ある志を抱いて大学に入学した学生たち。どれくらいの割合の学生が、その志を抜くことができるのだろうか? もし、初志貫徹ができたとするならば、その人はとても幸福感に満ちているに違いありません。
私などは、志がコロコロ変わってしまう人生を歩んで来たように思う。初志貫徹できないのは、意志が弱いのかもしれないし、見通しが甘かったのかもしれない。
『ある生物』の研究がしたいと大学に入学してきたAさん。そう、Aさんに初めて出会ったのはもう12年前。私にとっては、大学の教壇に初めて立って、学部1年生向けの専門講義の初回のとき。双方向授業にしたいと、張り切って臨んだのだが、一番後ろに座っていたAさんに質問すると、Aさんは沈黙のまま。繰り返し質問しても、チ・ン・モ・ク。やはり、ひどい授業だったのだろうかと、授業を終えた後、研究室へ戻る足取りは海の底へ沈み込むように重かった。
そのAさんが、卒業研究で私の研究室を選びたいとのこと。1年生の時の授業での記憶がよみがえり、正直なところ、「????」であった。ご本人から『ある生物』の生態研究への強い意欲が感じられたので、私にとっては門外漢の分野へ一緒に挑戦することとした。既存のデータが全くと言っていいほどなかったので、データベースを一から作成した。8年間の不断の努力を重ね、ようやく、当該分野の第一人者にまで成長したAさん。
本日、Aさんが、いろいろな意味で、新たなフェーズを歩むことになり、札幌の地を去る。後輩のBさんから感謝の意を込めて、花束贈呈。
私もAさんを見習って、低温研赴任時の初志を貫徹すべく、新たなフェーズへピョーン。
そう言えば、『チェンジング・ブルー』の第9章(219頁)の冒頭に、アインシュタインの言葉が紹介されています。
私は天才ではない。
ただ、人より長く一つのことと付き合っていただけです。
アルバート・アインシュタイン