「マラーホフの贈り物 ファイナル」Bプロ(5月25日)-3


  『椿姫』より第二幕のパ・ド・ドゥ(振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:フレデリック・ショパン)

   ルシア・ラカッラ、マーロン・ディノ

  今度はいわゆる「白のパ・ド・ドゥ」です。Aプロと合わせて、これで紫、白、黒の三つのパ・ド・ドゥがすべて踊られました。

  Aプロでの「黒のパ・ド・ドゥ」を観たときにも思いましたが、ラカッラはこういう踊りでは、長所である柔軟な関節を持つ長い脚のシャープな動きが、逆に悪目立ちしてしまうように思います。脚だけをやたら高く振り上げてるように見えてしまうのです。本当はそうじゃないのかもしれないけど、脚ばかりが目立って全身の動きがよく分かりません。

  この「白のパ・ド・ドゥ」を観ると、どーしても数年前のバンジャマン・ペッシュとエレオノーラ・アバニャート(パリ・オペラ座バレエ団)が踊ったやつを思い出しますな。今思い出しても噴きそうになるわ。

  あれに比べれば、ラカッラとディノの踊りははるかにすばらしかったです(当たり前)。偶然かもしれないけど、マリア・アイシュヴァルトとマライン・ラドメイカーが前に「紫のパ・ド・ドゥ」を踊ってたのも、ナイスな演目チョイスでした。「紫のパ・ド・ドゥ」と「白のパ・ド・ドゥ」は、マルグリットとアルマンの立場の変化を振付で表現してると思うので。


 『白鳥の湖』より「黒鳥のパ・ド・ドゥ」(振付:マリウス・プティパ/ユーリー・グリゴローヴィチ、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)

   オリガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン

  これもAプロとかぶります。初日(21日)は二人とも力みすぎでミスしてばかりでしたが、今日ははるかに良くなりました。明日はもっと良くなるでしょう。初日のぎこちなさは、やはり慣れの問題に過ぎなかったようです。

  しかし、音楽に合わせて決めなくてはならないところでは、「(音楽と)合いますよーに!がんばれ~!」と心の中で二人にエールを送っていました。なんで観客の私がプロのダンサーたちにエールを送らなくてはならないのか。でも今日はほぼちゃんと合ってました。ほっ。

  チュージンはパートナリングがまだ頼りないです。まあ、これも経験を積んでいけば解決される問題でしょう。ソロで踊るぶんには問題ないどころか、コーダでジャンプして舞台一周するところなんて、両脚の開き具合がハンパないです。180度以上開いて跳んでるんじゃないの。

  スミルノワも振付に追いつくのがやっとな感じがしました。特にオディールのヴァリエーション。これも慣れの問題でしょうが、また思ったのは、音楽のテンポが非常に速いことです。それもあって追いつけないようでした。

  ボリショイ・バレエは演奏のテンポが速い印象があります。『ドン・キホーテ』なんて、指揮者、ダンサー見て振ってねえだろ、と思えるほどの超速です。それでもダンサーたちが追いついて踊っちゃうところがすごいんですが。

  「黒鳥のパ・ド・ドゥ」コーダでのグラン・フェッテ部分は特に速いです。スミルノワが初日に失敗したのは、このテンポの異様な速さのせいもあるな、と思いました。今日は成功しました。でも、回転し終えたときには脚がガクガクしているのを、かろうじて踏ん張ってポーズを決めました。それでこそプロ。

  チュージンは先が楽しみなダンサーです。身長と体型はさすがにこれ以上は変わらないと思いますが、王子らしいたたずまいがあるので、広い役柄が持てそうです。


 「ヴォヤージュ」(振付:レナート・ツァネラ、音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト)

   ウラジーミル・マラーホフ

  マラーホフは裸の上半身に白い長めの上着、白いズボンという衣装。

  相変わらずソロになると圧倒的な、強烈な存在感を発揮します。飛んだり跳ねたりのほとんどない静かな振付です。両手をせわしく動かす同じ動きが何度もくり返されましたが、あれは何のライトモチーフなんでしょうか。

  マラーホフのポーズの美しさに、やはり見入ってしまいました。片脚で立ったままポーズを変化させていくところは、スローモーションのようにゆっくりなのに、バランスを崩すことなく、手足が緩やかに動いていきます。その一瞬一瞬がそれぞれとても美しかったです。

  途中で動きが激しくなるところがあり、そこでマラーホフは両足を揃えて垂直に飛び上がり、空中で鋭く何回転もして着地しました。完璧でした。ジャンプらしいジャンプは、Aプロ、Bプロ合わせてこれだけだったと思います。

  この作品を踊り終えた直後のマラーホフは、疲れ切ったような、憔悴したかのような表情をしていました。しかし、何度目かのカーテン・コールで、笑顔が戻ってきました。そして、観客に対して深々と頭を下げたまましばらく動かず、ようやく顔を上げると、手を胸に当て、観客に向かってゆっくりと投げキッスをしました。

