イタリア国際 ロジャー・フェデラー総括‐2


 準々決勝 対 イェジ・ヤノヴィッツ(ポーランド)

   6-4、7-6(2)

  ヤノヴィッツって、去年秋のパリ・マスターズで上位選手を次々と倒して話題になった選手だな。でもそれより、すでに世界ランキングが50位前後だったのに、去年の全豪オープンにはお金がなくてエントリーすらできなかった、という逸話のほうが印象に残ってるわ。いくら優れた能力を持っている選手でも、資金がないと実績を上げるチャンスそのものが得られないんだなあ、と。

  その後、ちゃんとスポンサーがついたみたいで、テニスのニュースでヤノヴィッツの名をよく見かけるようになりました。でも、ヤノヴィッツはなんだか一部のファンの間で評判が良くないみたいです(「バカ打ち」、「自信過剰」といった声あり)。

  今回の大会でも、ヤノヴィッツはトップの選手たちを倒して勝ち上がって来ました。対ジョー・ウィルフリード・ツォンガ戦直後の写真を見たら、ヤノヴィッツは勝利した嬉しさのあまり、ウェアを両手でびりびりに引き裂いていました。リアル北斗の拳(笑)。

  そして今日の試合、ヤノヴィッツはポイントを取るたびに、こぶしを握った腕を大きく振り上げ、いちいちガッツポーズをしていました。あとは、なぜかぐずぐずして規定時間どおりに位置につかず、主審から注意を受けたりね(しかも注意されてるのに気づいてないしw)。たぶん、こういうふうに感情を激しく露わにするところや若さゆえの大胆不敵さに、今ひとつ好感を持てない人が多いんでしょう。

  ただ、ヤノヴィッツは決して「バカ打ち」選手ではないと思います。ビッグ・サーブとフォア・ハンドの強打が確かに目立ちますが、ネット・プレーもちゃんとやります。特に第2セットでの、ヤノヴィッツのこのプレーがすごかった。フェデラーのパッシング・ショット(3、4回)をことごとく遮り、最後に超鋭角のボレーで決めたところ。フェデラー顔負けのすばらしさでした。

  でもまだ若い(22歳)せいか、粗くて偏りが激しいというか、たくさんの武器を持ってるのに有効活用できてないというか。たとえば、第1セットではドロップ・ショットを異常なほど多用したかと思うと、第2セットではほとんど用いない。すばらしいボレーを持ってるのに、入りの良くないサーブやラリーでの強打一本に頼ろうとする。

  スコアこそストレートで、また試合時間も1時間20分ほどでしたが、フェデラーは手こずっていました。ヤノヴィッツが速いテンポで、ものすごくパワフルなリターンをラインぎりぎりに打ってくるので、フェデラーが後ろに押されながら打ち返す場面が多く見られました。

  またどうもヤノヴィッツはフェデラーの意表を突くところに打ってくるらしくて、珍しくフェデラーが振り回されていました。フェデラー持ち前の優れた反射神経のおかげで、なんとか間に合って対応できていた印象です。

  フェデラーは、200センチ前後の高身長から放つ強烈なサーブを得意とする、いわゆる「ビッグ・サーバー」を相手にするとき、まず自分のサービス・ゲームはきっちり守ります。そのせいで、「ビッグ・サーバー」である相手よりもサービス・エースを量産する結果になるようです。今回も同様で、ヤノヴィッツ(203センチ)の倍以上もサービス・エースを取っていました。ちなみにフェデラーの身長は185~6センチです。

  次にフェデラーがやるのは、相手のビッグ・サーブを逆利用して圧力をかけ、相手のミスを誘発していくことです。ジョン・イスナー(206センチ)やミロシュ・ラオニッチ(196センチ)と戦ったときもそうでしたが、相手の武器である超速ファースト・サーブをとにかく打ち返します。

  今回もヤノヴィッツの平均時速200キロを超えるサーブ(最速で236キロ!)を多く打ち返してました。これがラインぎりぎりに入るのです。更に相手のセカンド・サーブで積極的に攻めてポイントを取りにいきます。

  こうなると、相手は絶対にファースト・サーブを入れなくてはならないプレッシャーにさらされることになります。現に、ヤノヴィッツは徐々にダブル・フォールトが増えていきました。同時に、ボールをネットに引っかける、ボールがラインから外れる凡ミスも多くなりました。

  フェデラーは我慢して常にチャンスをうかがっていたようでした。第1セットでブレーク・ポイントを握ると、それを逃さずに決めて第1セットを取りました。ところが、第2セット、フェデラーは最初のサービス・ゲームを早々にブレークされてしまいました。

  そのままヤノヴィッツがリードして5-4となった第10ゲーム、ヤノヴィッツのサービス・ゲームです。ヤノヴィッツがキープすれば第2セットを取れます。ところが、ヤノヴィッツはその緊張のせいかプレーが硬くなりました。するとフェデラーはすかさずその隙を突き、ブレークし返して5-5のタイ・スコアに戻しました。

  第2セットはタイ・ブレークとなりました。フェデラーのリードで4-2になったあたりで、もう完全にフェデラーのペースになっている、試合の流れがフェデラーに傾いていることが分かりました。観客もフェデラーの勝利を期待して騒ぎ出します。

  (ヤノヴィッツにとって)嫌な雰囲気になったなあ、と観ていて思いました。案の定、フェデラーはこの流れに乗じてポイントを連取し、一気に決着をつけました。おっさん、大人の作戦勝ち。こういうふうに、相手を徐々に切り崩していく過程を見るのはすごく面白いです。

  今日の試合は、戦術、経験とメンタルの差でフェデラーに負けてしまいましたが、ヤノヴィッツは将来が非常に有望な選手だと思います。フェデラーは試合後、にこにこと相好を崩しながら、ヤノヴィッツの肩や胸を盛んに叩いて話しかけていました。よほどヤノヴィッツのことが気に入ったんだと思います。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )