
2013-03-15 17:51:46
あさん、こんにちは。

 迷惑だなんて思っていません。
 質問して下さるのはうれしいですし、その答がお役に立てたなら、さらにうれしいです。
返信する
Unknown (カニ)
2013-04-01 20:16:42
 △7二桂打は遠回りな手ではないでしょうか?

 天才図2の△7二桂打に代えて、△6五金打▲5四玉△5五馬までの詰みです。

 私のほうが先崎先生より天才?(笑)

 英さんの記事で羽生三冠の記事があるかな?と思って探していたらヒットして読んでみました。

 こういうスピードを速める金打ちを私は鋼鉄の攻め(又はヒッタイトの攻め)と読んでいます。森内俊之名人が得意とするところです。

 間違いも少なくなります。名人戦など長時間の精神的スタミナを要する棋戦では思考をシンプル化できることも重要なことかと思います。

 しかし、羽生三冠の△8六銀打はかっこいいですね。さすがに銀が好きな駒と仰るのはだてではないという感じがします。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-04-01 20:34:15
 英さん以外のかたのために補足ですが、天才図2を観ると、△7二桂打までとなっていますが、この時点では詰んでいません。

 △5四玉に▲4四金打とします。これが追記4の投了図ですが、投了図ということは羽生三冠もこの手順を選んだということでしょうか?

 その後の手順は英さんが追記4で図面を用いて説明してくださっていますが、私の書いた上の手順よりかなり長くなります。

 しかし、投了図ということは、羽生三冠もこの△7二桂打を指したということでしょうか?私、録画はしてあるんですが、まだこの対局は観ていないんです。

 「天才図2の△7二桂打に代えて、△6五金打▲5四玉△5五馬までの詰み」という私の説に何か見落としがありますでしょうか?
返信する

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