  演目に目新しさがなく、ほとんどがよく知られている作品ばかりのガラ公演でしたが、私はとても楽しめました。マラーホフの全盛期の踊りを私は見ていないし、特にファンというわけでもないので、寂しさのような感情もありません。

  でも、今まで日本のファンを楽しませてくれてありがとう、と思います。日本との関係を自然消滅にするのではなく、何を言われることになっても、日本のファンに別れを告げる場を設けて、きちんとけじめをつけたことは潔いし、日本のファンのことを思ってくれている証だと感じました。


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「マラーホフの贈り物 ファイナル」Bプロ(5月25日)-2


 「バレエ・インペリアル」(振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)

   ヤーナ・サレンコ、ウラジーミル・マラーホフ

   東京バレエ団

  サレンコはこの作品を踊ったことがあるのかな?最初はずいぶん緊張していたのか、あるいは急に代役に立ったための練習不足のせいか、動きが硬かったです。最初のソロではミスが目立ちました。

  この作品、私はポリーナ・セミオノワとマラーホフが主演で踊ったのを以前に観たことがあって、そのときはとても感動しました。セミオノワのお姫様は神秘的な存在感があったし、そのお姫様を恋い慕う青年に扮したマラーホフの、報われない恋に愁える雰囲気もすばらしかったからです。

  でも、今日はちょっと退屈だったかなー。サレンコは途中から順調に踊っていましたが、やはりまだ少しぎこちなくて、また何よりも「高嶺の花」的な高貴さと存在感が足りないように感じました。群舞の中に入ると姿が埋まってしまいます。

  一方、マラーホフは、どこか無機質で人間味の薄いこの作品に、今回も生き生きとした感情を与えていました。ああ、追い求めても追い求めても手の届かぬ美しい姫、他の女性と踊っても心は晴れぬ切なさよ……という感じ(笑)。

  マラーホフは体重がだいぶ増えたようなので、ソロを踊るときはハラハラしました。あの体重で大きな跳躍などをしちゃったら、非常に危険だからです。幸いなことに、「左脚のふくらはぎの違和感」は大事には至っていないようですが、ここで無理したら大変です。そのことは本人が最も分かっているようで、すべて軽めのジャンプで済ませていました。それが賢明だと思います。


 『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ(振付:ジョン・クランコ、音楽:セルゲイ・プロコフィエフ)

   マリア・アイシュヴァルト、マライン・ラドメイカー

  クランコ版、前に観たの何年前だっけ?アイシュヴァルトが着ていた白いドレスの赤いサッシュでなんとなく思い出したよ。でも、ケネス・マクミラン版ほど音楽的じゃないし、見ごたえのある振付でもないなあ、と思ったんでした。今日観てもその印象は変わらず。

  どうせクランコなら、鉄板演目の『オネーギン』から「鏡のパ・ド・ドゥ」か「別れのパ・ド・ドゥ」をお願いしたかったです。でも、ラドメイカーはまだオネーギンが持ち役じゃないのかな?レンスキーは踊ってたよね?

  そのラドメイカー、ロミオのソロ部分では少し不安定でした。珍しい。でもパートナリングは盤石の見事さ。クランコ版のトリッキーで複雑な(←矢継ぎ早の複数の動きで構成されている)リフトをよくこなしていました。

  アイシュヴァルトは、よくここまでキャラクターが変わるな、と感服しました。『椿姫』での大人の女性で高級娼婦であるマルグリットから、まだ無邪気な少女であるジュリエットに雰囲気が完全に変わっていました。


 「タランテラ」(振付:ジョージ・バランシン、音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク)

   ヤーナ・サレンコ、ディヌ・タマズラカル

  「バレエ・インペリアル」を踊ったばかりのサレンコを酷使しすぎではないか、と心配しました。でもちゃんと踊っていました。若いなあ。

  いやー、バランシンはどの作品も本当に難しいね(ため息)。二人ともテクニック面では超絶というほどではなくても、すっごく優秀なのには違いないのに。あのハイテンポで細かくて複雑な難しい振付を音楽に合わせるのが大変そうでした。

  でも、去年観たロベルタ・マルケスとスティーヴン・マックレー(英国ロイヤル・バレエ団)よりは全然良かったです。特に、タマズラカルの陽気で明るい雰囲気が、作品の盛り上がりをだいぶ助けていました。マルケスとマックレーが踊ったときにも、マックレーが必死で頑張って盛り上げようとしてたけど、逆に温度が下がっちゃってたもんね。

  その前にはマリインスキー・バレエのヴィクトリア・テリョーシキナとレオニード・サラファーノフ(当時)が踊ったのを観ました。あれが今まで観た中では最も良かったです。結局、「ジュエルズ」、「タランテラ」、「バレエ・インペリアル」、「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」など、バランシンの超有名どころの作品でさえも、比較対象となりうる模範的な、理想形的な踊りをまだ観られていない気がします。


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「マラーホフの贈り物 ファイナル」Bプロ(5月25日)‐1


  今回もメモだけねん。詳しい感想はまた後日~(たぶん)。


 『シンデレラ』よりシンデレラと王子のパ・ド・ドゥ(振付:ウラジーミル・マラーホフ、音楽:セルゲイ・プロコフィエフ)

