元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ピンクカット 太く愛して深く愛して」

2006-10-11 06:44:48 | 映画の感想(は行)
 83年にっかつ作品。ロマンポルノとして製作された一本だが、監督はあの森田芳光だ。といっても「(ハル)」以来鑑賞に堪えうる作品を撮っていない今の森田ではなく、デビュー間もない才気あふれる時期の作品である。

 伊藤克信扮する三流大学4年生の落ちこぼれ学生が主人公。このキャラクターが出色で、まず汚い部屋にアル・パチーノのポスターが貼ってあるところがおかしい。これは彼のアダ名が“栃木のアル・パチーノ”であることからくる楽屋オチで、さらに彼はその栃木弁を矯正するため英会話テープの日本語の部分だけを練習しているという、とんでもない奴だ。就職も決まらない悲哀もなんのその、“のの字かいてハァッ~”というミョーなあえぎ声(?)を出しつつベッドシーンに精を出している軽薄さに、日本の将来をほとんど絶望してバンザイ三唱したくなる・・・・と当時のキネマ旬報誌にあったけど、私もまったく同じ。

 彼の相手役が寺島まゆみ扮する女子大生で、学業のかたわら親の家業であった床屋を一人で切り盛りしているという設定。主人公も客の一人となるうちに彼女が好きになるが、実は彼にはすでにガールフレンド(井上麻衣)がいて、そのガールフレンドにも別の男がいるというややこしい関係だ。すったもんだの展開の後、もちろんハッピーエンドとなるまで、森田監督得意のすっとぼけたセリフと人を食った演出で大いに笑わせてくれる。

 ラストがふるっていて、なんと突然床屋を舞台にしたミュージカルになってしまう。スタッフの面々も客となって楽しそうに踊りまくる。

 森田監督はこの作品のすぐあとに傑作「家族ゲーム」を撮り、一大“流行監督”として名をはせるが、そのあとは知ってのとおりパワーダウンの一方。昔の栄光を知る者としてはもうちょっと頑張ってもらいたいものだ。

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2 コメント

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Re: 「(ハル)」以来. (ゴーシュ)
2006-10-11 09:21:53
おはようございます.「ロシアハウス」以来になりますが,寄らせていただきました. 過ごしやすい季節になりましたね.

森田監督に関しては,ほぼ同意見です.映画を作る作業自体はとてもロジカルなプロセスですが,映画そのものはもっと生理的なところに働きかける媒体だと思います.そこの部分で,コントロールできなくなったエリアというのが,森田さんの映画にはなくなったように感じます.映画が映画になろうとする瞬間に,手を離す勇気というところでしょうか.

「ハル」は確かに,こういう映画もあるのだと感心しました.ラストの出会い(少々矛盾する表現ですが…)がとても美しかったと記憶しています.

他のログも,例えば「ゆれる」や「蟻の兵隊」の副会長さんの言葉にはやさしさを感じますね.足りないところを良くしていきたいという,ブログの映画サイトに一番足りないかなと思う小生の素朴な疑問がホッと落ち着くとこで,思わず筆を取りました.
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こんばんは。 (元・副会長)
2006-10-11 23:06:18
 お久しぶりです。コメント、ありがとうございました。



 森田監督は確かに“才人”なのでしょうが、「ときめきに死す」以降は自分の頭の中で考えたスキームだけで映画を作っているような感じですな。それが観客のヴァイブレーションとピタッと合う“周期”がほぼ“10年に一度”ぐらいになってしまったのだと思ったりします。この「ピンクカット~」みたいに真に観客の側に立って肩の力を抜いたサービス精神を発揮すれば、まだまだイケる作家じゃないでしょうか。



 「(ハル)」は完成直後に湯布院の映画祭で観ましたが、それから一般公開まではかなりの時間を要しています。当時の配給会社の幹部達はああいうネタを理解するのが難しかったようですな(笑)。



 周りから“オマエのブログの文章は辛辣過ぎるぞ!”とのコメントをいただくこともある今日この頃ですが、こういうスタイルの文しか書けない身としては何も言い返せません(爆)。ですが、今後もまったりと続けていく所存です。ヨロシクお願いします(^0^)。
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