元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「銀平町シネマブルース」

2023-02-25 06:49:00 | 映画の感想(か行)
 映画館に対して特段の思い入れがある観客は、本作をとても面白く感じるだろう。反面、そうではない者にはこの映画は響かない。ならば私はどうかといえば、基本的に“映画は劇場で観るものだ”というスタンスを取っている手前、この映画の題材は興味深い。しかし、この映画を楽しんで観る層とは、おそらく映画館の在り方についての見解が違う。そこが本作の評価にも繋がってくる。

 主人公の近藤猛は、一文無しのまま若い頃に過ごした銀平町に帰ってくる。昔の友人を頼ろうとしたが断られ、おまけに映画好きのホームレスの佐藤にカバンを奪われて“泣きっ面に蜂”の状態になった猛に救いの手を差し伸べたのが、地元にある映画館の支配人の梶原だった。猛は梶原の紹介で、町の映画館の銀平スカラ座で住み込みで働き始める。



 スカラ座は封切館ではなく、旧作映画を主体に上映する名画座だ。建物も設備も古く、番組は往年の名画を中心にしているため客層は限られており、いまだ営業を続けられているのが不思議なほどである。この、ビジネス的には“終わっている”劇場を本作はノスタルジーたっぷりに描く。

 猛は実は元映画監督で、未完成の作品が自前のPCの中に格納されているとか、佐藤がいわゆる“生活保護ビジネス”に関わったりとか、猛の昔の仕事仲間が急逝していたとか、本作にはいろいろと無理筋なプロットが詰め込まれている。それらも映画館へのノスタルジーというオブラートに包めれば気にならないのかもしれないが、あいにく映画を一歩も二歩も引いて見てしまう当方にとっては単なる瑕疵としか思えない。

 後半にはスカラ座が自主映画の発表の場になって注目を浴びるというネタが織り込まれるが、取って付けたような印象だ。そもそも、登場人物たちは映画館を愛しているという設定にも関わらず、終映後のゴミだらけの客席を批判的な視点も無しに描いたりと、不用意な点が目立つ。城定秀夫の演出はいつも通り手堅いが、いまおかしんじの脚本が万全ではないので割を食っている。

 例の不祥事からの復帰作になった小出恵介をはじめ、吹越満に宇野祥平、藤原さくら、日高七海、小野莉奈、さとうほなみ、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、そして故・渡辺裕之などキャストは皆好演ながら、どこか“薄味”に感じるのは作品のレベル所以だろう。なお、私自身は劇中のスカラ座のような映画館は役目を終えたと思っており、淘汰されても仕方がない。ノスタルジー派にとっては不本意だろうが、これが“時代の流れ”というものだ。

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