元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「まともじゃないのは君も一緒」

2021-04-12 06:28:56 | 映画の感想(ま行)

 とても楽しめる映画だ。タイトルにある“まとも”という、定義も許容範囲も曖昧であるにも関わらず、確固として社会的に通用してしまう概念を、ラブコメの形状を用いて考察してみる試みは実に興味深い。そして的確な筋書きと演出、さらにはキャストの目覚ましいパフォーマンスと見どころには事欠かず、これは本年度の邦画の収穫と言えるだろう。

 横浜市に住む女子高生の秋本香住は、夏期講習の担当になった若い予備校講師の大野康臣のことが気になって仕方がない。康臣は他人とのコミュニケーションが苦手で、今まで数学ひと筋で生きてきた。そんな彼に香住は“世間知らずで、普通の生き方が分からないままだったら、一生結婚できないよ”と、脅迫めいたことを言うのだった。

 そして香住は康臣に、レストランで見かけた若い女に手始めに声をかけてみることを強要する。実はその女・美奈子は、香住が心酔している青年実業家の宮本功の婚約者だった。康臣に美奈子を寝取らせることにより、自身が宮本にモーションを掛けようという、香住の“策略”が発動する。

 何とかして普通の生活を手に入れたい男と、偉そうにアドバイスはするが本当は恋愛未経験という小娘との掛け合いがケッ作だ。2人は意見の相違で幾度も衝突してしまうのだが、自身の状況を認識していないという点では一緒である。似たもの同士が相手のアラを見つけ出して糾弾するという、このままでは終わりが無いゲームを続けた挙げ句に、事態を進めるのは(当然のことながら)現実での“行動”であることが明らかになる。

 康臣は香住から無理強いされて美奈子と付き合うが、奥手な彼も実践に臨むと何となく良い感じになってしまう(笑)。香住も宮本とリアルで接すると、相手の“正体”が分かってしまう。そして、宮本も美奈子も見ようによっては“まともじゃない”ことが判明するのだ。だいたい“まとも”なる命題を追いかけること自体がナンセンスで、大事なのは他者との関係性をどう構築するかであるという“結論”を見出して、主人公2人が成長するという流れは観ていて気持ちが良い。

 高田亮のオリジナル脚本を映画化した前田弘二の演出は達者なもので、ストーリーが停滞すること無く滑らかに進む。特に会話のシーンは日本映画では珍しく優れている。主演の成田凌と清原果耶は絶好調で、ノンシャランな成田の持ち味と積極果敢な展開を見せる清原とのコンビネーションは万全だ。小泉孝太郎や泉里香、山谷花純、倉悠貴といった他の面子もイイ味を見せている。池内義浩のカメラによる、小綺麗な横浜の街の風景も魅力的だ。

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