元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「大阪ハムレット」

2009-02-16 06:32:26 | 映画の感想(あ行)

 なかなか面白く観た。大阪らしい笑いと人情に溢れている・・・・とは陳腐なフレーズだが、本作はまさにその通りなのだ。たとえ大阪の風土が苦手な観客でも(笑)、少なくともこの映画を観ている間だけは大阪の街が好きになってしまうような、そういう魅力を持ったシャシンである。

 一家の主が突然死して、母親と3人の息子だけになってしまった家庭に、葬儀の途中に突然やってきた“父の弟と名乗るオッサン”がそのまま居着いてしまう。しかも、まだ女盛りの母と夫婦同然の生活に突入する。年齢より老けてみられる中3の長男は大学生と偽って偶然知り合った女子大生と交際中。中1の次男はヤンキー道まっしぐらで、小4の三男は学校で“ボク、女の子になりたい!”と口走って大騒ぎになる。

 原作は森下裕美の同名連作短篇コミックだが、3つのエピソードを抜き出して一本にまとめているという。通常、こういう作り方は総花的でまとまりの悪いものになりがちだが、本作の脚色(伊藤秀裕と江良至が担当)は上手い。普通に観ている限りでは複数の元ネタの寄せ集めとは思えない。

 この一家がこれだけの“異常事態”に際してまったく崩壊の兆しを見せないのは、それぞれが良い意味で“自立”しているからだろう。その中心になるのは松坂慶子扮する母親だ。めったなことでは動じない、それでいて自分の考えを押し付けるわけでもなければ、ヘンに“引いて”しまうこともない。ただそこにいるという存在感と清濁併せ呑むキャパシティの大きさが、少々の厄介事も帳消しにしてしまうのだ。加えて、明け透けな大阪弁のやり取りが、登場人物達が持つ屈託を微妙に緩和してゆく。

 正直言って不良中学生が担任教師から“キミはハムレットみたいやな”と指摘されて、本当にシェイクスピアを読むようになるとは思えない(笑)。しかし、好奇心を持って自由に生きることを奨励しているようなこの一家の空気が、違和感を払拭することになる。血の繋がりは重要ではなく、互いを信頼して一緒に歩むことこそが“家族”なのだと、ちょっと考えれば臭いテーマを大阪特有のあっけらかんとした語り口で納得させてしまう、この映画の力感は並大抵のものではない。

 光石冨士朗の演出はテンポが良く、ギャグも決して外さない。キャスト面では松坂の他に“オッサン”役の岸部一徳が絶品。図々しいのにマメで憎めないキャラクターを飄々と演じきっている。息子たち3人も達者だ。フィルム撮りではないので画面が荒いのが残念ではあるけど、まずは観る価値十分の佳作である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「カリートの道」 | トップ | 「夢」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(あ行)」カテゴリの最新記事