元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「1917 命をかけた伝令」

2020-03-09 06:27:16 | 映画の感想(英数)
 (原題:1917)まるで期待外れ。米アカデミー賞の主要部門で無視されたのも当然と思われるような冴えない出来だ。宣伝では“驚異の全編ワンカット!”という惹句が躍ったが、ほぼ一日の出来事をワンカットで2時間以内に収められるはずもなく、少し考えればそれは間違いだと誰でも分かる。しかし、ワンカット云々を除外しても、本作のクォリティが低いことは明白だ。

 1917年、第一次世界大戦中のフランス戦線。ドイツ軍は後退しつつあったが、それは戦略的なものであり、連合国軍を自陣へと誘い込もうとする罠だった。イギリス軍はその事実を航空偵察によって把握していたが、前線のデヴォンシャー連隊は何も知らされておらず、危険な進軍を実行しようとしていた。通信線も切断されて一刻の猶予も許されない中、エリンモア将軍は若い上等兵のスコフィールドとブレイクに、連隊のマッケンジー大佐に作戦中止を伝える任務を託す。だが、急いで駆けだす2人の前に、ドイツ軍の仕掛けた数多くのトラップが待ち構える。



 まず、ドイツ軍の計画を航空偵察で知ったのならば、どうして前線まで偵察機を飛ばして連隊に知らせないのか理解できない(それが不可能だったという説明も無し)。敵軍の塹壕で危険な目に遭っても2人はかすり傷一つ負わず、ドイツ軍占領地で連合国軍兵士は彼らだけかと思ったら、前触れもなく味方がひょっこり現れたりする。ドイツ兵が至近距離から撃った銃弾は一発も当たらず、追われて川に飛び込んだらいつの間にか連隊の野営地に着いてしまうという御都合主義。

 最前線で大佐に報告へ行く途中では、スコフィールドは意味も無く塹壕から飛び出て全力疾走する始末。ラスト近くになると、エリンモア将軍の“大佐に報告するときは第三者を入れろ”という最初の命令も、どこかに置き忘れている。

 それでも映像や演出にキレ味があればそれほど大きな不満を抱かずに観ていられるものだが、本作はその点も落第。とにかく緊迫感が希薄で、監督が007シリーズを手掛けたサム・メンデスであるせいか、全体的にアクション映画のノリなのだ。戦争の悲惨さなんか、ほとんど表現出来ていない(ただ死体を並べておけば良いというものではない)。少なくともスピルバーグの「プライベート・ライアン」やメル・ギブソンの「ハクソー・リッジ」などに完全に負けている。

 主演のジョージ・マッケイとマーク・ストロングは、単なる好青年というレベルを超えていない。ベネディクト・カンバーバッチやコリン・ファースも出ているのだが、印象に残らず。トーマス・ニューマンの音楽はまあいいとして、ロジャー・ディーキンスによるカメラワークはワンカット云々に足を引っ張られて精彩を欠く。

 さて、手練れの映画ファンならば本作の設定を見て、ピーター・ウィアー監督の「誓い」(81年)を思い出す向きも多いだろう。舞台が第一次大戦であることも、無謀な作戦を止めるために主人公が伝令として敵陣地を突っ切って疾走することも共通している。しかし、ヴォルテージは圧倒的にピーター・ウィアー作品の方が高い(ラストなんか、胸が締め付けられるほどの感動を味わえる)。あの映画に比べると、この「1917」の不甲斐無さが一層際立ってしまう。

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