   ヤーナ・サレンコ(ベルリン国立バレエ)、ウラジーミル・マラーホフ(ベルリン国立バレエ芸術監督)

  Aプロと同じ踊りです。マラーホフのパートナリングは、初日(21日)よりはマシになっていました。でも、お世辞にも上手とはいえませんでした(ごめんね)。ガタつきが目立ちました。

  私のカン違いだったら申し訳ないのですが、この演目のカーテン・コールで、果敢にもブーイングを飛ばした観客(男性)がいました。日本人独特の「ブラボー!」、「ブラー!」ではなく、口を両手で包み込むようにして叫ぶ「ヴー!」というくぐもった声です。欧米人がよくやるブーイングの声です。

  マラーホフのパートナリングが不調だった上に、正直に感じたところを言えば、この踊りは振付そのものが極めて凡庸です(本当にごめん)。ブーイングが飛んでも仕方ないと思います。


 『椿姫』より第一幕のパ・ド・ドゥ(振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:フレデリック・ショパン)

   マリア・アイシュヴァルト、マライン・ラドメイカー(シュトゥットガルト・バレエ)

  いわゆる「紫のパ・ド・ドゥ」です。一つの踊りというより、一つの「ドラマ」を見せてもらいました。アイシュヴァルトの踊りと表現、ラドメイカーのパートナリング、二人のパートナーシップ、すべてが見事でした。

  マルグリットが自身の病気と死への恐怖を押し隠して、最初はアルマンに「いかにも娼婦」的な態度で接していたのが、アルマンのまっすぐで純粋な愛に揺り動かされ、アルマンに惹かれていく気持ちとアルマンを拒まなくてはならないという気持ちとの間で葛藤した末に、ついにはアルマンに心を開き、愛の喜びに希望を見出す、というドラマが、踊りと演技とで語られます。

  アイシュヴァルトの爪先での雄弁な動き(←いつ見てもすごい!)と、アイシュヴァルトとラドメイカーのよどみない流れるような踊りとで、マルグリットとアルマンの気持ちが激しくぶつかり合う様が、凄まじい迫力をもって表現されていました。


 「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」(振付:ジョージ・バランシン、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)

   オリガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン(ボリショイ・バレエ)

  今日の公演では、なんとバランシンが3演目。バランシンって、踊るほうも難しいでしょうが、観るほうもかな~り難しいです。どう踊られるのが正しいのか、私には分かりません。

  ただし、スミルノワの踊りがまだまだ粗くて雑だということは分かりました。特に脚の動きが時に乱暴です。それから、この作品は「ダイヤモンド」という名のとおり、ダイヤモンドの持つ硬質感、奥深いところから輝く重厚な光と気高さを表現しなくてはならないと思います。

  その点では、まるで人間の男と女のありきたりな恋の踊りになってしまっていたように思います。


 「レ・ブルジョワ」(振付:ヴェン・ファン・コーウェンベルク、音楽:ジャック・ブレル)

   ディヌ・タマズラカル(ベルリン国立バレエ)

  Aプロと同じ演目です。今日もとても楽しめました。タマズラカルの髪の乱れ具合となびき方が実に良いんだよね。野暮ったいけどセクシーで。

  終わり方もユーモラスでした。もともとああいう終わり方だったっけ?最後にタマズラカルは膝をついて両腕をだらんと下げ、うなだれたまま動きません。観客は拍手していいのかどうか分からず、シーンとしています。するとタマズラカルはいきなりばっと両腕を広げて顔を上げ、「ま、仕方ないね!」という感じで首をかしげてニッと笑いました。その瞬間に照明がパッと消える。見事な間合いのはかり方です。

  観客は爆笑し、とたんに拍手と喝采の嵐になりました。タマズラカルはほんとに良いダンサーになったねえ(感嘆)。


 「ライト・レイン」(振付:ジェラルド・アルピノ、音楽:ダグ・アダムズ)

   ルシア・ラカッラ、マーロン・ディノ(ミュンヘン・バレエ)

  ラカッラは淡いグレーの全身レオタード、ディノは上半身が裸でラカッラの衣装と同じ淡いグレーのタイツ。

  これはすばらしかったです。ラカッラの長い脚、驚くほど柔軟な関節、鋭い動きを存分に生かした振付と踊りでした。ラカッラは、もともとこういう踊りのほうが向いているのではないでしょうか?

  ただただラカッラの超人的な身体能力に驚くばかりでした。最後にディノが仰向けに寝っ転がってラカッラを持ち上げながら開脚し(ディノも意外と脚が長かったのだ!)、ラカッラも続いて開脚するところには鳥肌が立ちました。二人の脚が交差して、まるで蜘蛛の足のようでした。

  ラカッラが踊るのであれば、また観たい作品です。(てか、これはラカッラのために作られた作品か?プログラムを買わなかったので分からん。)

  そーいえば、音楽が加藤茶の「ちょっとだけよ~」、「アンタも好きねえ~」ギャグのBGMみたいだったな。


   
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