元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サード」

2020-03-13 06:52:36 | 映画の感想(さ行)
 78年ATG作品。もしも十代の頃に観ていたら大きな影響を受け、このようなタイプの映画(ATG系等)こそが映画芸術の王道であり一般娯楽映画など鑑賞するに値しない・・・・などという“中二病”にしっかりと冒されていたかもしれない(大笑)。だが、あいにく私が本作を観たのはオッサンになってからで、リアリティよりも青春の甘酸っぱさが先行する好編という印象を持った。もちろん、アート系以外は映画ではないという青臭くも痛々しい考えとは無縁だ(苦笑)。

 関東朝日少年院に入院している妹尾新次は、高校の野球部で三塁を守っていたことから“サード”と呼ばれていた。彼は金欲しさに同級生の女子に売春を斡旋していたが、ある日客のヤクザともめ事を起こし、誤って相手を殺害した罪で収監されていた。新次は集団生活を基本とする少年院には馴染めず、特にリーダー格の少年とは相性が悪く、ケンカして独房に入れられることも珍しくなかった。時折面会にやってくる母親は退院後のことを何かと心配するが、新次にとっては鬱陶しいだけだった。



 ある日、一人の少年が院に送られてくる。数学IIBだけが取得で、通称“IIB”と呼ばれている奴だ。作業場から院生の一人の少年が脱走したのに乗じて“IIB”も逃走を図るが、あえなく捕まってしまう。新次はそんな彼を苦々しく思うのだった。軒上泊の小説「九月の町」の映画化で、脚本は寺山修司が担当している。

 新次は、ロングヒットを打ってサードを回ってホームに向かうとホームベースがなく、仕方なくそのまま走り続けるという夢をよく見る。若い頃の不安感の描出としては幾分図式的かもしれないが、主人公の(バックグラウンドを含めた)造型が上手くいっているので気にならない。

 軽い気持ちで売春斡旋に手を染め、成り行き上殺人を犯す。彼の中ではすべてがライト感覚で物事が進んでいたはずが、気が付けば牢獄の中で自己批判を強いられる日々を送っている。今頃になって未熟さを自覚しても、遅い。だが、それでも彼は走り続けなければならない。新次の目の前にある果てしない道、しかも先は靄のかかったグラウンドのように何があるか分からない。もがき苦しみながら走る“宿命”を負った彼の姿に、粉飾抜きの普遍的な青春像を見出して観る者は感銘を受ける。

 少年院の面々は個性豊かだが、それぞれが作者の個性の一断面を象徴しているようで興味深い。東陽一の演出は強靱かつしなやかで、後年の彼の作品に見られる曖昧さは無く、最後まで弛緩しない。主役の永島敏行は堂々とした演技で、とてもこれが映画出演第二作目の駆け出し俳優とは思えない。

 吉田次昭に西塚肇、根本豊、若松武といった少年院仲間に扮した連中も良い味を出しているし、母親役の島倉千代子は意外な好演で驚かされる。ヤクザ役の峰岸徹もサマになっていた。そしてヒロインを演じる若い頃の森下愛子は、とにかく可愛くてエロい(笑)。このように“当然のように身体を張る若手女優”が少なくなった昨今は寂しい限りだ。川上皓市による撮影もまた見事で、特に新次が収監される道すがら目にする“九月の町”の存在感には瞠目するしかない。

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