元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ファウスト」

2012-07-14 06:33:57 | 映画の感想(は行)

 (原題:FAUST )面白くない。お馴染み文豪ゲーテの名作を、ロシアの巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督が映画化したものだが、主題が絞り切れておらず散漫で要領を得ない。2011年のヴェネツィア国際映画で大賞を得ているものの、有名アワードの受賞作が必ずしも良い映画とは限らないという、いわば当たり前のことを再認識する結果になってしまった。

 冒頭、死体の解剖シーンがヴィヴィッドに描かれる。ファウスト博士(ヨハネス・ツァイラー)は“魂はどこにある”と呟きながら内臓を探るが、この時点では観客誰しも“魂の本質を探ろうという高尚なテーマを掲げているのだろう”という印象を受けるだろう。しかしこのネタが提示されるのはここだけなのだ。

 少女マルガレーテ(イゾルダ・ディシャウク)と一夜を過ごすため、悪魔(本作では高利貸し)のマウリツィウス(アントン・アダシンスキー)と契約を結ぶくだりは原作を追っているようだが、人工生命体ホムンクルスや猥雑な街の人間模様などが単発的に挿入され、作劇は混迷の度を増すばかり。

 もっとも、ソクーロフの作品に平易なドラマツルギーを求めても無駄なのだが、今回はそれを補わなければならない映像の喚起力も低調のままだ。

 導入部の安手の“特撮”をはじめ、わざとらしく彩度を落とした画面、不器用に映像を歪ませる処理など、ソクーロフにしてはアイデアの質が低い。「エミルタージュ幻想」の驚くべき長回しや、「太陽」でのシュールな絵作り等と比べても、相当落ちる。

 ダンサーでもあるアダシンスキーの怪演こそ見応えがあるが、作品自体としては“何を言いたいのか分からない”といったレベルに留まっており、観る価値はあまり無い。グノーのオペラ「ファウスト」の映像をテレビで眺めていた方が数段マシである。

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