元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「光にふれる」

2014-02-27 06:36:17 | 映画の感想(は行)

 (原題:逆光飛翔 TOUCH OF THE LIGHT )タイトル通り“光にふれる”ようなきらめく映像美を味わえた。同時に、作者の登場人物達を見つめるポジティヴな視点が心地良い。台湾映画の佳編である。

 主人公ユィシアンは生まれつき視覚障害を抱えているが、音楽的才能に溢れ、小さい頃から数々のピアノコンクールで賞を獲得していた。ところが、参加者の心ない中傷によってトラウマを抱え、コンクールへの出場に腰が引けるようになってしまう。そんな彼が台北の音大に視覚障害者として初めて進学する。周囲の学生と教員達は彼にどう接して良いか分からず、ユィシアンは当初ぎこちない学生生活を送ることになるが、音楽サークルの連中やダンサーを目指す少女シャオジエとの出会いを通して、徐々に自分の居場所を見つけるようになる。

 監督のチャン・ロンジーが製作した短編映画「ジ・エンド・オブ・ザ・トンネル(黒天)」を気に入ったウォン・カーウァイがプロデュースを買って出て、長編として仕上げたものだ。

 全盲の天才ピアニストであるホアン・ユィシアンを本人が演じている。まず、目は見えないが心の目は開いている主人公の描き方に無理がないのに感心する。ことさらに大仰に構えたり、いたずらにお涙頂戴に走る様子など、微塵も見せない。ユィシアンにとってこの世界が、多種多様なサウンドに溢れた一つの宇宙のようなものであるように、晴眼者にとっても“ふれる”ことの出来るほどの光に包まれていることを表現している。

 演技経験がほとんどない人物を起用するというのは危険性が伴うが、誰でも“本人”の役は演じられるわけで、そこに徹した作者の冷静さが光っている。キャストの中では主人公の母を演じたリー・リエが良い。ユィシアンが入学した際に何とか人並みの生活を送れるようにと、陰になり日向になりサポートする様子には心を打たれる。

 ヒロイン役のサンドリーナ・ピンナはフランス人とのハーフだが、よく動く身体と豊かな表情で嫌味無く演じきっている。ダンスシーンも手堅い。ユィシアンの父親や妹、ルームメイトになる気の良い太った学生、シャオジエの足を何かと引っ張る母親(注:本人には悪気は無い)など、脇のキャラクターにも目が行き届いている。

 そして驚いたのはダンス講師役のファンイー・シュウだ。世界的なダンサーでもある彼女は、ここでも神業的なパフォーマンスを披露しており、作品を大いに盛り上げる。

 自らの逆境や、負ってしまった心の傷に拘泥して、斜に構えて人生を送るのはつまらないことなのだろう。周囲を見渡せば、興味の尽きない“音”と“光”が満ちあふれている。それを表現するサウンドデザインと映像が絶妙に構築されている本作の価値は、けっこう高い。

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