(英題:12.12:THE DAY )韓国映画の好調ぶりを改めて確認できる一本だ。特に本作のような、近現代史にスポットを当てた大掛かりなシャシンでは、まさに正攻法のアプローチに徹して弛緩する箇所は見当たらない。これがもしも現時点で日本映画が似たようなネタを取り上げたならば、演技面で難のある“若手タレント”が少なからずキャスティングされて感心しない出来になったことだろう。
1979年10月26日、独裁者として悪名が高かった韓国大統領が側近に暗殺される。国民は民主的な政治体制に移行することを望んだが、暗殺事件の捜査責任者のチョン・ドゥグァン保安司令官は、次は自分が大統領の座に就いて強権を振るうことを望んでいた。彼は陸軍内の有志団体“ハナ会”の将校たちを引き連れて同年12月12日にクーデターを起こす。これに対して首都警備司令官イ・テシンは、事態を正常化すべくチョン・ドゥグァンの一派に敢然と立ち向かう。
70年代末に発生した監督の政変を、フィクションを交えながら映画化。本国では2023年で最大のヒット作になった。史実ではわずか9時間ほどの攻防だったらしいが、迫真性は高い。もっとも、鎮圧側の具体的な動きについては正確な資料が見つかっていない。そこで監督のキム・ソンスをはじめとするホン・ウォンチャンとイ・ヨンジュンによるシナリオ製作陣は、いかにも“それらしい”話を構築させている。そして、それは成功していると言って良い。
チョン・ドゥグァンが抱える微妙な屈託と、それに呼応する“ハナ会”の連中の理屈では割り切れない同属意識。もちろん、高潔な軍人として知られるイ・テシンの矜持は確かなものだが、言い換えればそれは軍律を遵守しているだけの堅物と片付けられる隙を見せている。後半、チョン・ドゥグァンが38度線に展開している空挺部隊をソウルに呼び寄せるくだりは、いかに彼らが国益よりも権力欲に囚われているがが活写され、しかもそれが当然のこととして扱われることを目撃するに及び、一面的な見方を拒否するほどの複雑系の有り様に感心するしかないのである。
キム・ソンスの演出は強力で、次から次へとヘヴィなモチーフを畳み掛けてくる。まさに息もつかせない。主役のファン・ジョンミンとチョン・ウソンをはじめ、イ・ソンミンにパク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘインなど、大半がオッサンのキャストも相まって、求心力は高まる一方だ。それにしても、韓国が民主制に回帰するまでにそれから長い時間を要したことは、このエリアが抱える地政的状況の複雑さを痛感せずにはいられない。