元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アンダー・ファイア」

2019-08-11 07:05:15 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Under Fire)83年作品。映画とは娯楽には違いないが、一方で世界の実相を伝達するメディアであることも事実だ。たとえばピーター・ウィアー監督の「危険な年」や、ローランド・ジョフィ監督の「キリング・フィールド」(84年)などがその典型で、映画で扱われなければ、彼の国で何が起こっていたのか、我々の大部分は知る由も無かっただろう。

 本作で描かれるのは中米ニカラグアの内戦である。79年。ニカラグアの首都マナグアで、報道写真家のラッセル・プライスはタイム誌の記者アレックスと放送記者のクレアに再会する。折しもこの国ではソモサ大統領が独裁制を敷き、それに対して、サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)が武装闘争を展開していた。

 そんな中、政府はFSLNのリーダーであるラファエルの暗殺に成功したと発表。早速ラッセルはゲリラの案内でFSLNの本部に取材しに行くが、そこで死亡したラファエルを生きているような格好をさせて、写真を撮ってくれと頼まれる。そんなことはジャーナリストの倫理に反することだが、ラッセルは悩んだ末に撮影を実行する。戦火は拡大し、ラッセルが本部で知り合ったゲリラたちも悉く犠牲になるが、その裏でフランスの武器商人ジャージーが暗躍していた。

 正直言って、私はこの映画を観る前はニカラグアの内戦のことはほとんど知らなかった。サンディニスタという名も、その昔英国パンク・バンドのクラッシュがアルバムタイトルに起用したのを認識している程度だ。その意味では、本作は世界のアクチュアリティを観客に伝える機能が備わっているといえる。

 アメリカ人ジャーナリストを主人公に据えて、一見して米国は中立であるような構図を示しているようで、実は大きく関与していたことは革命後の展開でも明らか。軍産複合体が引き起こす惨禍は、枚挙にいとまがない。ラッセルの行動は無謀すぎるし、彼が撮る写真の数々も大してクォリティは高くない。また、ラッセルとかクレアとの色恋沙汰も取って付けたようだ。しかしながら、ヒューマニズムの押し付けを回避してリアルな状況を映し出そうとする姿勢は好感が持てる。

 ロジャー・スポティスウッドの演出は、派手さは無いが堅実。主演のニック・ノルティをはじめ、ジーン・ハックマン、ジョアンナ・キャシディ、エド・ハリス、ジャン・ルイ・トランティニャンなど、キャストは重量感がある。ジョン・オルコットの撮影と、ジェリー・ゴールドスミスの音楽は職人芸だ。
コメント
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