元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「すべてが変わった日」

2021-09-05 06:52:36 | 映画の感想(さ行)
 (原題:LET HIM GO)時代設定は1960年代初頭だが、勇敢な主人公が悪者どもと対峙するという筋書きは、間違いなく西部劇だ。しかも登場人物の内面はよく描き込まれており、そして何といってもスクリーンの真ん中にいるのがスター級の面子なので、観た後の満足感はとても高い。もっと拡大公開されてしかるべき映画だ。

 1963年、モンタナ州の片田舎で牧場を経営する元保安官のジョージとマーガレットのブラックリッジ夫妻は、息子のジェームズとその妻ローナ、そして生まれて間もない孫のジミーと共に暮らしていた。ところが不慮の落馬事故により、ジェームズが死亡してしまう。3年後、ローナはドニー・ウィボーイという男と再婚する。



 ドニーは結婚前はマジメに見えたが、実は暴力的な男だった。しかも、ジョージたちには内緒で実家のあるノースダコタ州に転居する。ジョージとマーガレットはローナとジミーに会いに行くが、そこは強圧的な女家長のブランシュが支配する異様な一家だった。話が通じないばかりか理不尽な暴力まで受けたジョージたちは、実力行使でローナとジミーを助け出そうとする。

 中盤以降に展開するバイオレンス場面はサム・ペキンパー監督の作品を思わせるが、登場人物の内面は良く描き込まれていて話が殺伐とした感じにはならない。ジョージはかつて法の執行者であった矜持を今も持っており、不正に対しては断固とした態度を取る。マーガレットとローナは、いわゆる“嫁と姑の関係”であり、一見上手くやっているようで、実は微妙な屈託や不満が腹の中では渦巻いているという描写は出色だ。ブランシュにしても、苦労を重ねた末に狷介な性格になり、辺境の地から離れられないという設定には説得力がある。

 そして何より、ケヴィン・コスナーとダイアン・レインというかつてのスター同士が、逆境に追いやられた初老の夫婦を演じるというのは感慨深い。この2人は「マン・オブ・スティール」でも夫婦役だったが、こういう役に挑戦するというのは見上げたものだ。特に“私たちは年を取った。でもまだ老人ではない”と言い切る場面は感動的だ。

 また、不幸な生い立ちである先住民の青年を登場させたのも、ドラマに奥行きを持たせている。トーマス・ベズーチャの演出は重量感がある。そしてガイ・ゴッドフリーのカメラによる、西部の雄大な風景。マイケル・ジアッキノの味わい深い音楽も良い。
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