元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あなたを抱きしめる日まで」

2014-04-06 06:15:00 | 映画の感想(あ行)

 (原題:PHILOMENA )これはひょっとして、カトリックを糾弾する映画なのだろうか。ちなみにニューヨーク・ポスト紙は本作を“カトリックへの悪質な攻撃である”と評し、製作者側とちょっとした“論争”になっているらしいが、いずれにしても本分であるヒューマン・ドラマよりも宗教に対する視点の方が気になってしまう作品である。

 1952年のアイルランド。シングルマザーになった少女フィロミナは親から勘当され、修道院に入れられる。そこでは禁欲的な生活を強いられた挙げ句に、幼い息子アンソニーは無理矢理に里子に出されてしまう。もちろん息子の行方は知らされないままだ。50年後、イギリスに移住した彼女は娘ジェーンに昔生き別れた息子のことを打ち明ける。ジェーンはリストラされたばかりのジャーナリストのマーティン・シックススミスに話を持ちかけ、母と一緒に息子を見つけてくれるように頼む。こうしてフィロミナとマーティンの人探しの旅が始まる。原作はシックススミス自身による実録ルポだ。

 つまりは、カトリック系修道院が未婚の若い母親達の“強制収容所”になり、子供は高値で金持ちに売り飛ばしていたという、あくどい遣り口が暴かれるというわけだ。50年ほど前の話だというが、見方を変えれば“わずか50年前”にこんな前近代的なことが行われていたのである。

 しかも、その“後遺症”は現在でも続いており、行方不明になった子供を探している当時のシングルマザーが今も多数いるという。さらには映画の終盤で明かされる“真実”は、雰囲気としては「ダ・ヴィンチ・コード」の世界だ(爆)。こういう宗教がらみのネタは、観る側に興味がなければ“縁のない話”であり、私もほとんど引き込まれなかった。

 ならばつまらない映画かというと、そうでもない。それは、主役二人の珍道中を追うバディ・ムービーとしては面白く出来ているからだ。ハーレクイン・ロマンスが大好きな下町のオバチャンであるフィロミナと、インテリ臭が鼻につくマーティンは、普通に考えれば絶対に接点がないはずのキャラクター同士だ。それがひょんなことから一緒に旅をするハメになる。当然のことながら最初は会話がかみ合わず、ヘタすると意思の疎通もままならない。それがやがて相手の立場を理解していくようになるプロセスは、スティーヴン・フリアーズの丁寧な演出もあり、納得できるものになっている。

 演じるジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンは絶好調で、絶妙なユーモアを醸し出し、観る者を飽きさせない。アレクサンドル・デスプラの音楽は幾分ウェットだが、旋律美は忘れがたい。ロビー・ライアンによる撮影も見事。寒色系でシャープな画面造形は惹きつけられる。

 ただし、この邦題はいかがなものか。まるで安手のライトノベルのタイトルではないか。ひょっとしたら、ヒロインがロマンス小説の愛読者だから、題名もそれに準拠したのかもしれない(まさか ^^;)。

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