元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「AI崩壊」

2020-02-22 06:55:30 | 映画の感想(英数)

 一見すると安っぽい活劇で、脚本にも難がある。だいたい、コンピューターが反乱を起こすというネタ自体が古めかしい。しかし、ここで扱われている主題はタイムリーでシリアスだ。言い換えれば、このテーマが今日性を獲得してしまう世相の方が問題なのだ。その意味では、観て損は無い。

 2030年の日本。成長が見込めなくなった国家を救うべく、天才科学者の桐生は医療AI“のぞみ”を開発する。それは全国民の個人情報や健康を管理する、社会基盤の一つとして確立してゆく。ところがある日、突然“のぞみ”が暴走を始める。生きる価値のない人間を勝手に選別し、容赦なく命を奪ってゆく。しかも、桐生の娘が“のぞみ”のサーバー室に閉じ込められるという事故が発生。

 一刻の猶予も無い状況の中で、警察庁の特命捜査官の桜庭は、この危機を招いたのは桐生であると断定。身に覚えのない容疑をかけられた桐生は逃亡を図るが、警察側は自前のAIシステム“百目”を駆使して桐生を追い詰める。一方、警視庁との連絡役として捜査現場に派遣された捜査一課のベテラン刑事合田と新人の奥瀬は、桐生を犯人だと決めつけるには証拠不足ではないかとの疑念を抱く。

 国民の個人情報を管理する“のぞみ”は、当局側ではなくHOPE社という民間企業が運営しているという不思議。桐生の逃避行は難なく街中をすり抜けたり、真冬の海に飛び込んでも平気で、かつてのAI開発のラボはそのまま放置してあるといった具合に、随分と都合良く描かれる。“のぞみ”の心臓部分の造型は“どこかで見たようなもの”であるし、事態の解決策も何やらハッキリとしない。

 普通ならば失敗作と断じるところだが、この事件を引き起こした犯人側の思考形態は実に興味深い。それは、行き過ぎた新自由主義である。加えて優生学と選民思想が入り交じり、一種のカルトの次元にまで入り込んでいる。すなわち、経済的弱者をすべて排除すれば“効率的な”世界が生まれるというものだ。もちろん、福祉やマクロ経済政策なんてのは“弱者を延命させる”という理由で全て否定。いくら困窮する者が増えても“自己責任”の名目で切り捨てる。

 ハッキリ言って、そんなのは“中二病”みたいな世迷いごとに過ぎないのだが、困ったことにその“中二病”が20年以上も世の中に蔓延っているのが日本の現状である。監督の入江悠はそんな社会派のスタンスを取る、今の邦画界では数少ない作家の一人だと思う。その手腕はいささか荒削りだが、軸がぶれないのは頼もしく感じる。これからもコンスタントに作品を手掛けて欲しい。

 桐生を演じる大沢たかおは相変わらず表情が乏しく、桜庭に扮する岩田剛典も演技が硬いのだが、三浦友和や賀来賢人、広瀬アリス、高嶋政宏、玉城ティナといった脇の面子が何とかカバーしている。AI(歌手の方ね ^^;)によるエンディング・テーマ曲も悪くない。

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