元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくたちの家族」

2014-06-14 07:45:17 | 映画の感想(は行)

 家族が一致団結すれば困難も乗り越えられる・・・・などという、気恥ずかしく聞こえるようなスローガンを何の衒いも無く差し出し、それが求心力を獲得してしまう希有な例を見たような気がした。主題を本気で信じている作者の信念が、小賢しく斜に構えた見方を許さず、骨太の感銘に結実している。間違いなく、今年度の日本映画の収穫だ。

 山梨県の地方都市に妻の玲子と共に住む若菜克明は小さな会社を経営しており、オフィスのある都内まで毎日通っている。長男の浩介はサラリーマンで、近々子供が出来る予定である。次男の俊平は大学生だが、卒業の目処は全く立っていない。日頃より物忘れが激しくなっていた玲子は、長男の嫁の両親との会席の場で言動が支離滅裂になる病状が発症。病院での検査の結果、脳腫瘍と診断され余命はわずか一週間だという。とんでもなくシビアな事態に直面した家族は狼狽えるが、やがてそれぞれの役割と矜持とを再確認し、この難局に挑んでいく。

 登場人物の一人が言うように、この家族は元よりバラバラだ。冒頭、吉祥寺のコーヒーショップで友人達と談笑する玲子が映し出されるが、集まりが終われば彼女は中央本線を走る電車に延々と乗り、都会とは懸け離れた田舎町に辿り着くしかないのだ。克明は勇んで起業したはいいが、業績を挙げられず経営は火の車である。浩介は仕事にも結婚生活にも倦怠感を覚えており、表情に覇気が無い。グータラな俊平は先のことなんか全然考えない。

 皆自分のことだけで手一杯で、家族を顧みる余裕は無かった・・・・はずだった。この状況の中で母親の急病が切っ掛けになり、全員エゴを捨てて一つになるという、絵に描いたような筋書きが成立するはずがない・・・・と誰しも思うところだが、それが達成されてしまうストーリー展開には呆気にとられてしまうと同時に、感心する。たぶん作者は“健全な家族なんか見当たらないが、バラバラな家族などというのも存在しない”というポリシーを持っているのだろう。

 それを裏付けるように、彼らがそれまで勝手気ままに行動しているように見えて、実は微妙なところで他の家族に依存している様子を暗示させる作劇が進められている。もちろん、家族の特定の誰かがヒーロー的存在感を発揮してどうのこうのという展開も皆無。それぞれ等価値であることこそが家族であり、登場人物達はその“本来のあり方”に戻るだけなのだといった主張が何の迷いも無く提示される。

 石井裕也の演出は丁寧かつ達者で、今回も既成の原作(早見和真の小説)を取り上げているのだが、オリジナル脚本に固執していた頃に比べると堅実さが増しているように思える。原田美枝子と長塚京三、妻夫木聡と池松壮亮というキャストも皆好演で言うこと無し。

 もっとも、外見は健常者の玲子はとても“余命一週間”には見えなかったり、浩介を取り巻く状況が都合良く好転していくあたりは不備だとは思うが、それを補って余りある作品の手応えに感服した。

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